第7話 隠れ家


「止まって!」

 洞窟を歩いていると、突然行く手を阻まれました。

「だれなの、あんたたちは?」


 瑪瑙はシルユリをかばって、一歩前へ出て言いました。

「あたしはリリットの瑪瑙。こっちはユリコーンのシルユリ」

 それを聞くと、相手はホッとしたようでした。


「アル・ブレヒトじゃないわ。お姉ちゃん」

「まったく、あんたっていつまでたっても無鉄砲で脳天気なんだから」

 闇の中から、ふたりのリリットが顔を出しました。

「あたしは木犀もくせい、こっちは妹の罌粟けし。あたしたち双子のリリットなの」


 洞窟の横穴に作られた住居に瑪瑙たちを案内しながら、木犀が言いました。

「アル・ブレヒトに村を襲われてから、あたしたち姉妹はずっとこの隠れ家に住んでるの。仲間のリリットは、みんな殺されるかハウスへ連れていかれちゃったわ。あなたたちも、やつらの手から逃れてここへ来たのでしょう?」

「あたしたちはハウスから逃げてきたの」

「ええっ!?」

 姉妹たちは驚いていました。ユリコーンの蜂起を知ると、もっと驚いていました。


 木犀と罌粟から、瑪瑙とシルユリはささやかなもてなしを受けました。

 双子のリリットは、ときどき地上に出ては薬草ムーンミントや木の実などの食べ物を探して持ち帰っていました。しかしその量はけっして多くはなく、少ないなかから分け与えてくれる姉妹に、瑪瑙たちはとても感謝しました。


「ユリコーンを隠れ家に招く日がくるなんて、夢にも思わなかったわ」

 と罌粟が言いました。

「ユリコーンは絶滅しちゃったものとばかり思ってもん」

「アル・ブレヒトは他種族を排斥して最終解決を本気で実行しているわけでもないのかもね」

 姉の木犀も言いました。

「最終解決が実行されていれば、もう誰も生き残ってないはずだもの」

「あたしが言った通りでしょう」

 と妹の罌粟が言いました。

「アル・ブレヒトはたしかにひどいやつらだけど、生命の本質は善だってあたし信じてるもん」

 瑪瑙は安心したのか、シルユリによりかかってうとうととしていました。



「キャーーッ! やめて、やめて! 殺さないでーーっ!」

「瑪瑙! しっかりして、瑪瑙!」

 シルユリにゆさぶられて、瑪瑙は自分が絶叫していることに気づきました。

「はあ……、はあ……、はあ……」

 目を覚ました瑪瑙は、怯えた目つきでシルユリを見上げました。

「こ、ここはどこ……?」

「洞窟の中だよ。木犀と罌粟の住まいだよ」

 頭がはっきりにするにつれて、ハウスの幻影は消えていきましたが、体中汗びっしょりで、心臓は胸を突き破りそうでした。

「あたし、ハウスにいる夢を見たの……、ハウスにいる夢を……。うっ、うわあああっ……」

 泣きだした瑪瑙の背中をやさしくたたいて、シルユリがなぐさめてくれました。


 悪夢は毎日のようにやってきました。

 ハウスから脱出したはずなのに、ハウスの幻影が瑪瑙に纏わりついて離れませんでした。

 切り裂くような悲鳴を上げて飛び起きた後は、シルユリに抱き着いてずっと泣いていました。

「眠りたくないの。眠るのが恐いの……」

 瑪瑙はシルユリに訴えました。

 そばでその様子を見ていた木犀と罌粟は、わけがわからず、ただ寄り添って、ブルブル震えていました。


「このまま幻影に怯えて暮らしていては、瑪瑙の心が壊れてしまう……」

 シルユリは隠れ家から出て行く決心をしました。

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