第8話 光の中へ…


 木犀と罌粟の姉妹と別れて、瑪瑙とシルユリは洞窟の中の旅を続けました。

 幾日も歩いた末、ついに出口にたどりつきました。


「見て、シルユリ!」

 そこは湖を見下ろす、高い高い山の上でした。

「なんてすがすがしいんでしょう」

 瑪瑙は小さな体で大きな伸びをしました。


「きゃっ! つめたい!」

 湖に足をつけて瑪瑙ははしゃぎました。

 陽射しを浴びてお昼寝しているときには、悪夢はやってきませんでした。


 ハウスでの悪夢が嘘のように、世界は生命の息吹で溢れていました。


 小鳥を見つけて話しかけたり、葉っぱの陰に隠れた虫を見つけてむふふと笑ったり、瑪瑙はだんだん元気を取り戻しました。 


 夜眠る時だけは、シルユリにしっかりと抱き着いて眠るようになりました。

 たとえどんな悪夢が現れても、シルユリが側にいれば安心だと思ったからです。


「ねえ、シルユリ。アル・ブレヒトの最終解決って、この世界をひとりじめしちゃうことなの?」

 瑪瑙は湖を囲む景色をぐるりと指さしました。

「こんなに広い世界をどうしてひとりじめしちゃおうなんて思うのかしら?」

 シルユリも瑪瑙のそばにやってきて、大きく息を吸い込みました。

「まったく、アル・ブレヒトの考えることはよくわからないね」


 瑪瑙はシルユリのお膝に乗って夕日で赤く染まった湖を見ていました。

 ここはとても穏やかで安心できます。

 ずーーっとシルユリとふたりで湖のほとりで暮らすのも悪くないと思いました。

 しかし、それではダメなのだと感じていました。

 シルユリは仲間を探して、瑪瑙は種をもらうために、旅を続ける必要があるのです。

 もうたっぷりと休みました。

 おかげで、なりをひそめていた好奇心がむくむくとわきあがってきました。

 瑪瑙自身が、旅に出たくて仕方がなかったのです。


「さて、これからどうする?」

 シルユリが尋ねました。

「リリット村に帰るかい?」

「ううん」

 瑪瑙は首を横に振りました。

「シルユリといっしょに行くわ。ユリコーンの谷を探しにね。それでいいでしょう? ハウスから脱出して散り散りになってしまったユリコーンたちも探さなくちゃいけないし、これから大変よ。だけど、二人でいっしょなら、そんなのどうってことないわよ」

 シルユリは瑪瑙をまじまじと見つめました。

「瑪瑙、君は大きくなったね」

「え? そりゃあそうよ。だってもうすぐ6つなんだもん」


 しばらく湖に滞在した後、ふたりは旅を再開しました。


 山道を登って下って、また登ってを繰り返していると、景色は移り変わり、草は伸び、花は咲き、季節は確実に暖かくなっていくのがわかりました。

 瑪瑙はぴょんぴょん飛び跳ねながら歩きました。ときどき、足が痛そうにしているシルユリに手を貸したりもしました。


「もし、またアル・ブレヒトに出会ったら」と、瑪瑙は言いました。「一目さんに逃げようよ。もう二度とつかまったりしないわ」

「そうだね、そうしよう」

「聞いたことがあるの、リリットは大地の申し子だって。他のいかなるものにも属したりしないって」

 シルユリはうなづきました。

「そうだとも。そしてユリコーンは、いつも君たちとともにある」


 瑪瑙とシルユリはユリコーンの谷を探して旅を続けました。ふたりの行く手には、暖かく穏やかな陽射しと、まだ見ぬ世界が広がっていました。

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