第4話 はじめての種


 ユリコーンの船の中で、瑪瑙は奇妙な感覚におそわれた。


 今まで感じたことのなかった、体の奥から暖かくなってくるような、不思議な感覚だった。


「なんかへんなかんじ」


 その感覚はどんどん強くなって、シルユリの近くにいるともっと強くなった。


 その様子に気づいたシルユリが言った。


「ああ、そうか。君は6歳になったんだね。おめでとう、瑪瑙」


「6歳に! あたしついに6歳になったんだ!」


 6歳は一人前のリリットになった証。それは、次の世代のリリットを生み出す準備ができたことを意味していた。


 つまり、いつでも種がもらえるのだ。


「種! 種! ほしい!」


 瑪瑙はシルユリの裾をひっぱっておねだりした。


「種ちょうだい!」


「私でいいのかい?」


「シルユリがいいの! あたし初めてはシルユリとって決めてたの!」


「そうか、おいで」


 手をつないでふたりは開いているコンパートメントに入り、ベッドに腰かけた。


「なにが、はじまるの?」


 瑪瑙は緊張した面持ちでシルユリを見つめた。


「だいじょうぶ。力を抜いて、私に身を委ねて」


 シルユリの顔が近づいて、瑪瑙の頬にキスを落とした。


 嬉しくてくすぐったくて、瑪瑙は変な声をもらしてしまった。


「ひゃーーっ!」


 頬だけではなかった。身体のあちこちにシルユリのキスが降ってきた。


 それは愛情の表現なのだと瑪瑙はすぐに理解できた。


 シルユリの手と、キスがとても気持ちが良くて、瑪瑙の中でなにかがぐるぐると暴れまわった。


「なにこれ? ぐるぐるぐるって……」


「マナだよ。抑え込まないで。流れに身をまかせて」


 シルユリの指の動きのひとつひとつに、瑪瑙のこころはもちあげられ、キスを落とされた場所が、じんじんするくらいほてった。


「あれ……? なんかへん……」


「私の妹に祝福あれ」


「シルユリィ……」


 瑪瑙は息も絶え絶えで愛する人の名前を呼んだ。


「私のことはお姉さまと呼んで」


「お姉さまぁ……あっ……」


 その瞬間、瑪瑙からマナが溢れ出し、シルユリのマナと混じり合った。


 マナは凝縮し、気体から固体へと変化していった。


 固体はやがて小さな種になった。

 

 シルユリが虚空に目を凝らし、さまよえる魂をつかまえて種に吹き込むと、儀式は終わりを告げた。




「大丈夫かい?」

 種づくりは慣れないうちは身体にかなり負担がかかる。

「うん、お姉さま」

 手のひらの上には出来たばかりの小さな種。

「これが種……。お姉さまとあたしの……」

 そうつぶやくと瑪瑙はストンと眠りに落ちた。

 出来たばかりの種をだいじそうに胸に抱えたまま。



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