第2話 捕獲~移送
金の谷を出て、しばらく行くと、地面の上に二本の鉄の棒が平行に並べられている場所に着きました。
その鉄の棒は、地平線の彼方から始まり、地平線の彼方に消えていました。
「これはなんなの?」
瑪瑙は冷たい鉄の棒を触りながら尋ねました。
「レールというものだ」
とシルユリは答えました。
ブオーッ!
遠くから不気味な音が聞こえてきました。
瑪瑙は地平線の彼方に目を凝らしました。
何かがものすごいスピードで近づいて来るようでした。
ゴゴォォーーッ!
巨大な鉄の箱が轟音を上げて、ふたりのそばを走り抜けました。
「キャーーッ!」
瑪瑙は悲鳴を上げて、シルユリにしがみつきました。
「あれなに? なんていう生き物?」
不吉な予感が、瑪瑙の全身をかけぬけました。
「あれは列車だ。アル・ブレヒトが作ったレールの上を走る道具で、生き物じゃないんだよ」
「何をする道具なの?」
「物を運ぶための乗り物だと聞いたことがある」
「いったい何をどこへ運ぶの?」
「わからない」
その答えをまもなく知ることになろうとは、瑪瑙もシルユリも夢にも思いませんでした。
ザザッ!
草木をなぎ倒して、突然現れた緑色の制服の人たちに、瑪瑙とシルユリは取り囲まれてしまいました。
「ハッ!」
瑪瑙は息をのみました。アル・ブレヒトです。
鉄のヘルメットをかぶったアル・ブレヒトたちは、銃口をふたりに向けて、レールの方へと追い立てました。レールの先には、先ほど轟音を上げて通り過ぎていった列車が止まっていました。
一番後ろの扉が開けられ、瑪瑙は鉄の箱の中に放り込まれました。
扉は即座に閉じられ、周囲は真っ暗になりました。
「あの子をどうするつもりだ?」
と尋ねるシルユリが、銃床でいやというほど打たれ、どこかへ連れて行かれる音がきこえました。
「シルユリーーッ!」
瑪瑙の叫び声は、鉄の箱の中でこだまするだけで、外へは届きませんでした。
ガタン、ゴトン。
列車が動き出しました。
光のささない鉄の箱の中で、瑪瑙は途方に暮れてしくしく泣いていました。
冷たく乾いた壁と床は、瑪瑙の心をいっそう心細くしました。
いったい何が起こったの? アル・ブレヒトはなぜあたしを列車に乗せたの?
彼らはシルユリをどこへ連れていったの?
ペタッっと、背中に冷たいものが触れて、メノウはビクッと飛び上がりました。
「きゃっ!」
「へえ、あんたはまだ驚くなんて芸当ができるんだ」
と、冷たい手の主は言いました。
「あたしにはもう無理だね。ここに入れられて5日になるんだ。水も光も与えられず、ここにいる全員が、生きる希望を失い、枯れるのを待っているだけなのさ……」
わずかなすきまの光に目が慣れてくると、瑪瑙にも鉄の箱の中に詰め込まれた大勢のリリットたちの姿が見えてきました。
「あたしは瑪瑙っていうの、5つになったばかりよ。あんたは?」
「
「この列車はどこへ向かっているの?」
「わからない。走ったり止まったりを何度も繰り返して、もう5日目。あたしたちは、じわじわと枯れ果てるのを、ただ待つのみ……」
「あたしたちはユリコーンの谷探しの旅をしていたんだ。ユリコーンの谷を見つけたのはいいけど、そこへ突然アル・ブレヒトがやってきて、みんな……」
「あたしもユリコーンといっしょに旅をしていたの。シルユリも捕まっちゃって、シルユリのことがものすごく心配なの」
と瑪瑙は言いました。
シルユリのことを考えると、涙がポロポロとこぼれてしまいました。
「ユリコーンなら、一番前の車両に詰め込まれているよ。連絡はとれないけどね」
「ほんと? じゃあ、無事なのね」
「この状態が無事と言えるならね」
と
「いったいどこへ?」
「どこへかは誰にもわからない。だけど、なぜかは誰でも知っている。アル・ブレヒトはユリコーンとリリットをこの世から抹殺しようともくろんでいるのさ」
「抹殺!」
瑪瑙は背中が寒くなりました。
目的地に着いたのは、鉄の箱にゆられて3日後のことでした。
緑色の制服を着たアル・ブレヒトたちに「出ろ! 出ろ!」と怒鳴られ、弱ったリリットたちはふらふらと列車から降りました。
目の前には『明日への扉』と書かれた門が、でーーんとかまえていました。
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