第11話 死の舞踏会
ヴィリの女王から届いた招待状を見て、瑪瑙は目を丸くした。
「お城の舞踏会!? あたしがいくの?」
「君はリリットの代表だからね」
「なんにもしてないのに? がんばったのは未来が見える子たちだよ?」
「そうだね」
シルユリは瑪瑙の頭をなでた。
お城に行くと、着慣れた
「うげぇ。ぐるじい……」
「よく似合ってるよ、瑪瑙」
「お姉さまもとってもきれい!」
ドレスを着たシルユリは、どこかの国のお姫様と見紛うばかりの美しさだった。
妖精国の女王はグラスをかかげて舞踏会の始まりを宣言した。
「ヴィリ妖精国、シレジア王国、そしてユリコーンとリリットの友好を祝して、乾杯!」
音楽が流れ始め、会場に集まった男女がそれぞれ踊り始めた。
瑪瑙もシルユリに誘われていっしょに踊った。
甘い飲み物も、今まで食べたことのない料理も、どれもめずらしいものばかりで、瑪瑙は目移りしてしまった。
そんな中、ヴィリ妖精国の女王ミルタがやってきて、瑪瑙に話しかけた。
「あなたがリリットのリーダーの瑪瑙ね」
「ごきげんよう、女王様」
瑪瑙は教わったとおり、小さな身体でかわいいカーテシーを決めた。
「あらあら、いいのよ。楽にしてちょうだい」
女王は瑪瑙といっしょに長椅子に腰かけた。
「あなたたち、王都に住むつもりはないかしら?」
「王都に? でもあたしたち土と水がないとひからびちゃうよ?」
「大丈夫。そこはきちんと調えるわ。木も植えて、リリットが暮らしやすい区画を作るつもりよ」
「そうなの? じゃあ村に帰ったら聞いてみるね。行ってもいいって子がいるかもしれないから」
「そうしてちょうだい。よかったらユリコーンのみなさんもいらして」
「仲間に話をしてみよう」
とシルユリは答えた。
女王が去った後は、見回りをしていたバティルドに声をかけられた。
騎士服がとても似合っていると瑪瑙は思った。
「瑪瑙、ドレス姿もとてもかわいらしくてよ」
「バティルドも相変わらずお美しいですね」
「オホホホ! どこでそんな社交辞令を覚えたのかしら?」
「もうすぐ10歳になるんだもん。たくさん学んだわ」
「えらいですわね」バティルドは瑪瑙の頭をなでた。「あなたはこれからどうするつもりですの?」
「種がいっぱい集まったから、子供を育てるの」
「まあ!」
「ハウスでいっしょになったリリットたちと約束したんだ。いっぱい子供を育てるって」
「うふふふ。応援してますわね」
そう言って、バティルドは見回りに戻った。
瑪瑙はシルユリの手をにぎった。
「いっとう最初に育てるのはお姉さまの子供だよ」
「ああ」
「どんな子が生まれるんだろう。楽しみだね」
「ほんとうにそうだね」
給仕の男とすれ違った。
通り過ぎた給仕の男は突然、くるりと反転して、懐から銃を取り出して叫んだ。
「リリットオォーーッ!」
「なにごと?」
瑪瑙は驚いて振り返った。
「あっ! あの男は!」
「ロイス!」
シレジア王国で幽閉されているはずのロイスが、舞踏会会場に、給仕に扮して紛れ込んでいたのだ。
シルユリやバティルド、その他会場にいる者たちが気づいたときには既に遅かった。
ロイスはリリットの心臓めがけて引き金を引いた。
バン!
弾丸が身体を貫き、瑪瑙は糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
「アハハハハ! やった! やったぞ! 見たか! 世界よ俺は異物を排除したぞ!」
「
バティルドは帯剣した剣を抜き、一太刀でロイスの首を切り落とした。
ゴロンと転がった首は、死してなお笑い続けていた。
ロイスの放った銃弾は、瑪瑙の胸を貫いた。
しかし、弾丸は瑪瑙の胸にかけられたペンダントに当たり、心臓からわずかに逸れた。
それでも、銃弾はリリットの小さな体を貫通し、ほぼショック死の状態だった。
倒れた瑪瑙に駆け寄って、シルユリは悲痛な叫び声を上げた。
「瑪瑙ーーーーッ!」
「これはどういうことですか! ヴィターレ王!」
女王ミルタが詰め寄った。
「し、知りません!」
ヴィターレ王はあわあわと首を横に振った。
「私たちも予想だにしなかった事態です!」
隣にいた王妃ケイティもぶるぶると首を横に振った。
「ロイスの単独犯行ですわ! 我々はこんな蛮行断じて認めていませんわ!」
「瑪瑙ーーっ!」
シルユリの叫び声が舞踏会の会場に響き渡った。
感情をあらわにすることのほとんどないユリコーンが号泣している姿に、その場にいる誰もが心を痛めていた。
「くっ……」
バティルドの唇に血がにじんだ。
「ロイスめ、アゲートに続いて瑪瑙まで……」
(お姉さま)
見えない手がふわりとシルユリの頬をなでた。それは空気でも風でもなく、虚空を漂う魂だった。
(お姉さまに会えてよかった……)
瑪瑙の魂がシルユリに別れを告げていたのだった。
「いやだ!」
シルユリは叫んだ。
「いやだ!」
瑪瑙を抱きかかえ、虚空に向かって手を伸ばした。
「君を必ず連れ戻す!」
シルユリは消えゆく瑪瑙の魂を捕まえた。
自身の生命の源とも言えるマナと一緒に、捕らえた魂を瑪瑙の身体の中に流し込んだ。
小さな種にマナを吹き込むのと違い、小さな身体とはいえ生体に吹き込むマナの量は膨大なものだった。
魂をつなぎとめるために、マナの総量のほぼ全てを費やすこととなった。
ビクンと瑪瑙の身体が震え、息を吹き返した。
目を開けた瑪瑙は手を伸ばしてシルユリの涙にぬれた頬に触れた。
「だめだよ、こんなことしちゃ……、お姉さまの命が縮んじゃう……」
「かまわない。君のためなら、いくらでも命をあげるよ」
わーーっ!
会場が安堵と喜びに包まれた。
この出来事は、リリットとユリコーンの関係は、切っても切れない関係だと世界中に知らしめることとなった。
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