第4話 ギルドマスターと面接とか聞いてませんが?
「いやあ、待たせてしまってすまなかったね。私がアーバルス商人ギルドのギルドマスターのリングストームだ。早速だが話を聞かせてもらえますかな?」
何故か知らんが俺は大人三人が余裕で並んで座れる立派でフッカフカのソファーのある一室に連れてこられています。
尻と背中の三分の二が既に埋没してしまっています。
誰かこのソファーの上手い座り方教えてくれないか?
しかも、これまたピッカピカのアンティークのローテーブルを挟んで俺と向かい合う位置にあるソファーの中央にドカリと腰を掛ける御初老(丸禿+チョビ髭)の姿。
…ギルドマスターだと? 聞いてねぇぞ?
俺はそのハゲ爺の隣ですまし顔をしている受付嬢のチチビンタちゃん(正確にはテュテュ…アレ? なんだっけ? ま、いっか)を軽く睨む。
さて、事は現況から数十分ほど話は遡る。
身分証明を兼ねる商人ギルドへの登録料として出し抜けに四分の一金貨(五万リングだったか?)をぶん取られたが、話はそれで終わらなかったわけで。
胸部の破壊力が高い受付嬢の説明が始まってしまった。
「同市内にある冒険者ギルドは完全に中王国の管理下にあるのと異なり、我が商人ギルドは国家間を超えたギルドなんです。流通・商人の為の総合組合…言わば国とは独立した別組織でもあるわけです」
「はあ」
ということはだよ?
簡単に言うと、この中王国の王様とか貴族とかその他お偉いさん達が「金寄越せよオラァン!」とか言って集ってきても「は? お前ふざけんなよ?」とか言えちゃう立場ってこと?
だとしたらスゲーな…。
「とは言ってもやはり人・土地・物が無ければ商業を成すことは難しいですから各国にきちんと税を納めているわけです。その恩恵として冒険者の方などは主に登録している市街のみが対象ですが、商人ギルドに連なる商会員はほぼウーグイース全土で入市税や入国税が軽減または免除の対象になるのです」
「ほうほう」
つっても異世界初日でこの世界の地理なり情勢なりを全く知らないから、すぐさま他の場所に行こうという考えは未だ無いけどね。
「そこでエドガー様の身分を当商人ギルドが保証するにあたり、望まれる御商売の形態に合わせたランクの商会員としての登録料を別途支払って頂く必要がございます。そのランクによって今後発生する年会費や税金も異なりますので」
うへっ…意外と面倒臭そうだ。
こうなると雇われているだけの方が経営者よりも気楽に思えてくるな。
そのランクとやらは全部で八等級あるという。
この等級によって扱える品や商売のやり方が変わるんだってさ。
きっとその制約を守らないと、他の商会やギルドからボコられて商売できない身体にされちゃったりするんだろうね。
それ以外にも違法な商取引や税をちょろまかしたりすると
……軽い方で?
ゴホン。話を戻して先ず、最下位の八等級。
いわゆる行商人で高級な物品は取り扱えないし、商人ギルドの各施設や特典なんかもほぼ利用できないし、免税も無い。
しかし、このランクすら持たないものは各市内で勝手に物を売ってはならない。
ただ登録料・年会費は無いのは良い…良いんだが、ギルドに納める税金が稼ぎの三割とかクソ高い件について。
まさかの所得税30パーセントかよ、やってらんねえ。
だが、商会員全体の過半数がこのランクとかマジか?
俺は…無いな。
七等級。
店舗は持てないが屋台を曳いて商売ができるクラス。
また、ギルドの小規模貸倉庫が利用でき、屋台のレンタルなぞも可。
登録料・年会費ともに十万リングだが、やはり八等級と同じ税金三割が痛い。
パスだパスっ!
六等級。
最低限規模の個人商店を経営できるクラス。
六等級はグンと上がって百万、年会費は二十万リングとなる。
でも税金は変わらず三割…商人ギルドってもしかして悪徳なんじゃ?
五等級。
六等級にプラスして従業員をやっと雇えるようになったクラス。
この辺りが手堅い感じで登録料が三百万、年会費は五十万リングに。
ただ、雇用者がいる限り税金は二割になるという。
そりゃ従業員に給料払わなきゃだもんな?
四等級。
扱える不動産系統や最大雇用従業員数が増える小規模商会クラス。
ぶっちゃけここから商人としては勝ち組っぽい立ち位置らしい。
登録料がドン!と一千万、年会費に至っては二百万リング。
ただ、税金関連は五等級と同じだ。
そして、三等級。
幾つかの支店を持てる中規模商会クラスで税金はなんと一割になる!
扱える商売と不動産にも制限がほぼ無くなるという。
しかし、登録料が一億とふざけてやがる上に年会費が支店×五百万リングにもなるから驚いた。
だがいち商人としては大成したとも言えるのかもしれないなあ(他人事)
その上に二等級と一等級という大規模商会クラスがあるようだが説明は割愛されてしまった。
俺には縁遠いものと判断したんだとシュンともしたが、聞けば幾ら金を積んでもそう簡単になれる等級ではないらしく、ギルド以外にも各国の認可が必要になるそうだ。
それと等級自体を上げるにはその差額分の登録料を納めるのとギルドからの視察をクリアすることが条件となる、と。
他にも八等級とは別に特級というのがあるそうだが、それは国が特別に認可を与えた国家プロジェクトとかそんな規模の特殊な商業に携わる者にしか与えられないんだとか。
因みにこの商人ギルドの周囲に配置されてるあの大店はその一等級と二等級なんだってよ。
「登録料とは銘打ってはおりますが…正確にはその額を“商人ギルドに預けて頂く”という形式になりますね」
「預ける?」
「はい。当方では商物品の取り扱いや預りだけでなく、金銭を預かる場でもありますので。但し、預けられる金額については限度はありません。ですが、ギルドを経由するような規模の大きな商取引などを除き、個人で月間に引き出せる額にある程度の限度がございます」
成程ね。銀行も兼ねてんのか。
俺はチチビンタちゃんの背後いっぱいに映る巨大金庫を見上げて唸る。
じゃあ預けるだけなら引き出せば良いのか?
目下の問題は年会費と税金ってことかなあ~…。
「非常に簡素ではありましたが説明は以上となります。エドガー様はどのランクをご希望でしょうか? 当方では貸付金制度もございますが」
おぅ…もう借金の話ですか?
だが安心してくれチチビンタ嬢、金ならあっ……。
「? どうかなさいましたか?」
しまった。
ここでこの俺の萎びた小袋(汚)からあそいっと金貨の山を取り出すのは拙いのでは?
あのロリ女神も言ってたじゃないか。
コレは“中身の金貨なんぞよりも遥かに価値がある代物”だと…。
公衆の前でこの小袋の中身自慢をするのは非常によろしくない気がする!
俺はそっと小袋をカウンターの上に置いて見せた。
「すまいないが…ちょっとここでは…(胸部を凝視)」
「…っ。……わかりました。では別室へご案内致しますのでこちらへ」
アラ? 意外とすんなり事が進んで拍子抜けなんだが。
…だが、俺が小袋を置いた時にチチビンタ嬢の美しく整ったあの眉がピクリと歪んで見えたのは――…俺の気のせいだろうか?
$$$$$$$
ってなやり取りがあったんですよお?
でね? このパンイチ男には似つかわしくない豪奢なこの部屋に押し込まれて、三十分くらい待たされてる間に俺の前に出されたお高そ~なお紅茶を緊張からカパカパ飲んでたら、その…ちょっと
というかこのハゲ爺がギルドマスターってどういう事なのチチビンタちゃん?
紅茶のお替り持ってきてくれるくらいなら事前にちゃんと説明して欲しかったんだけど?
「わっはっはっ! そう強張らないでくれ給え。私はギルドマスターと言っても金融部門の担当なんだ。君をここまで案内したこのテュテュヴィンタの直接の上司でもある」
何でも普通ギルドってのはトップの最高責任者にギルドマスターがいて補佐にサブマスターが一人か若干名ってとこらしいが、そこは超大手の商人ギルド。
ギルドマスターが一人じゃどう足掻いても足りねえよってな感じで各部門ごとに統括責任者を置いてるんでこのアーバルスの商人ギルドでは全部で十人のギルドマスターがいるらしい。
一応、その元締めのグランドマスターとか名前からして凄い御方が中王国王都に在籍していらっしゃるようだけども。
で? 結局なして俺のようなポッと出のパンイチ相手にギルドマスター様が直々に面接めいた真似を?
「どうやら君は何か
そうニッコリと笑うリングストーム氏。
今更だが、この異世界の通貨単位が“リング”だから彼の名は金の嵐ということになるんだろう。
なんとも今の立場にピッタリでニッチな名前なのであろうか。
…………。
だが、引っ掛かる。
…
どうにも俺はさっきからこの室内で前方の二名以外からの妙な視線を感じてならない。
「どうかしたかね?」
「いえ……どうにも三人っていうのが…」
俺の言葉に目に見えて隣のチチビンタ嬢が身じろいだ。
俺の背後辺りが一瞬だがざわついた気がするんだが!?
途端に中央に座するリングストームが噴き出した。
割と当てずっぽうで言っただけだったのに…。
えぇ…怖っ。
「こりゃあ参った! どうやら勘付かれてしまったか…すまなかった。見ての通り、私も老いさらばえた身であるし。彼女に至っては若い女性だろう? 万が一にも
「わかりました」
…なかなか抜け目のないハゲ爺のようだな。
笑顔を浮かべて身を乗り出して握手を求めてきたので俺も反射的にその手を握り返してしまった。
……しっかし硬くてゴツイ手だなあ。
何故か徐々に締め付けが強くなってる気が…いや、正直痛い、放してくれ。
どうにも商人の手って感じじゃあないと思うが。
若い頃は下働きとかしてて、この地位まで成り上がった系の偉人かもしれん。
ん? なんか今、もの凄い怖い顔してたような…き、気のせいかな?
「……ところで商会員の本登録料の支払いの件での相談だったそうだね。まあ、駆け出しならば無理をせず八等級か七等級辺りから始めるのが良いと思うが。君には支払う額も馬鹿にならぬだろうからな? ん?」
「…………」
アレ? 何でだろ?
ちょっと…カッチーンってきちゃったんですが?
いや、きっとこのハゲ爺は善意からのニコニコ顔で俺に“お前そんな金持ってないだろ? 無理すんなってwww”と言ってくれているんだろう。
そりゃあね? 俺はこの通り、パンイチですよ?(青筋)
けどなぁ~……金なら、金ならあるんだよっオラァァン!!
俺は静かに湧き上がった怒りに任せ、テーブルの上に金貨をぶちまけてやりましたよ。
それが何か?
「こっこれは…!?」
“金貨千枚、出てこいやぁ!”と某格闘家のテンションで念じて手を突っ込んだからきっとその枚数分だけ小袋から放出したはずだ。
おやおやぁチチビンタ嬢…君の驚いたそのキュートの顔が見たかったんだよぉ~(変態)
…だが、やはりギルドマスターは大して動じやしない。
ハゲ爺の視線は俺が手にする小袋にしっかりと固定されていやがる。
「成程…成程…。その品、マジックバッグの類の迷宮遺物ですかな?」
「…さぁてね。で。この金貨を俺は商人ギルドに登録料として預けようじゃないか。悪いが勘定を――
「確かに。金貨でキッチリ
「――してくれな……へっ?」
俺がゲス顔を決めようとした途中でハゲ爺の声に目をやると、何故か俺がぶちまけた金貨が既に十枚ずつ積まれて整然とテーブル上に並べられていた。
え。何で!? まさか誰か時間止めたり飛ばしたりするス●ンドとか持ってないよな!?
「確かに金貨千枚、総額2億リング。このリングストームがお預かりしましたぞ。新たなる我らが同胞エドガー・マサール殿! ようこそ! 商会ギルドへ! 当アーバルス商人ギルドは貴殿を“三等級商会員”として認め、その身分を証明します。今後とも、宜しく」
「……はい」
やっぱヤベーな、商人ギルド(というかこのハゲ爺が)
暫くは下手に逆らわんとこう…。
「あの…」
「何かな?」
「すいませんけど。…トイレ、貸して貰えません?」
*リザルト*
★資金(※金貨と金貨以上のみ記載)
現金:金貨997枚(1億9940万リング)
銀行:金貨1000枚(2億リング)
★物資その他
魔法収納の革袋(汚)
お気に入りのイチゴ柄のトランクス(装備中)
★雇用(扶養)
現在は未だ無し
★身分・資格及び許可証
商人ギルド三等級商会員(全国共通)
★店舗(不動産)
現在は未だ無し
★流通・仕入れ
現在は未だ無し
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