第3話 新参商人エドガー・マサール
「旦那っ! 着きましたっ」
「ここがアーバルスの商人ギルドですよぉ」
「おぉ~! いや、遠目からでもある程度判ってたけど…改めて見るとまたデカイなあ!」
「わははっ! そりゃあ城塞最奥の台地にある領主様の城よりも大きいもんでっ」
俺はバイト門衛のおもしろコンビに連れられて件の
道中の建築物群と比べるまでもなく巨大な建物が目に映る。
見回してもせいぜい二階か三階建てくらいだったのが、それの倍は縦にも横にも大きい。
オマケにその敷地までもが広大であり、メインの商人ギルドの周囲には別館のように複数の立派な建物も見受けられる。
やはり、それらにも多くが出入りしていた。
むしろ、中央に鎮座するギルドよりも頻繁に人々が行き交っているように見える。
「他の周りにあるあの建物は?」
「あ~一応、全部店ですかねぇ。どれもこの城塞都市きっての大商会が入ってる本店で全部で六つあるんだぁ」
「中王国で一番を謳う武器防具店もあるんだけどねっ。どれも金貨が幾らあっても買えやしない…目ン玉が破裂しそうになるくらい高いんだよっ!」
「うんうん。そもそも最も需要があるのが冒険者とかの戦闘職だからってだけでオイラ達も冷やかしに入れるだけで…他じゃあ店に入れるどころか門前払いだもんなぁ」
「ふぅ~ん」
いわゆる高級店ってヤツか?
今迄の人生で全く以て関ることなんてなかった部類の代物だな。
そりゃあ俺は回転してない寿司屋に入ったことがないくらいだからして。
「じゃあ旦那っ! アタイらはこの辺でっ! 旦那のお陰で暫くは美味い飯と酒が満足に楽しめるよっ」
「おう。ありがとな…ってどうした?」
何故か手をブンブンと振って笑顔で別れようとする褐色筋肉娘ことイノ嬢を鷲鼻ノッポのヴリトーが肩を掴んで制止した。
心なしかその表情は真剣味を帯びている。
「ンだよヴリトー……あ。そうかっ! 旦那…ちょっと提案があるんだけどっ」
…………。
「え。君らを雇うって…俺が?」
「えぇ、まあ」
「アタイら学は無いけど、腕っぷしだけなら結構なモンだよっ!」
何とイキナリの雇用提示であった。
いや、ぶっちゃけ用心棒として自分らを雇わないかってことらしいね。
何でもこの城塞都市アーバルスは経済の中心地のような存在故に人が多く集まる。
その多くは二人のように外様から来た者達。
一部は移民として安定した職を得ると共にこのアーバルスに受け入れられているが、殆どが市内に留まる為に冒険者などになった者ばかり。
“来るもの拒まず”とは、聞こえは良いが…冒険者は年内で約半数近くが姿を消すとも言われているんだとか。
単純な薄給労働者として、もしくは冒険者本来の仕事?である迷宮(皆大好きダンジョンの事ね)からの迷宮資源・遺物を回収する為にも必要である為、国やその機関である冒険者ギルドが湯水の如く消費する便利な人材の来訪を拒むこともないんだとさ。
だが、極貧生活の末に借金や犯罪行為を犯してしまった末に奴隷などに身を堕とすことなぞ日常茶飯事だとも聞いた。
え? もしかして俺って結構ダークファンタジーの世界にいたりする?
それだけは断固拒否したいところだ。
鬱展開とかでえきれぇだからな、俺は。
で、そんな過酷な冒険者たる二人も命が幾つあっても足りない冒険者稼業よりも安全安定の仕事が欲しいんだそうな。
そりゃそうよ。
俺だって冒険者なんてものより社畜フリーターしてる方が遥かにマシに思える。
少なくと夜勤中にゴブリンめいたものに死角から襲われることはあるまい?
あの検問の臨時バイトは冒険者ギルド内で持ち回りらしく、最大三ヶ月で雇い止めらしい。
成程。君ら短期派遣だったのか。
で。結局のところ。
俺がこのアーバルス市内で何やら商売を始めるなり、諸活動を始めるなら“
ぶっちゃけそこまで治安もよろしくない……場所も多いらしいんだわ。
そりゃあ、こんな冴えないパンイチ男が大金持ってたら、百パー襲われちゃうよね?
きっと俺だってそうするだろう。
時として暴力はあらゆる問題を解決できるからな。
「人間相手なら八割殺せるぜっ!」と男女さんがここで満を持して腕に力瘤を作って俺にアピってくる。
喧嘩吹っ掛けられたら自己防衛上等の殺傷沙汰がまかり通っているとか、なんという殺伐とした
「まっ、考えといてくれよっ!」
「オイラ達はぁオーク通りの木賃宿を借りてるんでぇ」
「はあ。わかったよ」
こうして俺は嵐のような二人と別れ、商人ギルドへと足を踏み入れた。
$$$$$$$
「
「違いますけど?(青筋)」
いやいや、のっけから奴隷堕ちなんて誰がすんだっつーの!
美人でオッパイも大きいが色々と弾けてんなぁーこの受付嬢さん(胸部を凝視)
まあこの恰好じゃそこまで強く否定もできんがね。
ペタペタと(今更だけどあのロリ女神のせいで未だに裸足なのよね、俺)ギルドの磨き込まれた白亜の大理石の上を進んだ俺は、どっかのアトラクションかよツッコミたくなるほどの
で。初っ端からぶちかまされた訳なんですね。
そんな内容を素の表情で言って、周りも微塵に動揺してない点からしても割とこの手の話は珍しくないのか?
どうにも異世界ジョークではないようで何やら背筋が寒くなる。
「大変失礼致しました。
「ち、チチビンt……(胸部を凝視) あ、失敬。ここで身分証明証?を発行して貰えると聞いたんですが」
「…はい。承っております。ですが、当商人ギルドでは冒険者ギルドと違って有料なのですが宜しいでしょうか?」
げっ…流石にタダって訳じゃないのか。
じゃあ冒険者ギルドの方が良かったか?
でも俺は冒険者なんて危険なジョブに就きたいわけじゃないしなあ…。
「構いません(胸部を凝視)」
「結構。では、初回登録料として五万
……リング?
まさか“きっと来ちゃう”系のヤツじゃないだろうな?
俺はホラーは苦手なんだがなあ。
暫し見つめ合ってると「…白金貨二枚に大銀貨一枚、銀貨ですと二十五枚です」と受付嬢さんから可愛い小声の助け舟が(胸部を凝視)
でも白金貨だの大銀貨だの言われても困るぜ、コッチか金貨しか持ってないんだ(ゲス顔)
俺がカウンターの上にバチコーンッと小袋から取り出した金貨をプットオンしてやったんだが「それでは金貨一枚からお預かりします」とスルー対応されてしもうた。
流石、商人ギルド相手じゃ金貨くらいで驚きやしないか…。
あの二人ほど良いリアクションまでは期待していなかったが、ちょっと残念ではあるよね。
「ありがとうございます。白金貨七枚と大銀貨一枚の御返しです」
「確かに?」
咄嗟に知ったかぶりを決め込んだが、心境はナニコレ?でしかないわけで。
【アヴェリア白金貨】
◆中王国で流通するプラチナ含有率の高い通貨。
◆諸銀貨の十倍の価値。
【アヴェリア大銀貨】
◆中王国とその近隣諸国で流通する一般的な銀貨。
◆アヴェリア銀貨・諸銀貨の五倍の価値。
ふむ。便利だな鑑定能力…てかこの能力だけで十分食ってけそう。
いや、路地裏で悪漢に撲殺されて人生終了するビジョンが脳裏に浮かぶな。
やっぱり異世界は多少バイオレンスに対応できるタフネスがなくちゃね!
どーせその辺に盗賊やら山賊やらゴロゴロいらっしゃるんだろ?
そんな事は最初からわかってんだからなコッチは!(逆ギレ)
「では、先ずは貴方様の御名前をお伺いします」
「えっと…
「かしこまりました。
「え? あー、はい…それで」
何だろ? 異世界特有のイントネーションの違いかな?
しかも、エドガーが名前でマサールが家名みたいな感じになっちまってるが…まあ、ええやろってことにしとこうそうしよう。
ここで頑張っても何だかダメそうな気が不思議とするんだよね。
後、今後大きな問題になる点で俺はこの異世界の言葉と文字が理解できても自分では書けなかったので受付嬢のテュテュヴィンタ嬢に代筆して貰ったことか。
何でそこはこう御都合主義でどうにかならなかったもんかねぇ~!
頑張って異世界文字とか覚えなきゃいけないじゃないか!(理不尽)
こうして俺は商人ギルドでの身分を得て、謎の鬼畜…じゃない鬼才かつ新進気鋭の新参商人エドガー・マサールとしての新たな異世界人生を――
「改めまして、次に当ギルドのシステムの簡単な説明と…商会員としての
……えっ。まだお金掛かるんですか?
そうですか(胸部を凝視)
*リザルト*
★資金(※金貨と金貨以上のみ記載)
現金:金貨1997枚(3億9940万リング)
★物資その他
魔法収納の革袋(汚)
お気に入りのイチゴ柄のトランクス(装備中)
★雇用(扶養)
現在は未だ無し
★身分・資格及び許可証
身元不明(商人ギルド仮登録済み)
★店舗(不動産)
現在は未だ無し
★流通・仕入れ
現在は未だ無し
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