第9話前編 ダンダダ=ダダダ=ダン、襲来



「ふぁ~あ…っ」


「起きたか」


「おう。ダンディー、おはようさん」



 俺は目を覚ますと毛布の中からテントの外へと這い出た。

 周囲には薄っすらと消えゆく霧が漂う。

 まだ早朝と言った時間帯かな?


 ダンディーは焚火の火で肉を人数分・・・焙ってくれていた。

 朝から肉とはちょいと豪華なんだかヘビーなんだか良く判らんが、昨晩世話になった“ウイングタイガー亭”の店主がペコペコしながら俺達に持たせてくれた加工肉だな。


 しかもやたら大量に他の野菜なども含めて“こんな量一気に持たせることなんてある?”と内心ツッコミたくなるくらいくれた。

 まあ、俺には俺をこの異世界へと強制転移したロリ女神が寄越した魔法の小袋(汚)があるので持ち帰る分には問題はない。

 ただ、この小袋は同様にロリ女神から与えられた俺の『鑑定』スキルの対象外らしく詳しくは未だ理解できてないんだわ。

 けど、収納したものに時間経過無しとかの効果もあれば、ガチのチート級アイテムになるなあ。

 現在収納しているナマモノが痛まないのであればその可能性は高い。


 俺はよっこらせとダンディーの隣に腰を下ろした。


 

「ダンディーは一晩中外だったけど平気なのか?」


「問題ない。リザードマンは体温が下がると動きが鈍る。夜間は火の側に居た方が都合が良い。それに、暫く振りの陽の光は…どのような美酒にも勝る」



 成程。 やはり爬虫類の形質が強いようだな。

 後、ダンディーの言葉遣いを俺は特に注意しない。

 ムールの親父さんにも事前に言われたことだが、別段、ダンディーが俺を下に見てるとか、コケにして敬語などを使わないのではない。

 敬語という概念自体が存在しないリザードマンの文化なんだとさ。



「にしてもさ? 俺とンジの朝飯は牛串の一本(特大アメリカンサイズ)で事足りるが。ダンディーはそれで足りんの? ちゃんと『夜腹減ったら勝手に食っていい』って出しておいたろ(20キロのくらいの肉塊を)」


「ん? それならばここだ」



 ダンディーが燃え盛る焚火(ちょっとしたキャンプファイヤーくらいの規模だけどな)の根元に素手を平気で突っ込んで何やら灰の中から取り出すと、それは熱で変色した葉に包まれたあの肉塊(20キロ)だった。

 はは~ん、蒸し焼きにしてるのか!

 ま…ダンディーは別に生でも全然平気らしいけどな?

 でもきっと調理した方が美味いんだろう。


 ん?



「じゃあ、このもう一本は?」


わたくしの分ですね」


「うひゃあ!?」

 

 

 俺はいつの間にか気配無く俺の背後に立っていた人物の声に飛び上がり、ダンディーにダイビング&ハグをキメてガクブルする。


 言わずもがな、その人物こそが商人ギルドきっての爆乳美人受付嬢テュテュヴィンタ嬢である。

 俺の頼れるビジネスパートナーであると同時に恐怖の存在でもあるんです。



「おはようございます、エドガー様。何もそこまで喜ばれなくとも良いでしょう(照)」



 よっ、よよ、喜んでなんかねぇーよぉ…(恐怖)

 何でこんな朝早くからいんのぉ~この人!



「(モゾモゾ)ふぁ…おっ、おはようございますデス――…ンヒュイ!?」



 ほら見た事か。

 ンジまで同じリアクションじゃねーかよ…。


 その後、どうにか落ち着いたンジと動悸が治まった俺は四人で焚火の前に座って早い朝食を始めた。

 後、テューが俺達の分のパンと牛乳を買ってきてくれていた。


 ありがとうございまッス! わあーい(現金)

 早速BBQサンドにしよっと(呑気)


 因みに牛乳だと俺が思ったものは味も色も微妙に違くて獣臭い感じだった。

 何でもこの辺で常飲されるものは俺にとっては未知の家畜の乳であるようだ。

 逆に俺が知るこの牛串の元である牛の乳などは非常に高価なんだとか。



「「……エッサ……ホイサ……エッサァ……ホイサァ……」」



 ……何か遠くから声が聞こえるような?

 


「…あ。やはりもう到着してしまったようですね。気の早い方達ですから」


「到着? 何が?」



 上品に口元のソース(ウイングタイガー亭特製ピリ辛ソース)を拭ったテューが豚のようにモーニングを貪り食っていた俺達を置いて颯爽とその場から立ち上がり、その来訪者を迎える準備に入ったようだ。



「お早い到着で」


「おうともダ! 暫く振りに払いが良い仕事だからなのダ!」


「ぶふうっ!?(噴)」


「ごっ、ゴ主人様! 大丈夫デス?」



 俺はその声の正体を見て盛大にBBQ サンドを喉に詰まらせちまった(瀕死)



 何と何本もの丸太や大量の石材がひとりでにコチラに向って移動していたのだから驚いた!


 ってアレ…何か浮いてる? いや…が生えてる?



「あ。よっこらダ」



 ズゥウウーンっ……



 俺達の近くにそれらが物凄い音を立てながら落とされると、もうもうと立ち上がる土埃に中に二十は超える人影・・のようなものが見えるような気が…?



「あっ!ダ! オメェサマが仕事くれたんダ? 俺はこの上の区画ブロックで職人をしてるダンダダ=ダダダ=ダン、ダ!!」


「あ~…そのぉ~? テューさん?」


「エドガー様。コチラはⒸの3区画の職人街でドワーフ工房“金床の尻”の代表で、その区画の工匠頭クラフトマスターでもあるドワーフのダンダダ=ダダダ=ダンさんです。今回は彼らがエドガー様の施工を担当となります」


「ダが一つ多いんダ!?」


「はあ~っ…ドワーフ! 俺はエドガーです。いやあ~、実はドワーフって見るの初めて……金床の……?」


「ダッハッハッハ!ダ! 俺のことはダンダダと呼んで良いんダ!」



 彼がかの三大ファンタジー種族のドワーフである事に俺は感動!


 ……したんだが、その感動よりも気になったのが、彼らの工房名であろう“金床の尻”だ。

 その名の由来はなんと「ドワーフの尻は金床と同じくらい硬いからダ」と言われてしまった。

 何でも、ドワーフの男は女房に事ある毎に尻を叩かれるからだとかそんなどうでも良い理由だった。


 だがそんなドワーフの彼らの外見は一言で言うと“髭”だ。

 いや、赤い毛玉か?

 漠然と想像していた矮躯わいくであるが人間に近しい見た目とは異なり、先ず人間と変わらぬサイズ(だが五頭身くらいの見た目)目元以外は全身長い赤毛で覆われ、その左右からアンバランスな灰色の剛腕が飛び出し、髭の下からは短そうに見えるブーツを履いたデカイ足が見える。

 オマケに頭には小さな黒い角が二本ニョッキリと生えていた。

 一応、職人らしいエプロンを身に着けているものの、見様によっては変則的な裸エプロンにも見えなくはない(変態的観測)

 想像していたのとは大分違うなぁ。


 

「儂らのことも忘れないで欲しいノォ」


「おっとダ。忘れてるところダ! 今回は何だか急ぎって話らいしから助っ人を呼んだんダ!」



 ドワーフの達の髭の海を掻き分けて何やら数人の小柄な者達が姿を現した。

 1メートルに達しない手足の短い白い髭の老人姿(また髭かよ)に何とも特徴的な赤いコーン帽子…どっかで見たことあんだけど?

 何か金持ちの家のガーデニングしてる庭…とか?



「あら。ノームの皆さんまでいらっしゃるんですね」


「そうなんダ! なんせドワーフと違って力は無いが…魔法が使えるんダ! コイツらさえやる気を出せば屋敷の一つや二つなんて一発ダ!」


「…余計なものまで建てられてしまうと、その、困るのですが?」



 ああ~ノームか! てかコッチはそのまんまな感じだった。

 全然関係ないけど、あの庭に埋まって放置されてる無駄に笑顔の陶器人形…夜中見ると怖くね?


 ふうむ…魔法ねえ~…ソッチも興味あったりするなあ。

 そりゃあ異世界だもん…ちゃんとした(あの陰気精霊女のことは忘れて)魔法とか夢のあるものだって見てみたいじゃん?



「じゃあ早速打ち合わせするんダ!」


「おおぅ…凄いやる気だなあ」


「最近はそりゃあ暇だったからダ! この区画の復旧工事が俺らに準備して待機しろって言うばかりで、何だかしらんが一向に始まらんからダ…」


「「ンダ! ンダ!」」



 ドワーフ達から一斉にジト目を送られるテューは慣れているのか素知らぬ顔だ。

 流石はテューさんパない…いやちょっと待てよ。


 この機会に彼らと仲良くなっておくことは今後プラスになるかもしれないぞ?

 何故なら開店と同時に客足をどれだけ集められるか非常に重要な案件だ。

 上の区画の職人街の者達や、何ならこれから始まるこの区画に携わる土木労働者なんてのは客層としては最高の部類に成り得る…。


 …良し。



「打ち合わせには私も同行しても良いのですが、一旦ギルドへ戻る必要がありますので。何か必要なものがあれば序に御用意しますが?」


「そう? なら頼みたい事があるんだが」


「何でしょうか」



 俺はお決まりになりつつある動作で懐の革の小袋(ちょっと臭い)から金貨を五枚ほど取り出して“またかよ”みたいな怪訝顔のテューの手に握らせる。



コレ・・でちょっととか買ってきて貰えないかな。いや何、ちょっとこれから俺の店を建てて貰う彼らにちょっと発破を掛けてやりたくなってさ」


「「……酒?」」



 やや離れていたのにも関わらずドワーフ達は俺の“酒”という言葉に機敏な反応を見せる。

 フフン。やはりドワーフ、酒には目がな――

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」



 俺は突如としてドワーフ達に取り囲まれてしまった。

 その代表であるダンダダが俺にブラックオニキスの如くキラキラした目で顔を近づける。



「ダハッハハハァ!ダ! 何ともオメェサマはドワーフを労わる気持ちをちゃんと持ってるてぇした御仁なんダ! おう!お前ら今回の仕事で半端な仕事なんざしたらダ! 俺がその石頭をかち割ってやるんダ! 気合入れるんダ!!」


「「ンダアアアアア!!」」



 ドワーフ達は絶叫を上げ、何故か俺を空高く胴上げし始めてしまった。



「では早速私は中央へ戻りますね」



 テューは相変わらずアッサリと、無重力を何度も反復して強制体験させられている俺を見て苦笑いしながら去って行ってしまった。



 誰か、誰か…助けて…うっ!




 

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