第9話後編 テントとドワーフとノームと酒と



「…さて、こんなもんかなあ」


「ふんむぅ~ダ! この間取りで基礎を変えちまっていいんダ?」



 ひと通り騒いだ俺達は、仕事モードに切り替わったドワーフ達と頭を突き合わせて引いた図面と睨めっこしていた。

 残っている基礎を元に平屋の建物を建てるという予定なのだが、それだと俺が考え得るKOMBINIの店内としてはちょっと広過ぎる。

 別に広く商品を置けるスペースがあるのは良いが、それだとちょっと管理が難しくなりそうに思えた。

 下手な大型スーパーくらい広い基礎だからなあ。

 その考慮から一先ずその三分の一を店。

 残りの三分の一を倉庫や雑作業庫。

 もう残りの三分の一を住居スペースにするくらいが良い塩梅だろう。



「ああ、コレでいってみよう! 皆さんお願いしまッス!」


「「オオオオオオオオオー!!」」



 俺の狙い通り今夜はパーリィナイッ!が決まっているドワーフ達の士気は高い。



「…………。…の、ノォ。若き商人殿よ、ちょっと相談なんじゃがノォ?」



 互いに拳と身体をぶつけ合うドワーフ達の隙間からおずおずと小柄なノーム数人が前に出て来た。



「できれば儂らは酒はよいんだノ? ……もし、叶うのならば、商人殿の御厚意は別のもの・・・・で頂ければと、ノォ?」


「別のもの?」



 モジモジとするノーム達にダンダダが呆れかえって大きな溜め息を吐く。



「全く以てけしからんのダ! オメェサマは気にしなくても良いんダ。コイツらノームは別名、金の亡者・・・・と呼ばれるほどの黄金狂いなんダ! ギルドからの報酬を待てないヤツなんて放っておくんダ!」


「黄金狂い? …じゃあ金貨が欲しいのか?」



 ノーム達は恥ずかしそうに小さく頷く。

 別に喰うに困ってという感じでもないし、本当に単に金が好きってだけなのか?


 う~ん…まあ、今はテューもいないことだし。

 酒代だって俺から出した金貨なんだし、ちょっとくらい良いか?



「ほら。他の連中には内緒だぞ」


「ゴ主人様…さっ、余りみだりな散財は、よっ、良くないデス…」


「我が主人は、かなりの道楽者だな…」


「「っ!?」」


「カァ~~っダ! オメェサマは甘過ぎるんダ!」



 俺は呆れるダンダダと奴隷の二人を宥めつつ、取り出した金貨を差し出すとノーム達が殺到して俺の手からそれを引っ手繰っていきそれを囲んで一塊になっている。



「……確認するんだがノ? コレ・・を…儂らにくれるのか、ノ?(震え声)」


「そうだよ? ほら、テューがひょっこり帰ってくる前に懐に仕舞って。後で美味いもんでも――

「「ノゥオォオオオオオオオオオオオオオォンンンンン!!!!」」



 その瞬間、ノーム達が爆発・・して俺達は吹っ飛ばされた。



 いや、正確には円陣を組んだノーム達が一斉に金色のオーラみたいなもの?を某野菜戦士のようなノリで噴き上げているみたいだ。


 …え? いつからバトル系漫画に?



「うおほうぉ!? とんでもない魔力量なんダ! というかオメーら仕事以外で無駄遣いすんな!? ダ!」




  $$$$$$$




 その後の彼らの働きはそれは凄まじかった。

 特にもはや別の存在になったノーム達が(笑)


 先ず瓦礫を完全に撤去したドワーフ達がほぼ素手・・だけで基礎を整え、各位置に支柱を特大ハンマーを振り下ろして打ち立てる。

 そして、他のドワーフ達が細かく砕いた石に砂と未知の薬品のようなもの、それと水を一定の割合で混ぜて力尽くで捏ね繰り回して恐らくコンクリート(どちらかというと灰よりは青)のようなものを作る。

 すると“待ってました!”とばかりに控えていたノーム達が奇声を上げて手を振りかざすとその異世界コンクリが勝手にのたうち回り、床や壁を形作っていくのだ!


 コレが魔法か!? スゲ――

「「ノゥオォオオオオオオオオオオオオオォンンンンン!!!!」」


「腹からなノッ! 腹から声と魔力を振り絞るんだノォオオ!!」


「「ノゥオォオオオオオオオオオオオオオォンンンンン!!!!」」



 …………。


 まあ、俺とダンディーとンジはドワーフとノーム達が三倍速で作業する様をただ陽が暮れるまで呆然と眺めているだけだったよ。

 



  $$$$$$$




 星空の下、アーバルス市内にあって限りなく荒野に近いこの区画で賑やかな声が響いていた。

 勿論、浴びる程酒を飲んでいるドワーフ達が騒いでいるからだ。

 俺も付き合ってだいぶ飲まされている。

 ダンディーは余裕だが、ンジは先に主人を差し置いてテントの中で潰れてやがる。


 因みに、これだけ彼らが喜ぶのは単に全員揃って重度のアルコール中毒者という訳ではないらしい。

 ドワーフにとって酒は“命の水”と呼ぶほど大事なもので、自分の命よりも大事な鍛冶工芸に次いで尊ぶものなんだとか。

 そもそもドワーフ独自の謎仕様によって普通に飲み食いこそするが、彼らにとって水自体は毒のようなものらしい。


 逆に今日途轍もなく働いてくれたノームは不気味なほど静かだった。

 声を掛けてもほぼ無反応で、彼らはコーン帽子の先までぴっちりとくっ付け合うほどまた一塊になって何か・・に夢中になっているようだ。


 他のギルド職員と大量の酒樽(想定していた数倍の量)を荷車で運んで来たテューだったが、彼らの優秀さシゴデキ振りに驚いたのか、余りノーム達のことは追及せず今夜の宴には参加しないで早々にギルドへ報告に戻っていったよ。


 確かにまだ内装などは未だ完成していない部分はあるが、大まかな形は出来てしまっている。

 流石にまだ屋根はないが…いや、それでも凄すぎるか?



「ダンダダさん、ありがとう。今日皆が頑張ってくれたお陰で、殆ど出来ちまったようなもんじゃないか! これなら予定よりずっと早く店が開けるよ」


「ダ? 何言ってんダ。まだまだこれからダ・・・・・・・・・! 明日からも俺達に任せておいてくれなんダ! ガッハハハハハア~っダ!!」


「え? 何て…ヒック(泥酔) うへ…うはあはははははっ!! ドワーフ万歳!」


「ガハハハッ!ダ! オメェサマが同じドワーフじゃないのが心から残念なんダ!! 俺らに命の水を恵んでくれた我が友、エドガー・マサール万歳!! ダ!」


「「エドガー・マサール万歳!!」」



 そして酔っ払い達の夜は更けていった…。




  $$$$$$$




 コンカンッと槌がぶつかるような小気味よい音で俺は目を覚ます。

 テントの外で何やら動きがある。

 俺は仕方なくそれを確認しに死体(とほぼ同じだな)になったンジを退かしてテントの幕を捲った。

 


「うぅ…二日酔いだぁ。気持ち悪ぃ…」


「おおう! 我が友よ、起きたんダ? 驚かそうと・・・・・少し早く作業を始めてしまったからなぁ…すまなんダ」



 …ドワーフは頑丈過ぎるだろ。

 しかも、こんな朝早くから張り切り過ぎだろうにぃ~。



「いやいや無理しないでよ」


「何を言ってるんダ! 命の水をたらふく飲んだ俺達は暫く絶好調ダ! …だが、ガッカリさせて悪いんダ。屋根部分はまだなんダ!」


「あ。そうな…の……?」



 俺は目の前の光景に悪酔いがぶり返しそうになった。



 確かに基礎の上にほぼ外見上は出来上がった壁があった。

 だが、どうしてだ?



 昨日の夜に最後見た時よりも三倍…いや、それ以上に壁が高く立派になってるんだが?





*リザルト*



@各話別諸経費

 ドワーフ工房“金床の尻”との宴会代として:

  現金から金貨5枚(100万リング)

※ノーム達への賄賂:現金から金貨1枚(非公式)


★資金(※金貨と金貨以上のみ記載)

 現金:金貨972枚(1億9440万リング)

 銀行:金貨690枚(1億3800万リング)


★物資その他

 魔法収納の革袋(汚)

 飴色のスーツ(装備中※60万リング)


★雇用(扶養)

 ダンディー(護衛奴隷※2000万リング)

 ンジ(従業奴隷※1000万リング)


★身分・資格及び許可証

 商人ギルド三等級商会員(全国共通)

 Ⓒの5増改築許可・物件関連の市諸税免除(三年間)


★店舗(不動産)

 Ⓒの5(※建設中)


★流通・仕入れ

 現在は未だ無し




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