第10話 青い石泥と魔法植物



「……コレ・・は一体どういうことでしょうか」


「俺が聞きたいんだが」



 俺達は唯々その建築物を見てそう呟く。

 いや、俺の絶賛建設中の物件マイホームなんだけどね?

 平屋だって話だったじゃん?

 何で一晩でこんな高さになってんの?



「ダンダダ=ダダダ=ダンさん。このような予定外の施工は当商人ギルド側では伺っていませんが?」


「ダが一つ多いんダ。まあ聞いて欲しいんダ! これには訳があるんダ!」



 この事態の説明を施工主であるダンダダに俺とテューが詰め寄ると自身の髭(全身だけど)をイジイジしながら以下のような言い訳が述べられた。


 先ず、現在俺のこの建築は四階・・建てになっている。


 もうその時点で問題があるんだが、ドワーフ達曰く、焼け残った基礎はそもそも二階建てを想定した造りになっていたらしい。

 …ああ、燃えちゃったから俺には判らんかったわけね。


 じゃあ、何故にその倍になっているのか?


 それは俺がドワーフに酒を飲ませてしまったことがぶっちゃけ原因だった。

 やる気を出したダンダダと他のドワーフ職人衆は俺のその心意気に感銘し、俺はいつの間にやら栄えある“ドワーフの友”に認定されてしまった。

 …俺的には単に御機嫌取りでしかなかったんだが。


 で。昨夜の宴で泥酔した俺がテントの毛布の上に沈んだ後、総じて義理堅いドワーフ達が「単に二階建てを建ててやるだけじゃ忍びないんダ! いっそのこと三階にしてやるんダ!」と、依頼主の俺の意思を全く無視してサプライズ施工を決行するに至った。

 そして、ノーム達もそれに諸手を挙げて大賛成した結果。

 恐らくまたあのオーラを噴出させての猛作業を開始した彼らは、勢い余って・・・・・四階まで造ってしまったんだとか。


 もう、訳がわからないよ…。



「ダンディーは起きてたんだろ? 何で止めなかったのさ…」


「…止めた方が良かったのか? ドワーフ達は我が主人の為だと言い張ったのでな。それに何か問題があるのか? サピエンスの言葉に『大は小を兼ねる』などと格言があるだろう」


「…………」


「ですが、当ギルドからは当初に予定した建設費用しか出せませんが?」


「んなこたぁ端から解っとるんダ! 無論サービス・・・・に決まってるんダ! ノームの衆もダ?」


「「そうなノ!」」


「「…………」」



 何故かノーム達が俺にヒシッとしがみ付いてくる。

 どうしてここまで懐かれてしまったんだろう?


 その原因も恐らく俺が安易に渡してしまった金貨だな。

 まあ、こうして纏わりつかれるのは多少、嫌だが…別に追加の金貨をたかってきたり、俺の懐にある金貨の入った小袋(汚)に手を出そうとしない限りはもう好きにさせることにしたよ。



「まあ、費用の持ち出しが無ければ特にギルドからこれ以上言うことはありませんが。今度からは一言断りを入れて頂きたいですね」


「わかったんダ!」


「お、俺にもね…?(小声)」


「…………。…ところでエドガー様。ドワーフの皆さんは兎も角として、本来小難しくて気分屋な方が多いノームの皆さんと随分親し気・・・・・ですね?」



 うっ…流石はテュー、目敏いな。

 ここで賄賂を渡したことがバレると面倒そうだ。



「おっ、俺の魅力がなせることかなあ~?」


「……左様ですか」



 暫し細目になったテューに凝視されたが、何とか助かったようだ。

 ふぅ~朝から背中に嫌な汗がびっしょりですよ?



「あ、あのっ…でも余り高い建物を持つことは…やっ、厄介・・なことにならない、デス…?」


「厄介?」


「流石はンジさん。良い所に目を付けられましたね」



 いや、だから何が?

 と、俺が聞くまでも無くンジは若干申し訳なさそうに。

 何故かテューは愉快そうに理由を説明してくれました。


 そもそも自分の持ち家(もしくは店とかその他の物件)の高さとは身分を表すのとイコールであるらしい。


 つまり、他の商会もしくはその他から「ぽっと出の新参者が生意気にうちよりも目立つ物件なんておっ建ててんじゃねぇーぞ」というクレームが入る可能性大。



「まあその点は余り気にされずとも良いかと。エドガー様はあくまでも三等級商会員の地位をお持ちになっております。それにこの物件に関しては増改築許可もありますし、三年間の諸市税も免除されますから」



 あ。そう言えば、そんなこと言ってたなあ。

 因みに建物には土地の税金でなく、二階建て以上だとそれに準じた税金も掛かるらしいそうだが、それも件の諸市税に該当するのでセーフとのこと。



「…まあ、商才よりも見栄と傲慢プライドを優先する商会などからは目を付けられてしまうのは、致し方ないでしょう」


「…………」



 いやいや、「致し方ないでしょう」で済ますなよ?



「でもさあ、強度とか大丈夫なのか(地震とかその辺も心配じゃね?)」


「何を弱気な事を言うんダ!? 友よ安心するんダ! 俺らドワーフとやる気を出したノームが練り上げた石泥・・で拵えたんダ。仮に巨人が躓いたってびくともしないんダ!」


「いしどろ?」



 俺がドワーフとノームの衆が自慢気に胸を張って言う“泥石”という言葉に首を傾げる。

 物知り博士のンジも可愛く首を傾げているばかりだった(可愛い)

 すると、これまた冷静なテューが建物の壁を触ったり拳で軽く叩き出した。



「……流石はドワーフの技術力にノームの魔力といったところですか。最近噂になっている青い石泥ですね。単なる石材よりも優れた建築材料を合成するという」


「ああ! やっぱりコレ、コンクリート・・・・・・とかなのか! 何となく作ってる作業とか見ててもしやとは思ったけど」


「……っ!」



 俺もテューに並んで外壁に触れてそう言った。


 …うん? テューの奴が一瞬物凄い形相していやような…うん、きっと気のせいだろう(震)



「ンダ? よく知ってったんダ! 石泥は西帝国アルヴァートで最近開発されたばかりの新技術らしいんダ。俺らは聞きかじった話から見様見真似でやっただけなんダ!」


「……もしや。エドガー様は帝国の御出身で?(圧)」



 何か知らんが地雷を踏んでしまったかもしれん!?

 隣からジリジリと距離を詰めてきてるテューから圧倒的なプレッシャーが容赦なく俺を襲う!



「い、いや…言い方とかちょっと違うけど、似たようなものを知ってただけさ?」



 何とかその場は誤魔化して(せたか?)話の続きを聞けば、この石泥とかいうほぼコンクリートと同様の技術は、このアーバルスが位置する中王国と未だ敵対関係にあるという隣国、西帝国が近年開発したことになっているらしい。


 他にも様々な新技術…それも魔力によらないものを帝国の天才錬金術師とやらがどんどん開発しているそうで、周辺国は急激な帝国の技術進歩を危ぶんでいるとも聞いたよ。


 それでやたらテューの奴がピリついてんのか?



「…う~ん。結局今後はここまで立派になっちまったモンをどうしていくか、だな?」



 結局、建物自体は強度面に関しても全く問題無いとテューが太鼓判を押したことでこのまま進めることになった。

 何でもドワーフとノーム達の合作である青い石泥とやらは一種の魔法合金というファンタジーな代物扱いらしく、下手な金属にも勝る上に魔法にも強いんだとさ。

 石泥を使った建築ならばアーバルス市内には既に存在するが、恐らく建物全体に惜しげもなく希少な青い石泥を使った建築を俺のこの物件くらいらしい。


 ……それもそれで、後から色々しわ寄せがこないだろうか?(ヘタレ)



「ンダ。取り敢えず内装は二階(一階とほぼ同じ間取り)まで進めるんダ?」


「そうだな。三階以上は保留ってことで。将来的には二階も店にして、三階以上は俺と従業員の居住スペースに……いや、いっそのこと宿屋とかにするってのも面白そうだな?」


「……階によって商種を変えると? それは、面白い発想かもしれません」



 テューは俺の思い付きの言葉に一瞬興味を惹かれたかのような顔をしたが、結局は肯定も否定もしなかった。

 まあ、本当に駄目ならきっと止めに入ってくれると期待しておくとしよう。



 ドワーフ達は早速作業に入っていく。

 中で作業する者以外は壁を直接よじ登っていき、ほぼロープや板だけの人力ウインチで四階の高さまで建材を運んで屋根を作り出した。

 ヤバイなドワーフ。

 ダンダダも「今日中に一階部分の内装を終わらせて、今夜は屋根の下で眠れるようにしてやるんダ!」と豪快に笑っていた。



 「――畑。作らないノ?」



 唐突にノーム達が俺にそう提案してきたんだが?


 どうやら残りの作業は殆どドワーフ達の独壇場らしく彼らは暇を持て余しているらしい。

 だからと言って畑とはこれ如何に?



「ゴ主人様っ…そのっ! 菜園を造るというのはっ、わっ、悪くない提案だと思うんデス!」


「おぉう?」



 お野菜大好きハーフゴブリン・ガールのンジがノーム達とタッグを組んで俺に迫る。

 いつの間にそんなに仲良くなったの君ら?


 ンジが言うには、菜園を作るのは余った土地を有効に利用する方法としてうってつけであるらしい。

 確かに…買った土地の約四分の三近くが空いている。

 前の俺の世界なら、広い駐車場のあるコンビニってだけで有利かつ利用客数を確実に獲得出来もしたが…少なくとも、このアーバルスでは一家に一台の馬車がある訳でもなければ、平均的な通勤手段なぞ徒歩一択だろう。



「でも菜園なんて作っても、収穫できるまでどれだけの時間が掛かるんだ」


「ノン? そんなことないノ。早いものなら…――三日か四日・・・・・で収穫できるノ?」


「……のん?」



 はあ? そんなわけなかろーよ?

 こちとら流行りの農場シュミレーションゲーじゃないんですよ?



「おぉーいなノォ~!」



 俺が混乱していると姿を消していた数人のノームが何か袋のようなものを持ってパタパタとコチラへと向かって走ってくる。


 開いて見せてくれた袋の中には仄かに発光・・するカラフルな種のようなものがギッシリ詰まっていた。

 


「コレコレなノ! 魔法植物・・・・の種ならすっごく早く成長して実をつけるノ! 大抵のものは揃ってるノ!」


「魔法植物」



 あ、そっか。 この異世界って剣と魔法の世界でしたっけ?

 スマン。 農場シュミレーションゲーだったみたいだわ(笑)



 “魔法植物”ってのは主に『成長促進』の魔術を施した植物?の種のことらしい。

 元は過酷な環境でも安定して食べ物を得られるようにと開発されたものだそうだ。

 因みにメジャーなとこでマンドラゴラだの○ックンフラワーだとかの人に害なすデンジャー・プラントは全くと言っていいほどの別物で、魔化した植物群“魔植物”と呼ばれている。


 そして、この魔法植物性の野菜は多少好みの違いこそあれど本来の品種と食味も用途も劣らない素晴らしいものであることがンジから力説された。

 しかも、それに加えて収穫のし易さから値段も安く済む。



「じゃあなんでその魔法植物の方が多く流通してないんだ? 昨日の店ウイングタイガー亭じゃそんなの置いてなかったじゃないか」


「うっ…それは…い、言いにくいんデス…」


「?」



 聞けば納得の理由で、市外で生産、または輸入している野菜や穀物類を独占している商会が主な原因らしい。

 自分の商品の価値を脅かすものを黙って商人達が放置するはずもない。

 やれ、“貧しい者の為の卑しい食べ物”だの。

 やれ、“そんな得体の知れないものを食べると病気になる”だの。

 そんな根も葉もない悪い噂を流して流通量と市場価格を操作しているという。


 なんと浅ましいことだろうか。

 今後庶民の味方になるであろうKOMBINIを開店せんとする俺とは相容れぬ存在だな…。

 なるほど、だから平均してあの店は肉以外のメニューも割かし高めだった訳だ。


 しかし、待てよ?

 その魔法植物とやらは別段売買すること自体は禁じられていないんだ。

 俺の店ではなるたけリーズナブルな値段(銀貨以下)の商品を提供したいわけだからして、その魔法植物から作ったカットサラダとか加工食品を置くのは…非常にグッドなのでは?



「わかった。今後俺の店に置く商品としても良い考えかもしれない。その案件…――許可しまぁす!!」



 俺が許可を下すとンジとノーム達から歓声が上がり、早速畑作りと相成った。


 と、言っても基本俺らはまた見てるだけだがな。

 だって、ノーム達が不思議な踊りを輪になって踊っている内に勝手に土がモコモコと蠢いて自らうねを形作っていくんだもん。


 何でもノーム達曰く、俺が買った土地の土は非常に活きが良い・・・・・

 確かテューが言ってたが、生前ここを所有していた区長とその身内は暮らしに困窮する周囲の住民そっちのけで広い庭でガーデニングパーティーなぞをひっきりなしに開いていたらしい。

 それに火災での灰が良い養分・・になっているのやも。


 ……件の大火災だが、実はその区長にキレた住民による放火だったりしないよな?


 だが、そんな事を考えてる内に土地の三分の一ほどが菜園になってしまった。


 …家庭菜園にしてはちょっと広いとも思った(小並感)

 今更だけど世話とかさ?

 皆には俺が完全な農業素人だという事を忘れないで欲しい。



「大丈夫なノ! 水さえ与えれば勝手に育つノ!」


「おーうダ! 畑作ったんダ? 後で余った石材で俺達が井戸作ってやるんダ! 適当に穴掘っておくんダ」


「わかったノ!」



 喉が渇いたと四階から忍者のように降りて来たダンダダが酒樽(彼らにとっては単なるソフトドリンクだと思ってくれ)を担いで俺達にサムズアップしてきた。



「…我が主人よ。手始めに何を植えるんだ?」


「そうだな。(カットサラダ用に)大根とレタスとタマネギとニンジンは必須だろ。後は(おにぎりとかパン用に)コメと小麦とか穀物系も色々…」


「とっ、玉蜀黍トウモロコシ!? 玉蜀黍もお願いしますデス!」


「わかったわかった(笑)」



 こうしてその日もまた、わちゃわちゃとやっていたらあっという間に陽が暮れてしまったよ。

 

 流石にその日も宴会は遠慮したいのもあって今夜はまた三人だけで焚火を囲み、俺はこれからこの店がどのようなものになって欲しいかを二人に言って聞かせた。




  $$$$$$$




「ぐぅうう~…畜生っ! あのインチキ詐欺野郎め! 僕のお気に入りだった玩具に汚い手であんなにベタベタしやがって。…今に見てろよ。僕にあんな生き恥を掻かせたことを必ず後悔させてやるっ!」



 夕闇の中の路地の影から、遠く楽し気に焚火を囲む異様な組み合わせの三人の姿を恨めしそうに睨む者の姿が在った。


 だが、そんな醜悪な感情を持った者に狙われていることを未だ、当の三人は知らずにいた……。

 




*リザルト*



@各話別諸経費

 今回は特筆すべき事項無し


★資金(※金貨と金貨以上のみ記載)

 現金:金貨972枚(1億9440万リング)

 銀行:金貨690枚(1億3800万リング)


★物資その他

 魔法収納の革袋(汚)

 飴色のスーツ(装備中※60万リング)


★雇用(扶養)

 ダンディー(護衛奴隷※2000万リング)

 ンジ(従業奴隷※1000万リング)


★身分・資格及び許可証

 商人ギルド三等級商会員(全国共通)

 Ⓒの5増改築許可・物件関連の市諸税免除(三年間)


★店舗(不動産)

 Ⓒの5(※建設中)


★流通・仕入れ

 現在は未だ無し




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