第11話前編 スライムトイレと新雇用



「…お~本当に茂ってんなあ~」



 件のノーム(&ンジ)提案による魔法植物菜園であったが、たった三日で青々とした葉をこれでもかと茂らしていた。

 ノーム曰く、何か葉の表面でキラキラしてんのは朝露じゃなくて魔力らしいよ?


 植えた次の朝に芽がニョキニョキ出ていた様を見た時はトト○かとツッコミたくなってしまったくらいだからな。

 しかも、ものによっては既に花が咲き、実を付けているものすらある。



「この根菜はもう明日には収穫できると思うノ!」


「へ…へえ。じゃあ、明日早速サラダにでもして試食してみるかな」


「とっ、玉蜀黍トウモロコシは!? まっまだ駄目デス!?」


「ノン。それは時間が掛かるから後…七日は待つノ」


「うぅ~残念デス」


「いやいや、そんな早く収穫できるってだけで十二分に凄いと思けど?」



 いや、ホント魔法の力ってスゲー!(最初の街の某ぽっちゃり風に)


 まあ、その代償というか、この魔法植物性の作物は一代こっきりで種とか連作はできないらしいんだがな。


 俺の我が城マイホームの着工から早四日。

 何故か平屋予定だったのに四階建てになってしまったが、一階部分と二階部分の内装は完了している。

 三階と四階については今後どのような用途になるか検討後に改めて手を付けることになったので、今の所は階段と支柱のみのホール状態になっている。

 まあ、残りの改装もダンダダ達に頼むってことで、四階は半ば資材置き場になってしまったが…特に急いで使うこともないだろうし、良しとしよう。

 というか作業自体はもう昨日の昼には終わっていて、何故かまだ居座り続けるドワーフとノーム達によって今度は建物の外装に手が加えられていき、頼みもしないのに俺の物件は一見貴族か何かの在所ですか?と聞きたくなるほど立派な御屋敷になってしまったんですね。

 いやホント、どう見てもKOMBINIって感じじゃないでしょ。

 どうすんだよコレ…。



「だがまあこの一階の店部分の壁は俺らにもちと難儀な仕事だったんダ!」


「いやあ~でもここまでやってくれたのは本当に感謝しかないよ! …本当に追加料金出さなくていいのか?」


「ガッハハハハ!ダ! 言ったんダ? この大窓・・は俺らドワーフとノームからの奢りなんダ!」



 そして、このKOMBINIをKOMBINIたらしめる店内を一目で伺えるこのガラス張りの壁だ!

 ぶっちゃけこの提案は流石にこの異世界じゃ無理だと思った。

 そもそも打ち合わせ中にテューとンジが口を揃えて「硝子は高価過ぎる」だの「すぐ割れる」だの明確に反対してきたからな。


 だが、ダンダダはただ一言「俺達に任せとけってんダ!」とだけ。

 ヤダ!? このドワーフ男前過ぎっ…!


 で。ここの上の区画からドワーフ達がエッサホイサと運んできたのは巨大な板ガラスではなく、なんとドワーフの工房で鍛えられた?板ガラスならぬ板クリスタル・・・・・なるものであった。

 オマケにこれまたノーム達が全力ブッパの魔力によって壁に嵌めた板クリスタルを強化してくれました。

 これにより俺の店の外見がぐっとKOMBINIに近付くことができた。


 嬉しいんだ…嬉しいんだけど…なんかちょっと方向性が違う気がする。



「クリスタル製の壁……コレは流石に看過できませんね。ギルドへ報告しに戻らせて頂きます」



 テューの反応が段々怖くなってきている件…。

 確かに商人ギルド周囲の最高級店とやらにもこんなものはなかった気がする。

 大丈夫だろうか?(手遅れ)


 だが個人的に驚いたのはやっぱこの異世界のトイレ事情かな?



「なあ、ダンダダさん。トイレの仕組みってどうなってんの? ここの区画って中央みたいに下水通ってないでしょ」


「おう、うっかりしてたんダ! 俺らは中途半端な身体の造りの連中が背負う面倒事とは無縁だからなんダ! ガッハハア~ダ!」



 …はあ? 何ですか?

 じゃあ、君らウ○コしないってことか?

 何を昭和のアイドルみたいな事言ってんだよヒゲの癖して。

 一緒に酒だけじゃなくて肉も野菜もモリモリ喰ってたじゃん。



「…あのっ、ゴ主人様。本当っ…デス」


「おいおい。何言ってんだ? 食ったら出る! 俺もお前も! 当然だろ?(デリカシーゼロ夫)」


「あう…(赤面)」


「何も知らないんダ? 俺らドワーフはそもそも身体の造りが違うんダ! 男と女がいるのは同じだが…――ドワーフは、岩から生まれる・・・・・・・んダ」



 どこの孫悟空なんだよ。

 だが、どうやら嘘偽りはないようだ。

 他にもノームもあの有名なエルフなんかもそうだそうで、ノームは土から、エルフは木から生まれる神秘過ぎる生態を持つ種族なんだそうな。

 神秘ついでなのか、代謝が良過ぎて排泄も不要なんだと。

 じゃあ、ドワーフとかノームとかエルフの街とかに観光に行くとトイレが無くて困るのは必至になるという事実。



「話を戻すんダ。コレ・・逃げ出さないように・・・・・・・・・壺か掘って固めた穴に入れて置くんダ! それで事足りるんダ」



 丁度タイミング良くダンダダの手下が持ってきた小壺から何か取り出して俺に見せてきた。

 …平べったい丸い、苔色の石。

 (スンスン)……無臭だな? 匂い消し的なもの?



「まさかスライムも知らないんダ?」


「スライム!?」



 何とコレがあの代表的モンスターのスライム!?

 作品によって最序盤の雑魚だったり、やたら弱点が無くて厄介過ぎる難敵だったりする…アレか?

 どうやらカチコチになるまで脱水したスライムらしい。

 非常に雑食極まる魔物らしく、その生命力は強靭。

 ゴミ処理・下水処理など広範囲で利用されているという。

 

 つまり…コイツにその……喰わせるのか?


 とある偉大な人物がこう言っている。

 ――…郷に入っては郷に従え、と。


 俺はそのダンダダの手下が必要な個所にスライムを入れに建物内へ入って行くのをちょっと複雑な気分で見送った。



「じゃあなんダ! 俺らは工房に戻るんダ。その内、この区画工事が本格的に再開したらまた顔を出すんダ!」


「儂らも職人街の近くで魔法植物の種を扱う園芸店をやってるノ! 何か必要なものがあればいつでも来てくれなのノ!」


「わかった。助けて欲しいことがあればすぐ頼らせて貰います。ありがとう!」



 これにて一応は施工は終了ということで、今日の昼で皆が職人街へと引き返していくことになった。

 賑やかな日が続いていたが、こうしてダンダダ達がいなくなってしまうと急に寂しくなってくる。


 そりゃあ、この何もない寂しい場所に俺の店がポツンと建ってるだけだしなあ。



「…………」


「……すっ、直ぐにこの周りも、きっ、きっと賑やかになるデス」


「…ああ! そうだな!」



 俺は健気に俺の心中を察してくれたンジの頭をクシャクシャと撫でてやった。



「コホン。…では、本日は追加雇用・・・・の件もありますし。商人ギルドに参りましょう」


「そ、そうですね…?」


「むっむう…」



 何故かその心温まるやり取りを遮るようにしてテューが澄まし顔で俺とンジの間に身体を割り込ませてきやがったんだが?(胸部を凝視)


 ま、まあいい…今日はそういう予定だったしね。



「そういう事だから、ダンディー。留守番よろしくな」


「承知した」




  $$$$$$$




「おっおおお!旦那っ!? ほほっ本日はおまなき? おめねき頂きましてありがっありっ!」


「…イノぉ~? 少し落ち着きなってぇ」


「ワハハ! いつもみたいな砕けた感じで良いってば」



 俺達は数日振りに商人ギルドまで来ていた。

 理由は他にもあるが、この目の前の二人を約束通り・・・・雇う為だった。

 その二人とは、俺を異世界初日に商人ギルドまで強制連行してくれた冒険者コンビの褐色男女のイノ=ウーと鷲鼻ノッポのヴリトーのことだ。

 一昨日、生活用品を買いに出かけた際に件の“オーク通り”とやらに行ってコンタクトを取ったというわけだ。



「ですがぁ本当にオイラ達を雇って下さるなんてぇ。なぁ?」


「本当さっ! やっぱりアタイの眼に狂いはなかったってことだねっ! ところで大旦那っ! 今日は鱗の旦那・・・・は御一緒じゃないんで?」


「俺の店の留守を預かってくれてるよ」



 彼らが“鱗の旦那”と呼び敬うダンディーは現在留守番だ。

 予想を超えて目立つ・・・店になってしまったんでな。

 必ず誰か(できれば強い)残すのを皆から打診されてしまったからなあ。


 因みに、この二人が何故ダンディーを特別扱いするのかは…シンプルに“強いから”だそうである。

 彼らはこの付近の出身ではないらしいし、“パワーこそが正義だ!”みたいな文化の出身なのやもしれん。

 まあ、リザードマンのダンディーと仲良くやってける分には問題ない。

 しかし、結果としてそんな鱗の旦那を奴隷に持つ俺は繰り上がって“大旦那”になってしまったが…。


 お陰で同空間を行き来する他の商人達からの視線が結構刺さるんです(恥)



「ではお二人とも、コチラの契約書に署名サインをお願いします。因みに月毎に給金として金貨一枚。ということで宜しいんですね、エドガー様?」


「ええっ!? そんなに貰えんのかいっ!」


「ああ。店以外の仕事を頼むときは別の報酬ボーナスも出すし、今後長く働いてくれるなら昇給も考えてる」


「「ボーナスっ!? 昇給ぅ!?」」



 俺の言葉に感極まったのか二人は涙を流しながら抱き合い、テューからギルド承認印が押された雇用契約書を引っ手繰って羽根ペンをはしらせた。


 金貨一枚、つまるとこ20万リングとなるわけだが…アーバルス市内の一般市民の稼ぎからというと一端以上の部類に入るものだという。


 二人から受け取った契約書をテューがチェックする。



「…問題ありませんね。ところで正雇用は初めてということですが、雇用主に断りなく仕事を放棄、または妨害した場合は解雇だけでなく最悪罰金刑が科せられることをお忘れなく」


「あったりまえだよっ! そんな恥知らずな真似なんてできやしないさっ! だろっ!ヴリトー?」


「……あぁ勿論だぁ! エドガー様。オイラ達は精一杯やらせて貰いますんでぇどうか宜しくお願いしますぅ!」


「おう! これから色々と忙しいけど宜しくな!」



 俺は頭を下げた二人の肩を叩いて前を向かすと、笑顔で握手を交わした。


 ……あと二人とも力強ぇ~!?(痛)

 こ、これはきっと頼りになるぜ!(涙)




 

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