第6話後編 一生の値段
「うん。それっぽいな」
「エドガー様は既に奴隷商を御利用した事が御有りだったんですか?」
「いや、今日が初めてだけど…」
俺達はさらに店の奥の階段を降りて薄暗い地下へと降りていた。
そこまで不潔ではないが、ジメジメして多少居心地が悪い。
それと閉所恐怖症には多分無理のある環境だ。
牢屋めいたものが左右に並んでいて…如何にも、
「儂の店にいる生涯奴隷で人前に出せるのはそう多くない。儂の店に押し付けられるまで殆どが長く病に蝕まれて治療されずに放置されて…正直もう長くないだろう。それと種族問わずってことで…
ふむ。本当にこの親父さんは立派な人らしいなあ。
普通だっら売れるだけ売れなきゃ大損だってことはガキでも解るだろう。
「そうかい。じゃあ、その前に――…
「……ニウの奴だな? 困った娘だ。仲良くさせ過ぎちまったか」
ムールが片手で疲れた表情になった自身の顔を覆う。
そうだ。さっき上の階でツインテ幼女が俺にキラキラした目で「三十六号ちゃんを助けてあげて下さい! お願いします!」って言われちゃったんだよねえ~。
「にしても三十六号ってなあ」
「致し方無いことです。国法で人権を剥奪された者に同情せぬようにとの措置の一つですし、生涯奴隷は罪人であった者が多いので優先して地下に収容されています」
で、ここは兎も角、他所の不衛生で薄暗い地下で身体を壊してその生涯を苦しみの内に終えるってことか。
よっぽど悪いことした輩なら別に同情なんてしないけど。
あのニウとやらの様子だとそうじゃないみたいだし。
「仕方ねえなあ。ま、いいだろう。おい。三十六号出て来い」
ムールが壁のレバーのようなものガコンと上げると牢屋の入り口が上部に1メートルほどスライドして開いた。
その中から名前(奴隷番号か?)を呼ばれた人影がモゾモゾと這い出て来る。
「喜べ。御目通しだぞ」
「エ? アタシが…デスカ?」
若い女の声だった。
俺は思わず先に階段を降りる前に手渡されたカンテラを持ち上げる。
「うあっ…」
「おっと。すまな――」
あ。眩しかった…か……いや、違うか…。
彼女の肌は若干緑色(どっちかってーと黄色っぽいか?)掛かっていた。
ボサボサのショートヘアから覗く耳の先も若干尖ってるし、唇にはキュートな八重歯が光る。
「ほれ、挨拶しろよ」
「…は、はじめましてデス。奴隷番号三十六号デス」
ふうむ今迄見掛けなかったがやはりファンタジーな種族もいんだね。
どうれ……。
◉ハーフゴブリン(サピエンス)/女(17)
◉タレント:司書
◉スキル:算術、魔力感知
⦿状態:空腹
ハーフゴブリン…ゴブリンはまあ何となくいつかくるかなと思ったが、まさかのハーフかあ~。
十七歳の女の子で、タレントは『司書』。
スキルは『算術』と『魔力感知』…魔力感知って意外と持ってる奴多いのか?
ん? なんだこの“状態:空腹”ってのは?
「もしかして、腹減ってる?(デリカシーゼロ夫)」
「ウ!?」
「……コホン。ムール様、彼女はもしかして
「ああ、そうだよ。アッチじゃあサピエンス以外は奴隷、しかも有無を言わさず生涯奴隷で売り買いされてるからな。コイツの片親も同じ帝国民だろーに…酷ぇ話だぜ」
あーそんな話もしてたなあ。
現在この中王国とは停戦中らしいが左隣りにある確か…
一部を除いて人間種族以外の扱いが鬼過ぎるってのは。
そんでその奴隷を外国に売っ払うのが一種の国の商業と化しているんだとか。
単なる直感だが、俺は絶対仲良くできないと思います。
「だが、コイツには読み書きの天性があるみたいでな。少し市内の人間に対して警戒してるが店の中で細々とした仕事をさせるには問題ないと思うが」
…うん。ちょっとオドオドしてっけど割と良いんじゃないか?
可愛いし(胸部を凝視)
彼女の居た牢を見ると油に灯った火に照らし出されたボロボロの書物がテーブルの上に積まれていた。
「オラッ! さっさと歩けっ!」
ジャラジャラと鎖を引き摺る音と共にこの狭い地下に神経質な男の怒声が響く。
…げっ。あのロン毛じゃねえか。
そのロン毛が目の前の
いや。壁かと思ったが人……でもなかったか。
「…コイツが護衛で紹介できる二号だ」
「おおぅ」
しかも直立二足歩行してる上に身体にグルグル太い鎖を巻き付けた3メートル前後のデカブツだった。
「リザードマンですか…珍しいですね?」
「コイツも訳ありさ。儂ンところの古株だよ…ここで店を構える前からの付き合いになる」
「…………」
鰐は未だ黙ったままだし。
コッチすら見てないな…さて、コイツは結局どんな感じ?
◉リザードマン/男(98)
◉タレント:剣闘士
◉スキル:鋼鉄化
⦿状態:空腹
…見た目そのままイカツッ!
だが待て御年九十八歳だとう!?
てかお前も腹減ってのかよ!
実はちゃんと飯食わせて貰ってねえんじゃあねえのかぁ~?
「ちょっと待って。つかぬ事を聞くが。その…リザードマンの寿命ってどんくらい?」
「リザードマンですか? 申し訳ありません、エドガー様。私も中王国で稀な種族の詳細までは…」
「寿命か? 確かぁ~健康体なら人間種や獣人種よりも長生きするはずだ。エルフの連中ほどじゃあないが……二百年くらいか? なあ?」
「……(ギロリ)…まあな」
ここでやっと鰐さんが俺を認識したみたいで目を細めて睨んできた。
左目が深い刀傷みたいなので潰れてんのかな…怖い顔だなあ~。
でも、強そう(小並感)
それに種族的には中年?くらいかもだし。
……いいんじゃないか? この二人で。
「どけっ! ウスノロが!」
その存在を忘れ掛けていたロン毛が鰐さんにドカドカ蹴りを入れる。
まるで動じてねえ。
だが諦めが悪いのか鰐の横を何とか潜ってコッチに来やがった。
俺の背後に居たハーフゴブリンの少女が身構える。
「……おい、アンタ。そこのゴブリンの
…嗚呼! 嫌いだなあコイツ。
「何でだ? そんなの俺の勝手だ。それに彼女はハーフゴブリンだ。中王国の法じゃ立派な人間種さ。そうだろ? テュー」
「ええ。勿論です」
「チッ。そいつは僕の…まあ、
「…………」
あ。 テューがキレちゃう五秒前って感じだけど、もう放っておこうかな?
「何言ってやがんだ? グリル…お前いい加減にしろよ? 儂の可愛い奴隷に何をやらせるってんだ」
もっとオコだったのはムールの親父さんだろう。
ハーフゴブリンの彼女を背にやると額に青筋を奔らせながら怒りで震えていた。
「はっ! いいのか? 僕にそんな態度とってもさあ。アンタみたいな下級商人がここで店を出せるのも僕の家が――
「買うよ」
一瞬、その場が静まり返る。
「買うよ。幾らだ?」
「……三十六号は
俺の次の言葉に命運が懸かっている二人はただ黙って目を見開き、俺を見ていた。
「良いのか? 思ったよりも安いじゃないか――…じゃあ、買った!」
「売った! 何、初回サービス料金ってヤツさ。今後とも当店を御贔屓に…」
ムールはその老練さを感じさせないほど幼い表情で破顔する。
「ふっ…ふざけんな! ソイツは僕のオモチャだぞ!」
「ああっ~と…そこの……リザードマン、さん。一応、めでたく俺が君の新しい持ち主になるわけだけど? ちょっとさあ、早速俺のお願いを聞いて貰っちゃたりしても良い?」
「…………」
リザードマンは静かにそして僅かに俺に頷いた。
「これから君達の件で商談があるんだが、
「……ククッ。喜んで、我が主人よ」
リザードマンはその爬虫類の頭部に獰猛な笑みを浮かべる。
目の部分に白い部分があって人間に近いからか、意外にも表情が豊かなようだ。
「さて。お前にはよく蹴られたものだ。だが、こうやって許しが出たからには……どうしてやろうか?」
「ひぃいイ~!!」
ズズイっと俺の願いを叶えるべく動いたリザードマンに恐怖したロン毛が情けない声を上げて逃げていった。
その一部始終を見ていたのか、近くの牢内から寝たきりの奴隷達が「ざまぁ見やがれだ」と笑い声を漏らし、弱々しい拍手が上がるのだった。
*リザルト*
★資金(※金貨と金貨以上のみ記載)
現金:金貨997枚(1億9940万リング)
銀行:金貨846枚(1億6920万リング)
★物資その他
魔法収納の革袋(汚)
飴色のスーツ(装備中※60万リング)
★雇用(扶養)
ムール奴隷商生涯奴隷二号(護衛奴隷予定※2000万リング)
ムール奴隷商生涯奴隷三十六号(従業奴隷予定※1000万リング)
★身分・資格及び許可証
商人ギルド三等級商会員(全国共通)
★店舗(不動産)
現在は未だ無し
★流通・仕入れ
現在は未だ無し
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