第8話後編 “ウイングタイガー亭”にて



「陽が落ちてきたら、この辺もなかなか賑やかになってきたな。さっき通り過ぎた時はそうでもなかったけど?」


「この辺りは大衆食堂や酒保店が多いですから」



 俺達は夕暮れの下、隣の区(えと…Bの㉑か?)の賑やかな通りをブラブラと練り歩き、建ち並ぶ飲食店を物色している最中だった。


 え? なんでわざわざ隣の区画まで移動してんのかって?


 俺の店が建つ(予定)とこは現在絶賛焼け野原してっからだよ!?(逆ギレ)

 それと上の区画はそもそも食い物を出す店すら無く、逆の下の区画は安いが量だけの激マズの貧乏冒険者御用達の店ばかりとのこと。


 …左のD?

 そんなヤバそうな区画にホイホイ出掛けでもしたら、むしろ俺達が喰われる・・・・側かもしれんだろう。



「そうなのか。ところで、二人は何が喰いたい? 言わば、今日は祝いの日みたいなもんだ。好きなもの喰わせてやるぞ」


「ア、アタシはなんでも…いい、デス」


「そう? ダンディーは?」


「………。……肉…を、できるなら」


「肉」



 何とも外見通りの趣向でむしろ助かる。

 これで「自分ベジタリアンなんで」なんてカミングアウトされたら思わず噴くとこだった。



「ならコチラの店などどうでしょうか?」


「ほほう。こりゃあ…鉄板焼き、いや、ステーキハウスか」



 平屋の店舗の入り口頭上には派手な看板で“ウイングタイガー亭”と描かれている。

 オマケに迫力のあるそのウイングナンチャラらしきクリーチャーの彫刻付き。



「ここは値段も比較的良心的で、メニューも多く味も良いとの評価が多いですよ」


「へえ。ならここにしようか。……なあ、あの彫刻ってさ」


「ああ。店名にあるウイングタイガーですね。稀に山岳地帯から街道や人里に降りてきて被害を出す有翼の魔獣です。ですが…流石にウイングタイガーの肉自体は出してはいないでしょう。エドガー様は御興味が?」


「…ああ、実在すんのね。それと別に食べてみたいとかじゃないから…大丈夫」



 俺はどっかの困った食いしん坊じゃない。

 俺とテューは戸に手を掛けてドアベルを鳴らしながら入店しようとするが……何故か後ろの二人が付いてこない。



「我が主人よ。本当に良いのか? …場違いではないか?」


「うぅー…」



 どうやら二人は店に入ることに負い目があるようだ。

 

 だが…――「関係ないだろ。此処は食い物出す店で。俺達は客だぞ」


 これ以上のことなどないし、理由も無い。



「ダンディー。お前は俺の護衛だ。ンジはもしかしてダイエット中なのか? でも、今日くらい付き合ってくれ。早く入れ…コレが最初の命令?だ。…頼むから公衆の面前で逆らってくれるなよ?」



 二人は互いにポカンと顔を見合わせた後、何故か苦笑いして俺の後ろにやっとついてきたよ。


 しかし、ダンディーの奴が想定していた以上にデカイ件だな…。

 何とか潜り抜けられたが床がミシミシいってたぞ?


 店内はなかなかに盛況だ。

 肉の焼けるあの何とも耐え難い匂いが漂っている。


 だが、流石に他の客達からの視線が集中する。

 そりゃあ目立つもんな?


 何せ、リザードマンにハーフゴブリンに商人ギルドの美人受付嬢(私服)と元パンイチ男だもんね。



「さて、奥の隅の席が空いてるみたいだ。さっさと座って注文しよう」


「そうですね」



 俺はそんな連中の視線をまるで気にせず席へと向かう。

 伊達に長年バイト先に長時間たむろするギャル共からの陰口や挑発に耐えてきたわけじゃないんでね?(強者の風格)



「わっあのっ…いらっしゃいませ!」


「おや。お嬢さん。悪いけど、メニュー表見せて貰える? この店初めてなんだ」


「あっすいませんっ」


「いいよいいよ。ありがとね」



 慌ててやってきた幼い顔立ちの看板娘が慌ててテーブルに着席した俺達の元へ小走りでやってきた。


 俺はちょっとワクワクした気持ちで受け取った木のボードメニューを眺める。


 ……結構高いね?


 食べ放題以外の肉関連の店って今迄入ったことなかったからなあ~。

 暫し、俺らは四人頭を突き合わせてそのメニュー表を見てキャッキャと騒ぐ。

 あ、嘘。ダンディーは終始無言で真剣に肉のメニューだけ見てたわ。



「ンジは何食う?」


「えーと…じゃあ…こっ、この玉蜀黍トウモロコシをお願いします、デス」


「ほお、肉を選ばぬとはなあ…野菜が好きなのか?」


「あ。お肉は好きデス! けど、甘くて粒々してて、コレが好きなんデス」


「そっか(まあBBQにもほぼ高確率でいるもんな! それに別段肉と比べて安くもねえなあ。もしかして、コッチの世界じゃお高いのかね?) あ。注文お願いしまッス」


「う、承りますっ!」


「ええっと…先ず、玉蜀黍コレでしょ。ダンディーは?」


「…むう。……では、この肉を貰おう。量は(スッ…)」



 ダンディーは指を三本立てる。

 え? まさかの300グラムかよダンディー!?

 普通じゃん!

 いや、むしろその体格だと小食の部類だろうに…。

 因みにダンディーはその圧倒的なヘビーボディにより一般的な椅子に座るのが不可能な為、床に胡坐だ。

 でも、それでも悠に俺らよりも目線は高いんだけどね?



「――…30キロ・・・・



 納得ぅ! 今夜は無礼講だ好きなだけ食っていいんだよっ!!



「私はこの本日のオススメで」


「…じゃ、俺もそれで」



 結局迷った挙句にテューに便乗しましたよ。

 看板娘ちゃんは「お待ちくださいっ」と慌てて奥の厨房へと走り去っていった。


 ふむ。看板娘…ねえ?

 俺はふと隣の席のンジを見る。



「? ご、ゴ主人様…?」



 どうだろ、接客の方は。

 読み書きできて頭が良いのも判ったけど、やっぱりまだ周囲の人間にビクビクしている感が否めない。

 仮に店を開いて彼女に無理があればまあ、それはその時で…――

「うぉい! 何で俺の店に亜人の奴隷なんていやがるんだ!」



 ……全く。 やれやれだぜ(第三部ではない)



「何か問題でも? 俺の護衛なんだがね」


「困るなぁお客様よう。奴隷は外って基本決まってるもんだろう? それにこんなデケーのが居たら客が食事どころじゃなくなってうちの肉の味がわかんなくなっちまうよ!」


 

 これまた「そうです! 私が肉屋の店主です!」と言い出しそうな脂ギッシュな大男が困り顔の看板娘ちゃんを引き摺りながら厨房から出てきやがった。



「まだ注文したばっかだからアンタの店の味は未だ判らんのだが…奴隷を店に入れちゃいけないだって? そんな法があるのか、テュー?」


「…一般的な店内に限ってはありませんね・・・・・・


「そう。…だそうだが?」


「うっ…だがなあ、ここは俺の店だ! 昔、女房が暴れ出した亜人野郎に怪我させられてから、そう決めてんだよ。俺は飯屋だ! だから飯は出すが、外で喰わせてくんな!」


「ちょっとお父さん! 失礼だよ!」


「へん! ゴブリンは割と大人しいだろうが、トカゲ野郎なんざ何を考えてるかわかったもんじゃねー!」


「…………」



 なるほどそう言った理由か。

 

 だがちょっとムカチン!ですよぉ~?

 どんな理由があろうと俺のダンディーを馬鹿にするのは許せん。



「我が主人よ。ここは……」



 立ち上がるだけで一瞬店自体が揺れた気がすんなあ。

 続いて空気を読んだであろうンジが悲しそうに椅子をずらした。

 

 だが、俺はお前らだけ・・を外に出すことなんてしないけどな?



「ん~何かこの気に言っちゃったなあ~? なあ? テュー」


「エドガー様?」


「だが一つ気に入らないことがある。ちょうどこの店の裏手には運河があるだろ? この席からその景色を観れたら、さぞロマンチックだろうなあ~…」


「「…?」」


「そうだ。ダンディー! ちょっとその俺の細やかな願いを叶えてくれないか?」



 ダンディーは俺の言葉に一瞬目を見開き、その獰猛に裂けた口端を微かに持ち上げた。



「……それは命令か?」


「いやあ? 単なるお願いさ」



 ダンディーは口端を歪ませたまま俺の言葉に半ば呆れたように目を閉じたかと思うと、その次の瞬間――


 バゴォオオオン!!



 ウイングタイガー亭の一角が綺麗さっぱり粉々に吹っ飛んでいた。



「おお~…スゲぇなあ。流石五壁貫き・・・・は伊達じゃないな?」


「フッ……おかしな主人に仕えてしまったものだ」


「だが、お陰で良いテラス席・・・・が出来たじゃないか! 店主さん。これなら問題無いだろう・・・・・・・?」



 勿論、その俺の会心のアルカイックスマイル(悪)に店内外の者は絶句である。



「な…なっ…なあっ…お、俺の店ぇ…(灰化)」


「……ちょっとやり過ぎたか。仕方ない。ここに居る他の客の分も迷惑料ってことで奢るとしよう」



 俺は若干満足気に懐の小袋から金貨をひと掴み取り出してテーブルの上に置いた。

 修理代くらいにはなるだろう。



「はあ…あなたという人は。あの店主には私から渡して話をしておきますから」


「悪いな。今後は控えるよ(笑)」


「…………。…本当に。子供みたいな人ですね? …フフッ」



 テューにまた要らぬ面倒を掛けてしまったか…反省。

 じゃあ気を取り直してねっと。


 俺はテーブルのナプキンで身体に掛かった埃を落としてから首元に引っ掛ける。



「お嬢さん。悪いが食前酒を先にくれないか。人数分で」


「ひゃ、ひゃい!」



 ダンディーの奴が流石に俺が厚かましいと顔を顰めたようだ。

 ん? 何でンジの奴ちょっと顔が赤いんだ?

 まさか、風邪か?

 今日は早く休ませるとしよう。


 既にテューが触れて回ったのか俺の奢りとわかった途端、他の客はお通夜ムードから一転して肉を片手に持ったパーティピーポーと化していやがったよ。

 何とも現金な連中で助かったな。


 やがて、父親だった店主と一緒に厨房に慌てて引っ込んだ看板娘がワインを持ってきたので俺と恐縮顔のダンディーとンジ、そして苦笑いのテューで乾杯をし、その後態度変わりまくりの店主が必死に運んできた肉と焼き野菜に舌鼓を打つのだった。


 しかも、今回俺が壊してしまった部位はテューの提案で修繕というよりは改装して本当にテラス席にするらしい。


 その特別な・・・席がやたら人気を集めてウイングタイガー亭が大繁盛したり、一部の界隈では、トンデモナイ亜人奴隷を連れてる上に他所の店で暴れさせた更に輪をかけてトンデモネエ新参商人がいるという――…そんな根も葉もない噂が飛び交っている事を俺が知るのは…まだまだ、先の話だった。 





*リザルト*



@各話別諸経費

 住居兼店舗購入代として:

  銀行から金貨150枚(3000万リング)

 飲食店“ウイングタイガー亭”にて、食事代・弁償及び改装依頼代として:

  現金から金貨25枚(500万リング)


★資金(※金貨と金貨以上のみ記載)

 現金:金貨972枚(1億9440万リング)

 銀行:金貨696枚(1億3920万リング)


★物資その他

 魔法収納の革袋(汚)

 飴色のスーツ(装備中※60万リング)


★雇用(扶養)

 ダンディー(護衛奴隷※2000万リング)

 ンジ(従業奴隷※1000万リング)


★身分・資格及び許可証

 商人ギルド三等級商会員(全国共通)

 Ⓒの5増改築許可・物件関連の市諸税免除(三年間)


★店舗(不動産)

 Ⓒの5(※建設中)


★流通・仕入れ

 現在は未だ無し




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