第12話 怒りのモーニング★スター
「そいつは僕のモノなんだ! 返せっ!」
「ンジのことか?」
「うぅ…」
激昂して喚くロン毛に俺の背中に張り付くンジはすっかり怯えてしまっているようだ。
…やだぁ~! コイツ、ストーカーなの?
マジやばくなあい?(何故かギャル化)
「何馬鹿なこと言ってんだ。今回は特別に何も無かったことしてやるからさ? さっっさと帰れ。御近所迷惑なんだよ。これ以上世話になってるムールの親父さんの顔に泥を塗るような真似は止せ!」
「…ムール? くはっ! あのクソジジイが何だってんだあ? アイツもお前もこの僕を軽く見やがって……僕は大商パイエルン家の次子、グリル・パイエルンだぞ!? この僕に恥を掻かせたことを後悔させてやる!」
「じゃあ泥を塗るのはお前の身内にもだ。この恩知らずで恥知らずの馬鹿野郎」
「~~~~っ!?」
俺の安い挑発で更に頭に血が上ってしまったのか、ロン毛は地団駄を踏みながら何かを地面へと投げつけやがった。
…髪の毛? いや、束になった髪。
どこかで見たような記憶のある髪留めと毛色だ…!
「……っ! もしかっして…ニウの!?」
「何っ!? ニウって…あの、お前と仲の良いまだ小さい奴隷の女の子か!」
その髪の持ち主に気付いたンジが悲鳴を上げる。
ムールの奴隷商で俺に叱咤されるかもしれないと思いつつも「ンジを買ってくれ」と奴隷としての身分を超えた願いを請うたあの健気なツインテ幼女だ。
多分だが、このロン毛からンジを遠ざけたかったんだろう。
「……貴様(ギロリッ)」
「フ、フン! 憂さ晴らしにあのクソジジイが大事にしてる奴隷共を痛めつけてやったまでさ! だが、ここで僕のお気に入り以外を死ぬまで痛めつけた後はアイツらの死体をあのクソジジイの店に飾ってやるってのも良いかもな?」
「いい加減にしろよ」
……流石の俺にも我慢の限界があるぞ?
この馬鹿をボッコボコにして丸裸の丸坊主にしてムールの親父さんと皆に土下座させてやんぜ!(主にダンディーが)
「おうおう、この兄ちゃん。なかなか良いツラするじゃねえかよ」
「そーだな? 流石に
息を勝手に荒くしているロン毛の横にニタニタと気味の悪い顔をしたガラの悪い野郎共が並ぶ。
「何ぃ~? なんの為にお前らのような屑共を高い金で雇ったと思ってる! さっさとあのデカブツを始末しろ! 冒険者風情が!」
「チッ…商人の生まれってだけでよお~…」
「…冒険者?」
「大旦那ァ。あんな奴らとオイラ達を一緒にしないで欲しいなぁ」
「ああっ! アイツらの顔ギルドで見たこともないよっ。きっと
「言ってくれんじゃあねえか? 色っぺえネーチャンよう」
闇ギルド…そんなのもあんのね。
つーことはコイツらはマジの悪人ってことかい。
最初はロン毛を入れて十人もいないかと思ったが…ロン毛に並ぶ闇冒険者が八人。
その他に暗くて気付かなかったが、さらに後ろに襤褸切れを纏って剣を持ってる連中が五人いたみたいだな。
…良し! 交渉するだけやってみるか。
俺は手をパァンと一度だけ叩いて音を鳴らし、注目を集める。
「じゃあ、俺と取り引きしないか?」
「取り引き?」
「そうだ。そこのロン毛をボコして縛り上げてくれ。そしたら今後一切恨みっこなしの一人につき金貨三枚くれてやる」
「「……金貨、三枚! ……(ジィ~)」」
一斉に悪党共に視線を向けられ顔色を悪くするロン毛。
だが…そいつらは更に嫌な笑みを増してコチラに振り向いた。
「確かに魅力的な提案だなあ? コイツは嫌なヤローだし、今回の報酬も銀貨しか出さねえケチだしよ? ……だが、悪いな。アンタをバラしたら持ち物は好きにして良いって言われてるんでね? その金貨はアンタの死体から有難く失敬させて貰うとするぜ」
「そうか。交渉決裂ってやつだな…(チラリ)」
「……(コクリ)」
俺が息を吐いてダンディーに目配せすると、頼りになって困っちゃうダンディーさんが無言の頷き。
あ~コレ処刑用BGMとか流す感じですよ?
ダンさん! 少し懲らしめておやりなさいっ!(偽ちりめん問屋)
「まっ待って下さいデス!?」
「…ンジ?」
何故か俺に再度強くしがみ付いてくるンジが、必死の叫び声で俺とダンディーに涙を流しながら訴える。
「馬鹿な奴らだ。まだ、気付かないのか? ソイツの言う通りさ! デカブツめ、死ぬ前にお前の
「……何を言っている」
ニヤニヤと笑うロン毛が手を上げると、後ろに居た連中がフラフラと前に出てくる。
何か様子が変だと思っているとこれまた下卑た笑みを浮かべる悪党共がその襤褸を剥ぎ取った。
「…っ!」
「みっ皆っ!? やっぱり! 七号さん! 二十三号さん! 二十八号さん! 三十号さん! 三十五号さんまで…!」
「こ、コイツら! ムールの親父さんの店の地下で寝てた奴らじゃないか!?」
何と残りの五人はムール奴隷商の残りの生涯奴隷だった!
だが、もう立つこともままならないくらい弱ってるって話じゃ…?
そうか、だからンジの奴、『魔力感知』スキルで気付いて動揺してたんだな?
近づく不審者に混じって
彼らはまるで強制的に身体を操作されているように呻き声を漏らしながら徐々に俺達に近づいてくる。
「どうせ放って置いてもその内死ぬ連中だ。僕がせめて
「何でだ? アイツらもムールの親父さんが支配者ってことになってんじゃないのかよ!」
「……グリルの手に持ってるものを見ろ。アレは『奴隷支配の合鍵』という代物だ。アレを自分やンジの首にもある『奴隷の首輪』の鍵穴に無理矢理差し込まれると、本来の隷属契約者が支配権を取り戻すまで…肉体の動きをある程度操作されてしまう外道の品だ」
さてはムールの奴隷商を襲って生涯奴隷達を盗み出しやがったな!
畜生! ロン毛の野郎そこまでするか!?
確かに邪悪な笑みを浮かべる悪魔のロン毛の手には、俺が持ってるあの“黒い鍵”のパチモンみたいのが沢山ジャラジャラしてる鍵束みたいなアイテムを持ってやがった。
……~やっぱダメか?
俺の『鑑定』は極近距離でしかその効果が無かった。
だから敵の情報も判らない。
「
「許せねぇ!!」
「このクソッタレ共っ! 幾ら奴隷相手だからってあんまりだっ! アタイがその頭を斧でかち割ってやるよっ!!」
俺も同じ気持ちだった(君らみたいに腕っぷしが強かったらね?)
そして、どうでも良いがヴリトーは怒ると標準語っぽくなんのね。
「おっと、良い見世物なんだ。邪魔すんじゃねーぞ小僧共?」
悪党共の中から五人。
背後に隠し持っていたクロスボウのようなものを取り出して俺達を狙う。
…いや。狙ってんのは支配されてる奴隷達か!
「クッソっ! 飛び道具なんざ卑怯者が使うモンだろーがっ!? この卑怯者共が! 男だったら斧で来いっ!」
「イノ!迂闊に飛び出すんじゃあねえ! 毒が塗ってあるぞ!」
「その通り…良い勘してんじゃねーか」
ぐぅ…だが、どうする?
仲間だった奴隷達をダンディーに攻撃させるのもアレだし。
かと言って、このままじゃ嬲り殺しにされちまうぞ…。
「奴隷共っ! さっさと目の前の
「……
「…なっ、七号さん!」
息も絶え絶えの老人である奴隷番号七号がニヤリとニヒルな笑みを浮かべてロン毛に問い掛ける。
その顔はもはや死人のように蒼白で口元には血が滲んですらいた。
「ぼ、坊主だと!? 図に乗るなよこの人権すらない死に損ないめ! この連中が僕の友達なわけないだろう? …あ~…仕方ない。そうだ! 僕とこの八人。そして奴隷三十六号
「ほう? 確かに聴いたぜ、坊主…その
「へへっ…いいわ。乗ったわ、七号のオジイチャン。…皆も、それで良い?」
「「…………」」
残りの奴隷達がその意味深な問い掛けに弱々しい笑顔で答えた。
その瞬間――五人はそれぞれ自らの身体に剣を刺し貫いた。
「いやあーーーっ!! 三十五号さん!!」
ンジが三十五号と呼ばれる女性の元へ駆け寄る。
「コイツら…やりやがった!? この馬鹿が! テキトーな受け答えすっからだ!」
「なっ…なななぁ……な…なんで?」
自らを刺して命令を止めた彼らを前にロン毛は呆然と棒立ちになっていやがった。
きっと…お前みたいな人間には一生解らんだろうぜ。
「我が主人よ」
「ダンディー…」
「……
泣き叫ぶンジを前にダンディーは俺に背を向けてその顔を見せなかったが、その後ろ姿から悠に怒りの熱が見て取れる。
「いいよ。
「…感謝する!」
ダンディーが普段から身体に何かアクセサリーのように巻き付けていた鎖を地面にズシャリと落とした。
「ヤバイぞ! あのリザードマン動きやがるぜ!?」
「撃て!撃て! こっちに近付けるなよ!」
「「危ないっ!」」
悪党共が手にしたクロスボウから毒矢らしきものが放たれ、咄嗟に身構えていたイノ=ウーとヴリトーが俺とンジに覆い被さって防御した。
だが、俺が目を瞑ってる最中、頭上から澄んだ金属質な衝撃音が聞こえ、その後に近くの地面に何やらボトボト落ちる音が聞こえた。
目を開くと、地面にクロスボウの矢が落ちていて、ダンディーの半身が
「毒矢が刺さんねえぞ!?」
「あのリザードマン、加護持ちか?」
「待て!
「うるせえ! すっこんでろっドアホが!」
恐らく、彼が持つ『鋼鉄化』のスキルによる防御だろう。
俺達を狙った矢もダンディーが自らの肉体で弾いてくれたのかもしれない。
「そのまま伏せていろっ!」
ダンディーが鎖を頭上でブン回し始めた。
物凄い風圧で土埃がまるで竜巻が生じたように舞い上がった。
「――フンッ!」
そして、ダンディーが回す鎖の先にはスイカ玉くらい大きな鉄球が付いていたようで(俺はずっとファッションでつけてるのかと思ってた…)、遠心力を利用して投げつけた鎖鉄球は半円を描くようにして凄まじい金属音を轟かせながら悪党目掛けて伸びていき――…
なにか「パンッ!」という破裂音を残してクロスボウに再度矢を装填していた五人の上半身を跡形無く吹き飛ばした。
何とか範囲から逸れた三人がその凄惨な様を見て恐慌状態になって地面を這いつくばりながら逃げていく。
「ばっ化け物だあああ!?」
「うわああああ!」
「待てこの野郎っ! 逃げるんじゃねーっ!」
「……待て。やっと来たか」
両手に斧を持ったイノ=ウーが悪鬼のような表情で逃げた闇冒険者の残党を追おうとするのをダンディーが止める。
「どうやら間に合わなかったようですね…」
暗闇から灯りも点けずにヌーっと姿を現したのはテューであった。
その背後からフードを深く被った恐らくギルド関係者らしき者が二人。
ドサリッと死んだようにぐったりした逃げた三人が縄で縛られた状態で地面に転がされた。
「ムール様が不在中に賊に襲われたと彼の奴隷達がギルドに助けを求めにきたのですが…申し訳ありませんでした」
「テューのせいじゃないだろ。この…ロン毛野郎め!」
「へぃひぃいいいい!?」
俺はダンディーが『鋼鉄化』で矢を防いだ段階で腰を抜かしてたみたいで、運良く助かりやがった(まあ一部の骨は折れてるっぽい)この惨事を引き起こしたロン毛の髪を掴んで顔を寄せた。
「どう落とし前つけんだ! コラ!」
「ひっ…どうしてそんな
…………。
「お前? 俺が何で怒ってるか…本当に解らないの?」
「は、はあ? あ!わかった!わかったよ! まだ奴隷が欲しいんだろ? 仕方ない…僕がパパに頼んで何とか伝手の奴隷商から若い女の奴隷を手に入れてこよう! 何なら五人くらいと三十六号を交換なんでどうだ? 良いだろ?」
俺は今迄“人を本気で殺したい”と思ったことなんてないと思っていたが…確かにそうだったのかもしれない。
……コイツは
実はテューから護身用に
腰から下げれて、俺でも扱える一番小型で軽いヤツ。
嫌がる俺にコレを手渡した時のテューの言葉が脳裏をよぎる。
「…良いですか。秩序と法を司る女神の下に、“人を殺してよい”という法はありません。…ですが、“殺しに掛かってきた相手を殺し返す”ことは法で禁じられていないのです。拳には拳、蹴りには蹴り、剣には剣。…自己防衛は全てにおいて許された唯一の法なのです。そこに身分差が生じて問題となる場合もままありますが。それでも、緊急時にエドガー様の命が脅かされた時、あなたは相手に死を以って報復する正当な権利があるのです。ですからどうぞ、お持ちになって下さい」
――俺は無意識に腰からメイスを抜いていた。
「待って」
背後から掛けられた声で俺は我に返り、テューがどこかホッとしたような顔で震える俺の手からメイスを預かってくれた。
ロン毛は完全に気絶していて勝手に地面にズリ落ちた。
「…あなた。この子の新しい御主人様なんでしょ? フフ…存外良い男じゃない。 人権も取り上げられた奴隷の為にそんなに怒ってくれるなんてさ…ゲホッ…だから、そんな馬鹿の血で手を汚すなんて勿体ないわよ…」
「しっ、しっかりして下さい! 三十五号さん!」
「…ふぅー。良かったわね? 三十六号ちゃん…いや、ンジちゃん。アンタは頭も良いんだから気に入られて、うんと可愛がって貰いなさいな。……あの日、殺された旦那との間にできた、私の娘も……生きてたら……アンタと…同じ…くらい可愛くなってたでしょ…う………」
「三十五号さん…っ」
「「…………」」
彼女は実に幸せそうな顔で。
ンジの腕に抱かれてその辛かったであろう人生の最期を迎えた。
何とか息があった唯一の奴隷も、ギルドでの治療も虚しく翌朝亡くなったという。
その場以外にも襲撃時に抵抗して、恐らく闇冒険者達に殺されてしまった生涯奴隷が二名。
その夜の事件で七人の奴隷が命を落とした。
一晩中泣き喚くンジと、ひたすらに奴隷達の亡骸の前に座っていたダンディーの姿を見て、俺はやがて…一つの結論に至ることなる。
*リザルト*
@各話別諸経費
今回特筆する事は無し
★資金(※金貨と金貨以上のみ記載)
現金:金貨972枚(1億9440万リング)
銀行:金貨685枚(1億3700万リング)
★物資その他
魔法収納の革袋(汚)
飴色のスーツ(装備中※60万リング)
★雇用(扶養)
ダンディー(護衛奴隷※2000万リング)
ンジ(従業奴隷※1000万リング)
イノ=ウー(冒険者※月給20万リング)
ヴリトー(冒険者※月給20万リング)
★身分・資格及び許可証
商人ギルド三等級商会員(全国共通)
Ⓒの5増改築許可・物件関連の市諸税免除(三年間)
★店舗(不動産)
Ⓒの5(開店準備中)
★流通・仕入れ
現在は未だ無し
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