魔物でも何でも雇います!異世界KOMBINI

森山沼島

序章 城塞都市アーバルス1号店

第1話 星に願いを



「――…だからのぅ。悪かったと言っておるではないか」


「いや、ンなこと言われてもさ?」



 どうしてこうなった。

 この現実離れした現状にさっきからそんな言葉しか出てこないでいる。


 俺の名前は江戸川えどがわ正歩まさある

 マイホームのすぐ裏にある陰気なボロいコンビニで長年扱き使われている、見た目はこの通り冴えないが立派な社畜フリーター様だ。


 両親は俺に“正しい人生を歩んで欲しい”という願いからこの名前を付けてくれたらしいが――…就職浪人から現在に至っているので、その期待に応えられてるいるかどうかは正直言って微妙なところではある。



 さて、そんな何処にでもいる一般人男性の俺だが。

 目の前でフワフワ漂うやたら偉そうな態度の謎の銀髪幼女と何で一緒にこのワームホールめいた、これまた謎の異空間で絶賛ランデブーしているのかという点が最も重要案件だろう。



 平時の十一連勤を終えた俺は深夜、自宅の愛しい安アパートの狭過ぎる棺桶のような風呂でリフレッシュ。

 湯上りの火照った身体を覚まそうと錆で軋む窓のさんに手を掛けたその時だった。



「あ! 流れ星だっ」



 ロマンティックをあげるよ宜しく、闇夜に大きく光る一筋の流れ星が!


 何とも素敵じゃないか。

 俺は咄嗟に「宝くじが当たりますようにっ!」と儚い星の軌跡が瞬く間に必死に三度、近所迷惑なんて構わず叫んだよ。

 誰だってそうする無難で可愛いお願いじゃないか?


 ――…はて? だがオカシイ。

 

 流れ星は未だ空を移動していて、既に俺の願いを二十回以上は叶えてくれている。

 もしや、隕石か未確認飛行物体の仕業か?


 そんな事をボンヤリと考えながらそれを見ていたら…ふと、俺は思った。



 その光が徐々に大きく…いいや、コッチに向って近づいてきてるんじゃないか?


 

 ――…気付けば俺は、悲鳴を上げる暇もなくその光に一瞬で飲み込まれていたって訳さ。



「迂闊であった。反省はしとる」



 で、その光の正体がコイツ…一応、このちんちくりんなナリでも異世界の女神らしいとのこと。

 何で女神が空から降ってくんのぉ!?

 …だが、真実は小説よりも奇なりとも言うからなあ。


 なんでもこのロリ女神。

 この地球(のある宇宙?世界?)のサブカルチャーに熱心な余り、俺の世界の神様に無断でお忍びでやってきていた上に…地上に溢れる数多の娯楽を遠視で覗くのに夢中になって神速移動のコントロールを誤った挙句……。



 俺の居たボロアパートに落っこちてき直撃したらしい。

 まさにメテオだな。



 その結果、アパートとその周囲数メートルは原子分解レベルで地上から消滅したという。

 で。俺はそれに巻き込まれてお亡くなりになった、と?



「別にお主は死んではおらん。そもそも管轄が違う世界の生命を奪うことなぞ神の沽券に係わるからのう。下手したらお主の素晴らしき退廃の世界を司る神がキレて出入り禁止にされてしまうかもしれんしの…」



 出入り禁止…そこはこの娯楽に飢えたサブカル女神にとっては重要らしい。


 だが、そこはロリでも異世界の女神。

 神の力を以ってして被災地一帯にいる者の運命線とかナントカを気合で捻じ曲げることで件の神レベルの事故に巻き込まれたという結果をどうにか回避させることができたらしい。

 当人達は深夜帯であったのにも関わらず何故か家から出払っていて偶然にも“ガス爆発事故”から難を逃れた、と現実自体を改変されて。

 その辺は俺の世界の神的には良いのだろうか?



「えぇー…じゃあ、俺は?」


「お主はアレじゃ。実に運が無かった! どう足掻いてもお主だけは消滅が確定しとったんじゃ。直に神が関わればそれは単なる殺生ではなく魂の大いなる源泉に還すこととなる。故に、お主の存在を保つにはこうして我が世界へとコッソリ連れ出す他なかったわけじゃな!」



 …俺ン家を消滅させといてどこがコッソリなんだ?


 流石は神様。

 身勝手の極みというヤツなのか、それとも単なる人間のスケールで推し測ること自体が土台無理なのか。


 というかコレ、勝手に別の世界で余所見事故起こした上に異世界転移レベルでの誘拐なのでは?



「おっと。忘れるところじゃった! ほれっ」


「痛゛っ!?」



 俺の隣で平行移動していたロリ女神が俺の顔面に向って何かを無遠慮に投擲してきた。

 幾ら神様だからってもう少し被害者を労わる気持ちがあっていいと思う。


 俺は若干涙目で近くをプカプカ浮いていたブツを手に取った。

 ……何だコレ? みすぼらしい革製の小袋のようだ。

 大きさは両手で包み込めるくらい。

 何か入っているようだが感触が不確定というか良く判らない。


 そして、心なしかちょっと汚くて生臭い気がする…。



「慰謝料じゃ。お主の世界でも我が世界でも生きるには幾ばくかの金が要るというもの。金貨で二千枚・・・・・・ほど入れておいた。それで了見せい」



 慰謝料とは…随分と神様にしては生々しい対応処理だな。

 だが、無一文で放り出されるのと比べれば遥かにマシではあるだろう。

 異世界の金貨とやらの価値は判らないが…二千枚、ねえ。



「この小さな袋に…二千枚も?」


「そうじゃぞ? その袋は下手すると中身の金貨なんぞよりも遥かに価値がある代物でな。見た目よりも遥かに広大な収容スペースを持つ異空間に繋がっておる。成竜の五~六は余裕で入る」



 せ、セイリュー…?

 聞けばいわゆるドラゴンのことで、その最大級サイズを指すものらしい。

 ゴ●ラくらいあるって言ってけど…確かアイツ軽~く全長百メートル超えてなかったっけ?


 てか、今更だがそんなリアル特撮怪獣が存在しうる異世界行きが確定している件。

 今後の資金面は暫くどうにかなってもそこなあ~…。

 やっぱり剣と魔法の世界ならモンスターとか魔王とか厄介なヤツもワンセットなんだろう――…不安は、有りまくる。



「なんかチートスキル的なものとか貰えたりとか…」


「何ぃ~? ちーとすきるじゃとぉ? ダメじゃダメじゃ! そんなみだりに強力過ぎる力をホイホイと肉体も精神も脆弱性のあるお主ら人間に与えるわけなかろう? どう考えたって世界に大小の混乱をもたらすじゃろが」



 ですよねぇー…。



「じゃが勝手異なる我が世界に不慣れであろうお主には、この手の話にはテンプレ・・・・な『鑑定』と『翻訳』のスキルをくれてやるでの。まあ、それ以外はその金子で何とでもするがよいわ」


「はあ」



 流石事故って俺を異世界に連れてきただけあって、このロリ女神もそれなりにその辺のサブカルに多少の赴きがあるようだ。

 神がテンプレとか言っちゃうんだもんなあ。


 ……確かに。

 別段、物語の中の勇敢な異世界を生きる主人公のように俺が魔物と戦う必要などないだろう。

 

 それと、俺にはそれらのヒーロー&ヒロインほどのぶっ壊れスキルが無かろうとも――…異世界スタート時点で手持ち・・・がある。

 しかもロリ女神の言うように鑑定やら異世界言語やらも多分オッケーだし、怪獣が何体か入っても大丈夫なこのアイテムボックス的な小袋(汚)もある。

 そう悲観することもないはずだ。



 その後、ロリ女神と幾つか言葉を交わす内に次第に俺の視界が光の中にホワイトアウトしていった。

 最後に「本当にすまんかったの。せめて思う存分楽しんで生きて欲しい」という言葉が耳に入ったところで俺の意識が途切れたのだった。



  $$$$$$$



「うっ…」



 目を覚ませば、そこは――異世界であった!


 どうやら俺は見知らぬ土地(そりゃ当り前だが)にある大きな建物…いや城壁で覆われたファンタジー世界ならではの城塞都市の出入り口らしき要所へと続いている二車線道路くらいに幅がある石橋の前のド真ん中に突っ立ていたようだ。


 見渡す限り見た事も無い人種(今のとこ人間ばっかだな)の者達がヨーロッパ中世時代然としつつもやはり俺の世界とは異なる様相で行き交っている。

 さしもの俺も本当に全く違う異世界へ来てしまったことへの興奮と動揺が隠し切れないでいるのが、年甲斐もなく無性にもどかしくて恥ずかしいが止める事は先ず無理だろう。



「ん? あんな奴、さっきまでここに居ただろうか?」


「放っておいてやれよ。あの恰好だ。どうせ追い剥ぎにでもあったんだろうぜ」


「もぉーやあねえ? クスクス…」


「ねぇ? ウフフ…」



 だが、次第に冷静さを取り戻せば…俺の周囲からは奇異の視線を感じ、時には通り過ぎる若い女性達などからは押し殺した笑い声のようなものまであった。


 ふぅ~む…やはり、俺の黒髪黒目はそれなりに目立つのやも。

 なるべく早く隠して方が良いのか?


 そんなことを思考しつつ目線を下に向け……――そこで俺はとある重要な問題に気付いてしまった!


 そう。俺は不条理にも女神によって有無を言わさずこの異世界へと連れてこられてしまった!


 だが、重要なことが他にもある。

 それは俺は風呂上りであったことだ。



 …うん。俺、まだ着替えてなくてパンイチのままだったわ(涙)


 


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