第14話後編 穀倉部門のギルドマスター



「お待たせしました。エドガー様」


「おいっスゥー★」


「「…………」」



 本日、俺達は留守(嵐の昼営業時間は瞬く間に終わったからねえ)をイノ=ウーとヴリトーに任せて、商人ギルドへと足を運んでいた。


 勿論、単なる冷やかしじゃないぜ?

 そんなことしたら俺達を迎えてくれているこの塩顔美人爆乳受付嬢のテュー嬢にしばかれちゃうからな。


 それにしても……目立つなあ~うちの護衛奴隷ダンディーは。


 一緒に連れてきてるンジなんて、さっきから俺にガチガチに緊張してしがみ付いてて、むしろちょっと微笑ましい視線を商人ギルドの人から向けられるくらいなのにさあ。



「本日の御用は……ああ。ダンディーさんのお持ちになってるそれ・・ですね?」


「うん。また頼もうかと思ったんだけど…どうだろう?」


「…………」



 ダンディーが無愛想にフンスと肩に背負っていた…余裕で人を二十人は詰められそうな麻袋(ノーム達がくれた)をギルドの床へと降ろした。

 ドスゥゥゥウン…という腹に響く音により一瞬だがあれほど騒がしかったはずのギルド内に静寂が訪れる。


 俺は意味なく周りにいる人達にペコペコと頭を下げてしまった。

 てか、どんだけ獲れんのよ? うちの菜園からさ。

 麻袋の中身は現在販売中のピタサンドの原料である脱穀した大量の小麦だ。

 前回持ち込んだ量の三倍はあるなあ。



「やはり、難しいかもしれません」


「う~ん…そうかあ~…っ」



 俺は思わず頭を掻きむしった。

 いや、予想はある程度できていたんだがな?


 現在、俺は市内から原材料を調達できなくなりつつあったのだ!


 原因? ――…ンなの、あの黄金ロン毛の野郎のせいだるルォッ!?


 あのパイエルン商会の跡取りだがシラミ取りだが知らんが、あの野郎が根回しして方々に圧力を掛けているらしく、商人ギルドに仲介を頼んでも物を売って貰えんのですよ!!(大激怒)

 ねえ~どうしてこんな陰険な嫌がらせするのぉ~?

 イノだって「男なら斧でこいっ!」って言ってたじゃん。


 それどころか、人手不足であてにしていたムールの親父さんにも影響が出てる。

 だが、流石にあの黄金ロン毛でも、父親である現商会長のボイル・パイエルンと懇意であるムール奴隷商に直接的に何かやってきた訳ではない。

 ムール奴隷商の奴隷達を突如として借りたい(しかも好条件・高報酬で)という中小商会からの注文が殺到して俺に回す奴隷がいないというのだ。


 クソぉ~あの黄金ロン毛野郎、やりやがるぜぇ~…!


 魔法金属製のケグを売ってくれたダンダダや、密かに持ち帰り用・・・・・として俺達に肉を提供してくれた“ウイングタイガー亭”の店主にもこれ以上迷惑を掛けられないしなあ。


 そして、俺が前回紹介して貰った粉屋(簡単にいうと持ち込んだ小麦を小麦粉にしてくれる業者さんな)と他も同様の理由でNG。


 幾ら菜園が魔法植物万歳でも、限界がある。

 因みに、異世界八百屋さんに転向することはできない。

 恐らくは速攻で上質な作物・・・・・を商う商会と紐付きの貴族達によって潰されるっぽいからね…。



 ……俺はもう、詰んでいる(あべし)



「ロースター様は大体の中小商会の弱みを完全に把握されている御方です。この手の締め出し工作はお手の物でしょう」



 だが、かと言ってトップ域の商会は頼れないと暗にテューの表情が物語っている。


 それは即ち、“助けて欲しかったら、うちの傘下にお入んなさい♪”ってことになるのは目に見えていて、また、その連中が困り果てた俺が自身の商会に助けを求めにやって来ることを傍観しつつ待っているのだ、と。



「ですが、まだ手はあります。もう少々お待ちくださいますか?」


「うん?」



 テューが珍しくニヤリと笑った(怖い…)




  $$$$$$$




 一般商会員も利用する応接室に通されて俺達は暫し待つ。


 前に通されたのがファーストクラスならここはエコノミークラスだろう。

 まあ、ファーストクラスなんて乗ったことも見た事すらないけどね。

 単に前に通された場所より幾分か質素だって言いたかったんだ。



「お待たせしました」



 ノックの音と共にテューが礼儀正しく頭を下げてから入室してくる。

 

 その後ろからの見知らぬ人物がのそりと続いて入室を果たす。

 一瞬俺が身構えるほどの大男だった。

 俺の背後にダンディーが居なかったら、圧倒されていただろうなあ。


 鈍く光る銀髪をセンターから左右に流した黒檀の肌を持つ恐らく四十代くらいの壮年の男だ。

 如何にも屈強そうで、なかなか強そうだぞ…?



「オーゥ! ユーが噂に名高きエドガー・マサール殿デースカ!? コンニチーワ!!」


「え!? はい?」



 意表を突かれた俺の思考は一瞬だが停止させられていた。

 え? なんでそんなわかりやすーい片言なの?

 その黒檀の銀髪大男は入室して速攻駆け寄り、俺の手を両手で握って上下にブンブン振り回してニッコニコである。



「こちらは当アーバルス商人ギルドの穀倉部門ギルドマスター。ジャン・ピエール・キング=ナッシング様です。キング様は南公国タオリンの御出身なので南部訛りが御有りになります」


「ノォー! Mr.ミスターエドガーもテュッティーも! ワターシのことは単にジャンと呼んでクダサーイ」


「…私の名前はテュテュヴィンタですよ。キング様」


「ははは……で、では私はジャン様と呼ばせて貰いますかね?」



 何という似非外人キャラなんだ。

 それを訛りて……訛り…訛りかなあコレ~?


 あくまで俺の『翻訳』スキルの仕様上、そう聞こえるだけかもしれないしなあ。

 深くは考えんとこう。


 それに穀倉部門のギルドマスターだってんだから、こんな色物キャラでも偉い立場の人物のはずだ。

 知り合っといて損はないだろう。



「今回のエドガー様の製粉依頼をこちらのキング様にお願いできることになりまして」


「え!ホント? 助かるなあ~!」


「オフコース! ……デスーガ。その前に」



 突如として神妙になったジャン氏が佇まいを直すと、巨大な麻袋を預かっていたダンディーの前に立つ。

 何してんだろ? と思った矢先にその大男は目を瞑って自分の頭を片手で前に撫でるような仕草をしてそのままその手を胸に置いた。

 対面するダンディーは少し驚いたような様子だったが、数秒置いて、ジャンと同じ挙動をして軽く頷くように頭を下げた。



「偉大なりし雨と豊穣を司る女神ルサールカの眷属にして強き戦士サン。御会いできて光栄デース…」


「……汝にも、女神ルサールカの恵みを」



 そう言って互いに神妙に通じ合ってる感じのごつくてデカイのが二人。

 完全に俺達は置いてきぼりの雰囲気だあ。

 俺、コッチの世界の宗教観とか一切知らないんですけどー?



「ご、ゴ主人様。あ、アレは書物にも書いてあったリザードマン達の正式な作法での挨拶デス」


「よく知っていますね。南公国は人間種よりも亜人種が多いので、多文化にも柔軟な方が多いんですよ」


「へ、へえ~」



 …………。


 というか、何で当然の様に俺の座っている横椅子に君らも腰掛けてるの?

 ち、近いんですけど? 何か良い匂いもするんですけど?

 後で俺がセクハラしたとか言わないよね? 頼むぜ。



「フーム…コレーガ…。ヘイ!Mr.エドガー! この麻袋の中身を拝見させて頂いてもよろしいデースカ?」


「アッハイ。…ダンディー、見せて差し上げるんだ」


「了解した」



 ダンディーがシュルシュルと麻袋を支えながら(そうしないとこの部屋に麦が漏れなくぶちまかれるからな)紐を緩めると、そろりとジャン氏が手を入れて一掴みの麦を取り出してその表情を驚愕に変えた。



「…アンビリィーバブゥル信じられない。何と素晴らしい麦なのデショー…! これがあのノームの黄金魔術・・・・・・・・デースカ!?」


「ノームの…黄金?」


「ほ、ほら! ノームの皆さん建築や菜園で出してた・・・・じゃないデスカ…?」


「ああ。あの大量放出してたサイヤン・オーラか…」


「……ここだけの話ですが。エドガー様の持たれるあの菜園は普通・・じゃないんですよ?」


「ん? そりゃあ魔法植物の種だから――

「違います」


「あ…うん。そうなんだ? 俺が悪かったから許して下さいお願いします」



 隣のテューが喰い気味に凄んで来たが、やっぱりあのノーム達がハッスルし過ぎた結果の産物らしい。

 そりゃあ成長速度も収穫量も、あの敷地面積に対してパないもんなあ…。

 そもそも幾ら魔法植物だからって収穫した後の作物にまで“黄金こがね色のオーラ”を纏ったりしないそうですよ。


 え? 今日俺がギルドに持ち込んだ麦はどうかって?


 そりゃあ纏ってるよ!? こんなんスーパーサイヤン小麦だわい!(自棄)



「ブツブツ…本当に素晴らしいデェース……ブツブツ…これがもし…ノゥ!ここまでに及ばずとも世に普及できれば……!」


「何か…偉い熱心なのな?」


「キング様は南公国で魔法植物の研究をされていた御方ですので」


「ほおー」



 見掛けによらず学者筋の人だったのかね?

 だが、突如としてその大男がギラギラした目付きで俺に掴みかかってきたので漏らしそうになったよ。



「Mr.エドガー! どうかこの麦の一割で構いマセーン! ワターシにどうか譲ってクダサーイ! 製粉作業は責任を以って迅速に行いマースシ、テュッティーから聞いていた塩やオリーブオイルなど必要とするものはワターシが用意シマース! どうかお願いデェース!!」


「おぅふ…おふ、こーす勿論ですとも?」


イェアやったぜ!!」


「テュテュヴィンタですよ。キング様」



 ジャン氏がガッツポーズを決めると共に俺を長椅子へと放り投げる。

 いや、やっぱ学者肌って感じだけじゃねーなこの人は。


 だが、これでまだピタサンドを売れるな(ヴリトー、ガンバ★)


 俺が持ち込んだこのノームの黄金小麦を研究に使いたかったのかね?

 だが、喜び飛び跳ねていたジャン氏がまた突如としてビタリと動きを止めるとこれまた神妙な顔で見やる。


 え゛。また、掴み掛かって……は流石にこなかった。


 静かに俺の対面の長椅子に腰を降ろして息を整えると、これまた何処かで見た事のあるものをローテーブルの上に広げて見せてくる。


 まあ、この異世界地図だよね…。



「実は…Mr.エドガー、ユーにワターシから提案がアリマース。先ず、ワターシの話を聞いてクダサーイ」


「はあ…」



 何でもこのジャン・ピエール・キング=ナッシングは、アーバルス商人ギルドの穀倉部門ギルドマスターとして城塞都市周辺の現状況を日々憂いていたらしい。

 主に食物の流通に関して彼は憤っていた。

 絶対的な流通量の不足に加え、高額な市場価格。

 立場の弱い貧しい人々は、中王国の豊かさに反比例するように困窮し続けている事実。

 故にジャン氏は魔法植物を用いた農耕でその解決を図ろうとするが、貴族と大商会に邪魔されるばかり。

 例えば、パンひとつでも、下層民に多く出回っているのはちゃんと精選されもしない質の悪い小麦類で作られた…いわゆる黒パンみたいな代物。

 それには病を運ぶ悪い精霊(恐らく昔、教育番組で観た“麦角菌”に近いもんだろう)が憑いていることも多く、苦しんだ末に惨い死に方をする者が後を絶たないんだという。



「ワターシの故郷は乾いた砂地の多く、農耕に適していない過酷な場所デース。故に大昔から魔法植物の研究に力入れてマーシタ。でもネー…中王国アヴェリアの食糧流通に関わる貴族達も商会も間違ってマース! 富を優先して民草をないがしろにシテマース!!」



 ジャン氏は腕を振り上げて俺に叫び、涙を浮かべて訴える。



「見てクダサーイ! この地図…中王国の北東にアンブラミという小さな領地アリマース…」



 ここアーバルスからやや離れた北東、亜人国ズーラン北皇国アルスの国境にも近い場所にアンブラミ男爵領という場所があるらしい。


 何でも、昔の戦争で何度も壊滅状態になってもまた立ち上がり、健気に苦境に耐えてきた村人達が代々住まう土地なんだそうだが…。


 そこの男爵のエイブラハム・アンブラミという男が…酷い領主だそうで、長年好き勝手に領民に重税を課していた上に他領から多額の負債を抱えていたことが近日公になった。

 それにより国から御達しで男爵家は取り潰し、だが、暮らしに困った領民はこのままでは皆が奴隷堕ちになるしか、ないとかさぁ~……救いはないんですか!?



「許せマセーン!! ここの村人サン達に何の罪がアリマースカ!? 例え貴族が見放しても――中王国の民の暮らしを守ることは商人ギルドの務めデェース! それが人のというものデーショウ!?」



 俺の隣のンジに至っては涙も鼻も垂れ流しで頷いている。

 俺は彼女の顔にハンカチをあてがってそれ以上酷いことにならないように祈ったよ。



「だからワターシはこの男爵領の村人サン達助けたいンデース! ここなら悪い貴族もそう干渉できマセーン。ここで魔法植物の農作を行って生産した食糧で国中の飢えを満たしたいンデス…! ――…というこでMr.エドガー。ワターシの穀物部門に融資・・してくれマセーンカ?」


「ん?」



 おいおい…ちょっと風向きが急に変わったんじゃないか?



「勿論見返りアリマース! そもそもこの計画はユーと懇意にしてるノームのアンダルキン氏の協力が不可欠デースカラ」



 え? 誰? アンダルキンて…。


 あ。そういや、リーダー格っぽいノームの人がそんな名前だったかも?



「取り敢えず、最初・・は――…金貨千枚からでお願いシマースヨ!(ニコニコ)」



 はわわ!? 金貨千枚って…二億リングかよ!

 さてはコイツ…俺が三等級商会員だからって金に困ってないと思ってやがんなあ。


 いやでも、全財産のほぼ半分以上じゃないかあ…んぎぃ~!!



「ゴフォ…ゴフュジィンシャマ…!(嗚咽)」


「…我が主人よ。奴隷の身でありながら自分からも頼む。どうか、この男に力を貸してやれないものだろうか」


「えぇ~…」



 奴隷の二人がこんなに早く主人を裏切るとか、酷い話もあったもんだ(小並感)



「キング様…よろしいでしょうか? お耳を…」


「テュッティー? …オー? …オーイァ。――…ワッツ!?」



 何やらいつの間にかテューの奴がジャン氏に囁いている。

 まさか例の『呪術』スキルとかじゃねーだろうな?(疑心暗鬼)



「エドガー様。融資は金貨三百枚で良いそうですよ? 私もこの提案に乗って今後損はないかと…」


「三百? それなら…」



 あの黄金ロン毛から押し付けれた金塊と同等だな。

 元から予期せぬものだし、プラマイゼロ・・・・・・なら問題ないかな?



「良しわかりました! 俺の為にもなるし、力を貸すよジャン様…いや、同士よ!!(勢いだけ)」


「り…リアリィマジで? ~っグレイツ!! ユーは女神の使いに違いありマセ~ン!! 共にアンブラミを…延いては中王国の困窮する人々を助けマショー!! マイ・ベスト・フレンドゥ我が親友よ!!」



 俺は感激する大男に滅茶苦茶にハグされたよ…。

 テューとンジがパチパチと笑顔で拍手する最中、何故かダンディーが目を閉じて感慨深くウンウンと頷いてるのが印象的でした。まる。



 何かギルドには小麦粉挽いて貰いに来ただけだってのに…また、大事になりそうーな予感がするんだが?





*リザルト*


@各話別諸経費

 保冷性魔法金属製ケグ購入代として:

  銀行から金貨10枚(200万リング)

 アーバルス商人ギルド穀物部門への融資として:

  銀行から金貨300枚(6000万リング)

※店の純利益として:

  銀行に金貨8枚の相殺(160万リング)


★資金(※金貨と金貨以上のみ記載)

 現金:金貨971枚(1億9420万リング)

 銀行:金貨682枚(1億3640万リング)


★物資その他

 魔法収納の革袋(汚)

 飴色のスーツ(装備中※60万リング)


★雇用(扶養)

 ダンディー(護衛奴隷※2000万リング)

 ンジ(従業奴隷※1000万リング)

 イノ=ウー(冒険者※月給20万リング)

 ヴリトー(冒険者※月給20万リング)


★身分・資格及び許可証

 商人ギルド三等級商会員(全国共通)

 Ⓒの5増改築許可・物件関連の市諸税免除(三年間)


★店舗(不動産)

 Ⓒの5:アーバルス1号店(朝と昼のみ営業中)


★流通・仕入れ

 ノーム園芸店より魔法植物の野菜種子各種(※月額20万リング、なお現金払いに限る)



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