第21話 人間の温度 - アオイとタダシ
アオイはタダシについて調べることにした。調べると言っても身辺調査を行うわけではなく、いろんな人のところに行ってタダシの話を聞こうと考えた。そう思ったきっかけは、昨日ヒデオのところで聞いた話がとても面白く、もっといろんな話を知りたいと思ったからだった。なかなか困ったことが起きないのでタダシに会えないことに焦っているわけではない。ただ、タダシに対する好奇心を抑えられなかっただけだ。そもそも昔からリサーチは嫌いではない。
出かける準備をしながら昨日ヒデオから聞いた話を思い返した。
「俺はTIに仕事を奪われるなんてこれっぽっちも思っていない」
それは、ヒデオが何気なく「建設業もどんどんTIに仕事を奪われて、生き残るのが大変みたいです」と言った一言で始まった。最近はみんな、「TIに仕事奪われちゃうよ」とか「TIがいれば俺なんかいらない」など、挨拶のように使うので、ヒデオも特に何も考えずに発言していた。
タダシは、「人間がやる必要のない仕事をTIに任せていると思ってるんだ」と続けた。「よく、そんな風にTIに仕事を奪われたなんて嘆いている奴がいるけど、俺に言わせれば、お前の奪われた仕事は別にお前じゃなくてもできる、どうでもいい仕事だったんだよって思っちゃうね」とタダシは苦笑いを浮かべながら言った。
「ヒデオさんだって、自分がやってきた仕事をTIに任せて、ここで新しい生き方を始めてるわけじゃないですか。これは人間じゃないとできないことですよね」
ヒデオは、一瞬、自分のやってきた仕事がどうでもいい仕事と言われたような気がして腹が立ったが、続いた言葉を聞いて納得した。
「だから、俺は人間にしかできないことをやり続けたい。困っている人がいれば駆けつけるし、悲しんでいる人がいれば抱きしめてあげる。人間の温度でしか救われない悲しみがあることを知っているからね」
「でも、いきなり抱きついて通報されかけたこともあるけどね」とおどけて笑っていたと、ヒデオは楽しそうに話してくれた。
アオイは、まだ見ぬ珍獣タダシの姿を想像して、好感と尊敬の気持ちを抱いた。
「よし、行くか」
リュックを背負って家を飛び出した。
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