第22話 ニート、温泉に入る
雑貨屋を後にした俺達は山の上に戻り、ロープウェイと同時に他の計画も進めることにした。
「温泉旅館?」
「そう温泉旅館だ」
観光牧場と並んでこの島の目玉として用意するもの。それは温泉旅館だ。
「この島には目立った観光資源がない。宿泊施設は街の方にあるが、ただの宿泊施設だからな」
観光牧場を先に作ったら客が来るかと言われれば、答えは否だ。
島にある観光地で場所は山の上。たとえ魅力的な場所でも、日帰りではまず行こうと思わないだろう。
「温泉なんてどうやって用意するんだ?」
「忘れたのか。俺は女神の加護を受けた人間だぞ? 温泉の一つや二つどうにでもなるさ」
女神にでも頼めばその辺りはちょちょいのちょいだろう。
「――というわけで、よろしく」
「あんた本当に、私の扱い雑になってるわよね!?」
「今更だろ」
「日に日に酷くなってるって言ってんのよ!」
何が不満なのか、女神はギャーギャーと喚き散らす。
「でもまあ、あんたがこの島を発展させようとしてるのはわかったわ。それなら大地の妖精のコナーに頼むといいわ」
「あいつ万能過ぎない?」
もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな。
「コナーとタウミは大地と海の化身よ。最上位妖精のあの二人は、できないことの方が少ないわ」
「あいつら、そんな凄かったのかよ」
そんな凄い二人がいるというのに、この駄女神ときたら……。
「とにかく最近のあんたは割と信用してるんだから頑張りなさいよ」
「けっ、偉そうに」
「私、女神! 実際に偉いの!」
とにもかくにも、これで温泉も問題ないだろう。
「……本当に温泉が湧いてるな」
なんということでしょう。大地の妖精コナーの手によって、何もない野原に大きな温泉が湧いているではありませんか。劇的ビフォーアフターにもほどがあるっての。
コナーはこの温泉を、掌を地面に打ち付けるだけで沸かせてしまった。
大地の錬金術師かよ。代償に右腕と弟を持っていかれそうだな。
「……とりあえず試しで作ってみるか」
「いや、そんな料理作るようなノリで作れるのかよ」
今回は旅館ではなく、俺達が使うための温泉を作る。何かと汗を流すことの多い俺達に加えて、教会に風呂のないエリシャが実際に使い、温泉の良さを実感するのが目的だ。
要するに、ゲームでいうところのテストプレイというわけだ。
「大丈夫だ。作るのは温泉と洗い場に脱衣所くらいだ」
「何が大丈夫なのか、俺にはもうわからねぇよ……」
それだけあったら温浴施設としては充分だろう。
「ネイトの温泉旅館のパースも参考にして作ってみるさ」
ちなみに、パースとは内観のスケッチのことらしい。カイジの口からたまに出てくる専門用語ももっと覚えなければ。
「あんなイメージだけで書いたやつ参考になるのか?」
「イメージだけって割には結構現実的だったからな。問題はない」
実際に昔行ったことある温泉旅館の内観を思い出しながら描いたこともあって、俺の描いた温泉旅館のスケッチはカイジに好評だったようだ。
俺の家族は遠出を嫌っていた。それでも毎年冬には、必ずと言っていいほど行っていた温泉旅行が俺は一番好きだった。
……もう二度と行くことはできないんだろうな。
「それじゃ、頼むな。俺はまた鉱山に行ってるから」
「わかった。任せてくれ」
センチメンタルな気分を吹き飛ばすようにツルハシを担ぐと、俺は建設をカイジに任せて鉱山へと向かった。
一通り採掘を終え、辺りもすっかり暗くなった頃、俺は自宅へと戻った。
そのまま道具の整理をしていると、肩にかけたタオルで汗をぬぐいながらカイジがやってきた。
「おーい、温泉出来たぞー」
「夕飯ができたようなテンションで言われても反応に困るな……」
カイジに連れられ家の裏に行ってみると、今朝にはただ穴が開いていただけ空間が、温泉小屋に早変わりしていた。
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