第4話 ニート、期待される
俺が探すまでもなく、漂流者達は街の開けた場所に集まっていた。
「おお、ネイト! こっちだ!」
「……おはよう、ございます」
「おはよう!」
なんとか声を絞り出して挨拶すると、ゴンさんはガハハと豪快に笑って俺の背中をバンバンと叩いてくる。
「農場の調子はどうだ?」
「まあ、それなりに……」
それなりどころかだいぶ開墾は進んでいるのだが。その詳細を語れるほど俺の舌は回らない。
「期待しとるよ! おお、そうだ! それぞれ、何をするか決まったからネイトにも報告しようと思っていたんだ!」
そう言うと、ゴンさんは楽しげに話し始めた。
「みんな聞いてくれ! まずここにいるネイトは順調に農地を開拓している。そのうち新鮮でおいしい野菜が食べられることだろう」
おい、やめろ。無駄にプレッシャーかけるんじゃない。
コナー達が頑張っているから大丈夫だとは思うが、過度な期待からの失望程堪えるものはない。
「それから、クダイさん達は船を修理してくれるそうだ。これで外での物資調達も可能だ」
それは朗報だ。どこかしらの街にいけば小麦粉も手に入るし、開拓用の物資も手に入るだろう。
「そして、ワシら親子はこの島で雑貨屋を営もうと思う。外から仕入れた物資をこの島で売り、この島の物を外で売る。まあ、貿易商も兼ねた雑貨屋になると思うがな!」
……それって一番楽なんじゃないか? だって、俺――というより正確には妖精もクダイさんも肉体労働してんのに、こいつらだけ買って売るを繰り返して儲けようとしているのだ。
そんな不満が顔に出ていたのか、ユイさんが俺の方にやってきて小声で耳打ちする。
「……父さんはああ見えて凄腕の商社マンだったから。コネとかあるだろうし適任っしょ?」
「まあ……そう、ですね」
近い近い、顔が近い! 美人は苦手なんだ。
ユイさんは現在、長い黒髪を後ろで束ねている。服は地味目のパーカーとスカートだが、その格好が彼女のそのままの魅力をより一層引き立てていた。
結局、話はそれだけですぐに解散となった。
クダイさんの大工の腕が気になるところだ。あと正直、船よりも家を直してほしい。
とにもかくにも、ゴンさん親子と俺は船が直るまでは暇なわけだ。うーん、少しは自分でも島を見て回ってみるか。
そうだ忘れていた。女神の奴に捧げものを持っていかなくては。
俺は泉に向かう道中で適当に生えていた雑草を引き抜いていき、それをそのまま女神の泉へと放り投げた。
雑草を投げ込んでしばらくすると、水面からブクブクと泡が出始めて水しぶきと共に女神が現れた。
「……ちょっと! これ雑草じゃないのよ!」
「雑草なんて植物はこの世にない。これもお前の加護を受けて育った植物の一つだ。差別は良くないぞ」
まあ、俺も名前なんて知らんけど。
「ぐっ、ホントに不敬な男ね……」
「別に捧げものをすればなんでもいいんだろ?」
「なんでも良いわけ……あれ!? なんで雑草だけでこんなに力が戻ってるのよ!?」
女神はほとんど悲鳴のような声を上げて叫ぶ。
「こんなのおかしいわよ! だって、捧げものは質より気持ちが大事なのよ! 雑草なんかでこんな量の信仰心なんて……」
「ああ、気持ちが大事だってことなら納得だわ。ぶっちゃけ、ここに来るのも面倒なのに、捧げものまでしなきゃいけないって時点で嫌だからな。そんな労力をかけてまでする捧げものなんだから、価値はあるだろ」
要するに、不良が良いことをするとギャップですごく良いことをしているように見えるという奴である。
他の例だと、ニートが働くとそれだけで凄く価値のあることと両親が感じるのと同じだ。俺は終始働かなかったけど。
「つまりあんたの場合、私に捧げものをすること自体が貴重なことってこと?」
「そういうことだな。付け加えるなら、俺があげたくないと思えば思うほど、捧げものの価値もあがるってことだな」
キリスト教の話で有名な話がある。
昔、裕福な金持ち連中が多額の寄付をする中で、貧しい女性がほんの少しの寄付をした。そこでイエス・キリストは「この貧しい女性は、誰よりも多額の献金をした。皆は有り余る財産の中から献金したが、この女性は貧しいのに生活費の全部を献金した」と言ったそうだ。
つまり、大事なのは寄付というものは、寄付する人の能力や気持ちに対する割合ということである。
とはいえ、もらう側の女神からしたらそんなことは関係ないようで、彼女は雑草で力が回復してしまう現状にゲンナリしていたのだった。
「そんなぁ……」
それでも力自体は回復しているんだから、こいつはもっと俺に感謝するべきだ。農場から近いと言っても、ここまで結構歩くんだ。疲労を感じないのと、動くことに対する気怠さは別なのである。
「てか、女神パワーを他の連中に分けられないのかよ。船とかさっさと修理してもらいたいんだけど」
「私に信仰心があればできなくはないけど、あんたみたいに私を見れないんじゃまず無理ね」
確かに普通は女神なんて超常的な存在は信じないだろう。俺みたいに実際に目にしたり、加護を実感できたりすれば話は別なのだが。
「じゃあ、当面の方針は女神に信仰心が芽生えそうな奴をこの島に定住させるってことでいいのか?」
「ええ、それで問題ないわ」
女神の力は信仰心からくるものだから、信仰心を抱きそうな奴を集めればいい。俺みたいに女神を視認できる人間は近くにいるだけでかなり力をもらえるらしいが、まずいないだろう。
泉を離れた俺は島の散策へ行こうとしたのだが、何か面倒になってきたので結局食材集めもコナー達に任せて昼寝をすることにした。
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