第3話 ニート、妖精を憐れむ
さっそく、俺はどれ――妖精を連れて農場予定地へ戻った。
女神の泉がある場所は農場予定地から少し歩いた森の中にある。街へ行く方面とは逆方面だから、仮に俺以外に女神が見える人間が現れたとしても接触は妨害できそうだ。
「この土地をまるまる農場にしようと思うんだ」
「結構広いナー……でも、僕らにかかればなんてことはないのナー」
この語尾が若干腹立つ妖精はコナー。
大地の妖精という農場にはぴったりの妖精で、全妖精の司令塔のような役割を持っているのだとか。
大地の妖精と言うだけあって、小麦色の逆立った髪はどこか小麦を連想させる。サイズ的には人間とほぼ変わらないが、これは人間に変化しているだけで、実際のサイズはウサギなどの小動物程度の大きさだ。
「開墾し終わったら種を蒔いて欲しいんだけど、今は春だからじゃがいもとかそこらへんでよろしく頼む」
「わかったナー。種の用意も任せるのナー」
よし、女神パワーのおかげで種すら必要なくなった。もしできなかったらどうしようかと思ったが、思ったよりも女神パワーは万能らしい。これでうまい作物ができれば、俺も漂流者達から文句を言われないで済む。
「じゃあ、俺は一通り島の散策をしてくるから」
「了解なのナー」
さて、寝るか。どうせ島の探索自体はゴンさんとかがやるだろうし、下手に動く必要はない。適材適所という奴である。
かろうじて雨が防げる程度のボロ家に入ると、俺は嫌な音を立てて軋むベットに横になる。海で流された疲れからか、まだ日は昇っていたが、思ったよりもすんなりと寝ることができた。飯は明日にしよう。
そして、次の日。起きて外へ出たら農地が凄まじいことになっていた。
「嘘じゃん……」
「あっ、ネイト。おはようなのナー!」
元気いっぱいにこっちへと走ってくるコナー。しかし、俺の意識はコナーではなく彼の後ろの半分以上耕された広大な農地へと向けられていた。
「お前、昨日だけでこんなに耕したのか?」
「うん。僕とカイルとシュワ、あとサラでやったから楽チンだったのナー」
どうやら他の妖精と手分けして作業をしていたらしい。それでもこの状況はおかしいが。
「種蒔きと水やりは?」
「それはまだここだけなのナー」
ここだけ、と言われて畝のある箇所を見てみたが、明らかに地平線の向こうまで畝が見える。
さすがに、ここまで仕事をしてもらった以上、何かしらの形で労ってあげたくなる。というか、普通は労うんだろうけど。
「お前らって何か好きなものとかあるか?」
「うーん……小麦粉かナー。小麦は大地の恵みの象徴で、妖精にとっては女神様以上に力をくれるものなんだナー。というか、小麦粉さえあれば女神様に仕える理由もないんだナー」
それは良いことを聞いた。
つまり、こいつらに小麦粉をやれば、女神よりも敬われるということになるのではないだろうか。問題はどう小麦粉を入手するというところだ。
「とりあえず、腹減ったし飯にしようか」
「ご飯なら昨日のうちに百合根と果物を取ってきたのナー」
何この妖精。有能過ぎるんですけど。
「おお、サンキュー。じゃあ、一緒に食べよう。他の妖精も呼んできてくれ」
「えっ、僕達も一緒に食べていいの?」
「お前らが取ってきたからいいに決まってるだろ」
むしろ、なんで一緒に食べないという結論に至ったのだろうか。
「め、女神様は僕達が食べ物を取ってきても『そこ置いといて』としか言わなかったのに、ネイトは優しいのナー!」
本当に感激している様子で言われた言葉にコナー達妖精が不憫になってくる。あの女神、さては俺以上のニートだな。
これなら妖精達をこちら側に引きこんで女神を孤立させることも不可能ではなさそうだ。
それから、朝食を取った俺はコナーに農場を任せて街の方へと向かった。
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