第2話 ニート、女神と遭遇する
現在、俺の前には神聖なオーラのようなものを身に纏った清楚系美人が泉の上に浮かび上がっていた。
整った目鼻立ちに翡翠色の瞳、瞳と同じ色をした長髪は波のように揺らぎ、女神の神性さ際立たせていた。
「はじめまして、私はこの島を守護する女神。イワイ・ネイトさん、あなたにお願いがあって、こうしてここまで来ていただいたのです。話すと長くなるのですが――」
どうやらこの島は女神の加護を受けているらしく、それ故に自然豊かな土地なのだそうだが、女神の力は信仰心に依存するから力が足りなくなって近海で嵐が起きた、とのことだ。
つまり、信仰心ある人間が集まれば、この島は土地は災害も起きない豊かな島になるということだ。
「それで、俺は何をすれば?」
相手が人外だからか、はたまた謙った態度だからか、思ったよりもすんなり言葉が出てくる。
「私が力を取り戻すためにこの島を発展させてほしいのです。あとできれば毎日捧げものをしていただけると、より早く力が戻るかと……」
「すみません、無理です」
「えっ」
思ったよりも面倒なことになりそうなので速攻で断る。コミュ症に島を発展させるとかどんな無茶振りだよ。無理に決まってんだろ。
「いえ、あの、ちょっと待ってください! 私や妖精はあなたにしか見えないのです。あなたしか頼れないんです!」
ふむ、それはいいことを聞いた。今のところ俺にしか見えないということは、この女神は俺のようなポンコツに頼らざるを得ない状況ということだ。これは使える。
「いやいや、俺はそんな大層な人間じゃないんで」
「待って! ホントに待って! このままだとホントにヤバイのよ! 助けてよ、お願いよぉぉぉ!」
神聖なオーラはどこへやら。女神はその場を去ろうとする俺に泣きながらしがみついてきた。
「そう言われましてもねぇ……俺、すぐそこの土地を開墾して作物を育てなきゃいけないんですよー。一緒に漂流した仲間達も餓死しちゃうでしょ?」
「そ、それなら、この子にあんたが働けない間、代わりに仕事をさせるから!」
「えっ」
すぐ傍に控えていた妖精は「なんで俺が?」という表情で女神を見上げる。
「こ、こう見えてもこの妖精は私の力の一部を使えるから畑仕事くらい楽勝よ!」
「なるほどねぇ……でも、この島を発展させるにはあちこち駆けずり回って大変な思いをしなきゃいけないわけでしょ? だったら、俺は農家でのんびりスローライフを送りたいなぁ」
わざとらしく口笛を吹いてそう言うと、女神は体を震わせて赤いオーラを発し始めた。
「こっちが下手に出てれば着け上がって……あんた、いい加減に――」
「あー、頼みごと断ろうとしたら逆ギレされちゃったー、やる気なくなっちゃったなぁ! かーえろっと」
「ああ、ごめんなさい! 帰らないで!」
そう、この状況。
女神は俺が理不尽な要求を突き付けてもほとんど断れないのだ。存在を認知できるのが俺しかいない。そのうえ、俺は女神の事情を全て知っている。
俺の要求を飲まなければ、女神が独自に動いても邪魔することもできるのだ。幸いこの島は自然が豊かだし、俺が死ぬまでにこの島が女神の力が枯渇してなくなることもないだろうし。
女神がこんなに自然が豊かなのに焦っているのは単純だ。女神だし、どうせ長生きなのだろう。その長い時間の中でようやく現れた女神を認知できる人間が俺だけ。
その俺を逃したら、次はいつ自分を見ることができる人間が現れるかわからない。そんなことをしている間に女神の力が消えていくことを恐れているのだろう。
だからそこに付け込ませてもらう。
「仕方ない。条件付きでお前の手伝いをしてやってもいいぞ」
「うぐっ……お、お願いいたします」
試しに高圧的な態度を取ってみたが、女神は屈辱に顔を歪ませるだけで特に襲いかかったりはしてこない。うん、実に気分が良い。
「まず、妖精を俺の代わりに働かせること。これはそっちが出してきた条件だし当然だよな」
「え、ええ、そうね」
妖精を働かせれば俺が働かなくても済む。これはかなりありがたい話である。
「次に俺に女神の加護的な物をかけろ。どんなもんかよくわからんが、疲れを感じなくなるとかそういう効果あるがあるやつかけられるんだろ?」
「な、なめないでよね! 女神の加護さえあれば、疲労を感じないどころか怪我もしなくなるし、水中でだって息ができるようになるし、この島の野生動物が襲ってこなくなるんだからね!」
「マジか」
「マジよ!」
それは予想以上に凄い効果だ。
やろうと思えば、素手でもクマとかイノシシとか狩猟し放題なのではないだろうか。
「いくわよ! はぁぁぁぁぁ!」
「おっ、おお! なんか力が湧いてくる!」
やる気は湧いてこないけど。少なくとも普段から体が軽くなるような感覚にはなるようだ。
女神パワーを実感した後、俺は最後の条件を女神に突き付けた。
「あと、適宜お前の力が必要になったら呼び出すから、その時は俺の指示に従え」
「はい……うぅ、どうしてこんなことに……」
がっくりと項垂れて女神は泉の中へと沈んでいった。傍から見ると、ちょっと危ない光景である。
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