第7話 ニート、シスターと出会う
港町シーサイドタウンから帰ってきた次の日。
いつものように小麦粉を補充しに雑貨屋へ向かうと、町はちょっとした騒ぎになっていた。
「うーむ、困ったのう……」
どうやら絶対に関わり合いたくない面倒事が待っていたようだ。さっさと逃げよう。
「あ、ネイトじゃん」
だが残念、ユイさんに見つかってしまった。それと同時に町の住民の視線が俺に集中する。
「……何かあったんですか?」
「この島に新しい子が来たんだけど、言葉が通じないのよ」
仕方なく事情を聞くと、ユイさんは簡潔にそう言って顎を刳った。示された方向を見てみれば、そこには見覚えのない女の子が不安そうな顔でおろおろしていた。
女の子は修道服に身を包んでいる。青い瞳とウィンプルから出ている金髪から察するに外国人だろう。海外から来たシスターといったところだろうか。大方、あのチラシの女神の島ってところにつられて来たのだろう。
それから、彼女は縋るように俺の方を向いて口を開いた。
「は、はじめまして、エリシャ・アシュリーと申します」
…………はい? 普通に喋れるじゃん。
むしろ、とても流暢である。一体どこに言葉の不自由があるのか理解に苦しむ。
そこで俺はあることに気がついた。
そう、女神の加護である。自動翻訳とは恐れ入った。
ここで言葉が通じるとわかるとこの子の面倒を見ろと言われかねない。
そんな面倒事はごめんだ。
「ごめんなさい。俺も何を言っているのかわからないです」
その瞬間、エリシャは物凄い表情で俺の顔を二度見した。
……この反応だと俺のしゃべった言葉も自動翻訳されているようだ。
「そうか、ネイト君もダメか……」
「ええ、力になれず申し訳ないです」
「ちょ、ちょっと、そこのあなた! 私の言葉わかってますよね!? なんで他の人は何も言わないんですか! 言葉通じてますよね!?」
俺の言葉だけしっかりと通じているエリシャは混乱したように叫ぶ。彼女からしてみれば、俺だけエリシャの母国語でしゃべっているのに、他の人達との会話が成立しているような状況だ。混乱するのも無理はない。
「ねえ、ネイトを指さして何か言ってるみたいだけど」
「気のせいじゃないか?」
ユイさんが訝しげな表情を浮かべるが、あくまでもシラを切る。だって面倒臭いから。
「じゃあ、俺は農場に戻るから」
「はいはい、仕事頑張ってね」
「ちょっと待ってくださいよ!」
エリシャが何か言っているが通じていないふりをして、俺は農場に戻っていった。
「おかえりなのナー」
「ああ、ただいま」
農場に戻ると、コナー達妖精がトウモロコシやトマトの世話をしていた。見た感じ、そろそろ収穫できそうだ。売り上げはもちろんのこと、獲れたての野菜を食べるのも楽しみなのである。
「町の方で何かあったのナー?」
「いや、何も――」
なかった。と、言おうとしたところで後ろから誰かが走ってくる気配がした。
「はぁ、はぁ……見つけました」
「うわ、追いかけてきたのかよ」
息を切らしながら走ってきたのはエリシャだった。
どうやら、必死に坂道を駆け上がってきたようだ。
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