第29話 ニート、動物達を連れて牧場へ向かう
さて、牧場主には運ぶ準備が出来ていると言ったが、大型の馬車の用意があるわけではない。
コナーの妖精式土地拡大法により俺の住んでいる山の標高は以前よりも高くなっている。ロープウェイも現在は改修工事中。かといって、山道を使って動物を運ぶのは骨が折れる。
普通に運べば、の話だが。
「ネイトさん、山道への道はあっちですよ」
俺が山道とは違う方向に歩き出したため、エリシャが声をかけてくる。
「今は運搬用の場所へ向かってるからこっちであってるぞ」
「運搬用の場所、ですか?」
そもそも、馬車もなく、ロープウェイも完成していないときから、大量の野菜を普段どうやって山から下ろしていたか。
その答えは単純だ。
「ネイト、待ってたのナー。動物は無事買えたのナー?」
だいたいコナーがなんとかしてくれる。これに尽きる。
「おう、予定よりも安く仕入れられて馬も付いてきたぜ」
「それは良かったのナー」
「それじゃあ、予定通り頼む。メグミさん、その馬が動かないように宥めててもらえませんか」
「わかりました」
俺は動物達を指定の位置に誘導すると、コナーに合図を出した。
「はあぁぁぁぁぁ……」
コナーが両手をパンと打ち付けて力を掌に集中させる。
「ナナナのナー!」
気の抜けるかけ声と共にコナーは両手を地面に叩き付ける。
その瞬間、俺達の立っている半径十メートル圏内の地面が爆発的に盛り上がった。
「えぇぇぇぇぇ!?」
「ヒヒーン!?」
「どうどう……」
「お前ら、動くなよ」
加護を込めた俺の言葉によって驚いた動物達は一斉に大人しくなる。馬の方もメグミさんが宥めてくれているので、かろうじて大丈夫だ。
そのまま地面は盛り上がり続け、ものの数秒で俺達は山の上に到着した。
「な、何なんですか今のは!」
到着するなり、エリシャが顔を青くして叫んでくる。そういえば、エリシャはこの方法を使って山を登るのは初めてだったな。
「ん、何って……」
「僕の力で大地を盛り上げたのナー」
「ま、天然のエレベーターって奴だな」
荷物が多い出荷時はこうしてコナーに頼んで野菜などを山から下ろしているのだ。最初こそ驚いたが、何ヶ月もこんな方法を使っていればいい加減慣れてくるというものだ。
「さ、さすが女神様のお力です……」
エリシャは女神の力に感動しているが、よっぽど怖かったのか、いつものように声に覇気がない。
「というか、メグミさんはよく平気でしたね」
「ええ、女神の守護する土地とは聞いておりましたから」
それだけで納得する辺り、この人も大概女神脳だ。美人で性格も良いから結構タイプなんだがなぁ……あの女神を崇拝しているという時点で残念な気持ちになってしまう。
とはいえ、メグミさんが優秀なことに変わりはない。彼女に見合った給料が出せるよう、しっかりと稼がなくては。
「それじゃあ、メグミさん。牧場の方はお任せしますね」
「かしこまりましたわ」
牧場に動物達を連れてきて、一通り施設の説明を終えた俺は、あとのことを任せて自宅へと戻ったのであった。
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