第35話 ニート、収穫祭を開く
残暑も終わり、季節は秋。
山一体が燃えるような赤色に染まり、紅葉が眩しい季節だ。
観光地として知名度を上げたおかげか、街は紅葉狩りにきた観光客達で盛り上がっている。
そんな中、俺達牧場経営組は、
「コナー、ここの予算もっと削ってくれ!」
「これ以上削ったら、クオリティが落ちるのナー!」
「エリシャ、新商品の〝飲めるチーズケーキ〟の進捗はどうなってる!?」
「試作してみましたが味は問題ありません。ただ食感がいまいちなので改良が必要です!」
「カイジ、巨大鍋はどうなってるんだ!」
「……すまん、材料が足りなくて作業が滞ってる」
「この書類の山が片付いたら鉱山で採掘してくる! それまでセルフソフトクリームマシンのメンテを頼む!」
――猫の手も借りたい程の大忙しだった。
時は一ヶ月前に遡る。
メグミさんが来てから、女神牧場はひとまず普通の牧場として営業を開始した。
エリシャも事務仕事を手伝ってくれるようになったため、女神牧場には新たに事務作業用のプレハブ小屋を事務所として建設した。
ちなみに、俺が退勤後にすぐ帰宅したいという理由で、事務所は俺の暮らしているボロ屋のすぐ隣に建設されている。もはや自宅の改造など夢のまた夢である。まあ、さすがに雨漏りと隙間風くらいはカイジが直してくれたが。
閑話休題。とにもかくにも、女神牧場の経営状態は順風満帆だった。
牛乳をはじめとする乳製品の売れ行きは好調で、観光牧場の施設も順調に建設されていた。その時点では、観光牧場のオープンまでかなりスケジュールが巻けていたのだ。
そこで俺は観光牧場のオープンを小麦が収穫できる秋に合わせた。
秋ならば、紅葉狩りに来ている観光客の集客も見込めるし、小麦はコナー達妖精にとって力の源である。日頃から世話になっている感謝の意を込めて、記念すべきオープンは秋にすることにしたのだ。
しかし、その話をこの島の観光協会に持っていったところ予定外のことが起きた。
「いやぁ、観光牧場とは素晴らしい! ネイト君もすっかり牧場主が板についてきたな!」
「ありがとうございます。それも全て俺に牧場を任せてくれたゴンさんのおかげですよ」
「はっはっは、嬉しいこと言ってくれるじゃないか! このこの~」
ゴンさんへのおべっかなど慣れたもので、知らない人と話しても言葉に詰まることがなくなった。人と話すのは好きではないが、俺が牧場のトップである以上、そうもいかない。
取引先とは最近開通した電話でやり取りすることも多いし、観光協会にはしょっちゅう顔を出している。そのせいか、いちいち人の反応に怯える余裕すらなくなったのだ。
「それで、本日は観光協会の方で宣伝をお願いしたくて参りました。どうでしょうか?」
「そんなのいいに決まっているだろう! そうだろう、みんな!」
ゴンさんの掛け声に同調するように観光協会の人達は「もちろんさー!」とテンション高く酒を掲げる。いや、会合中に酒飲むなよ。
酒を飲んでいようが、話がそこで終われば問題はなかった。
問題が起きたのは、続くゴンさんの言葉からだった。
「ネイト君のことだ。また凄いことをする予定なんだろう? いやぁ、楽しみだ! この島が観光客で溢れかえる様子が目に浮かぶよ!」
「えっ」
「そうですね。女神牧場さんのおかげで、この島も観光地として有名になりましたもんね。ネイトさん、期待してますよ!」
「ちょ」
「そういえば、都会に住んでる親戚から聞いたんだけど、都会の方でも女神牧場は話題になっているみたいよ。〝勢いが止まらない! 女神牧場、次なる一手は!?〟って感じで!」
「おおう……」
「ワシも嬉しくなってしまってな! 先日会った取引先に酒の席で、『女神牧場がまた凄いことをする予定だ』と話したよ! はっはっは、楽しみにしておるぞ、ネイト君!」
「は、ははっ、ま、任せてくださいよ!」
こうしてプレッシャーに負けた俺は、スケジュールを大幅に調整してオープンの日に合わせて大規模なイベント〝収穫祭〟を開くことにしたのだった。
そして、その結果がこの未曽有の繁忙期である。
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