第40話 ニート、自分の仕事を理解する
それからどれほど寝ていただろう。
働かなきゃいけないのに身体が動かないことがこんなに辛いことだったなんて思いもしなかった。
「調子はどうよ、クソニート」
「……女神か」
いつもは泉でしか顔を合わせなかった女神と、今は部屋の中で向き合って話をしている。
そのことに違和感を覚えていると、女神はため息をついて説明する。
「ここはあんたの夢の中よ」
こんな夢を見るのは初めてだ。メグミさんもこんな風に夢で女神と出会っていたのだろうか。
ぼんやりとそう考えていると、女神が俺の顔をまじまじと覗き込んできた。
「どうやら体調は大丈夫みたいね」
ふと、夢の中のはずなのに意識が遠のいていく感覚に襲われる。
すると、女神が俺に向かって手をかざした。
まだ何かくれるのだろうかと思っていると、女神はそのまま掌で俺の顔に触れた。
温もりを感じる。じんわりと心が温まるような感覚を覚えた。
「あんたがいなくても現場は回るわ」
「そりゃそうだ。俺なんて超無能な人間に超有能な力が宿っただけのニートだからな」
俺なんて最初からいない方が良かったのだ。異物混入もいいところである。
「そうじゃないわ。あんたは収穫祭に向けて細かくスケジュール調整をしていたでしょ。エリシャを筆頭にみんなであんたの穴をなんとか埋めているの。それはあんたが引き継ぎ資料をしっかり作っていたからできたことよ」
「そんなの当たり前だろ」
「その当たり前ができるようになったのよ。異世界でニートだったあんたが」
「知ってたのか」
「当り前じゃない。私、女神よ?」
女神は珍しく女神らしく慈愛に満ちた表情を浮かべると告げる。
「あんたがこっちの世界に来たのは、神々の力の均衡が崩れたことによる事故みたいなものだったわ。故郷に帰れなくなったあんたには悪いけど、私はこの島に来て私を見れたのがあんたでよかったと思ってる」
「こんな役立たずのニートで、か」
「バカね。あんたを役立たずと思ってるのはあんただけよ」
そう言って女神はニッと不敵に笑った。
「あんたの中にある女神の加護。それは紛れもなくあんた自身の力よ。カイジ君も言ってたじゃない――俺達が〝お前の力〟だってね。大丈夫、女神たるこの私が保証するわ」
女神はいつものように無責任ならもどこか安心できる言葉を告げると、ウィンクをした。
不思議な気分だった。こんな駄女神の言葉なのに、その言葉は心に染みわたるように溶けていき、妙に自信が湧いてくるのだ。
しかし、やっぱりこの女神に救われたと思うのは癪である。
「……けっ、女神っぽいこと言ってんじゃねぇよ」
「女神だから言ってんのよ」
いつものように怒鳴らず、女神はただただ優しい笑みを浮かべた。
その笑顔が女神としての顔ではなく、一人の人間としての笑顔のように見えて、俺は思わず目を擦ってしまった。
すると、さっきの威勢はどこへ行ったのか、気恥ずかしさがぶり返してきたかのように女神は捲し立ててくる。
「とにかく! 今日一日はゆっくり休むことね! せいぜい久々の休暇を謳歌しなさい!」
そんなことを考えていると意識が遠ざかっていく感覚が襲ってくる。
どうやら夢の中でもお別れの時間が来たらしい。
「目が覚めたらあんたが思うように行動しなさい。私達が全力でフォローするから」
「ああ、ありがとな……」
俺はゆっくりと意識を手放した。
次に目覚めたとき少しでも動けるように今は体を休めよう。
それが今の俺の仕事なのだから。
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