第二章 良くも悪くも人は集う

第19話 プロローグ 隠された秘密とお呼び出し

配信を終えた次の日。

連休最終日の午前中、蓮司はミネルヴァ施設へと再びやって来ていた。

(一日で刀の鑑定を済ませたのか…凄い速さだなぁ…)

世界で四例目のダンジョン産魔装。

当然ミネルヴァ施設のみならず、国すら驚愕する事態に大慌てで人員を動かしたのだ。

施設職員の苦労が偲ばれる。

(なんか今日の職員さん、若干やつれてる……?)

蓮司はそう思うのも無理はないだろう。

そんな事をぼんやり思っていると、職員から名を呼ばれ奥の部屋へと案内される。

「失礼します。会長、柊様をお連れしました。」

「ああ、ご苦労。」

(会長……!?)

そこに居たのはスーツ姿の初老の男性。

短く刈り上げた白髪に大柄な体格。

ただ座っているだけだというのに滲み出る圧迫感。

その姿に、蓮司もまた気圧されていた。

(俺でも知ってる…ミネルヴァの創始者にして、ダンジョン探索の第一人者、軋間善一きしまぜんいち!)

「はじめまして、柊蓮司君。」

「は、はい、はじめまして!」

厳かな声で話しかけられ、蓮司は緊張したように返す。

その様子に善一は、にかっ、と人の良さそうな笑みを浮かべた。

「ああ、済まない。緊張させてしまったね。まぁまぁ、そこに座りなさい。今お茶とお菓子を用意しよう。」

「あぁいえ、お構いなく!」

まるで孫を見つめるかのような視線に戸惑いながらもソファに座る蓮司。

目の前のお茶とお菓子を恐る恐る食べていると、奥から秘書と思われる女性がやって来た。

「柊様、まずはこちらをお返し致します。」

そう言って、職員は丁寧に『紅月』を蓮司へ差し出す。

「あ、ありがとうございます!」

蓮司もまた、それを受け取ると職員に頭を下げた。

「柊蓮司君。鑑定の結果、それは紛れもなく、8年前に『最初のダンジョン』と呼ばれるところで発見された物だという事がわかった。まさか、『原典』よりも前の代物だったとは思わなかったよ」

「……へ?」

蓮司は一瞬、自分の耳を疑った。

最初のダンジョン産魔装が発見されたのは6年前に出現したダンジョンからだ。

だが目の前の刀は、それよりももっと前に発見された代物だと言われたのだ。

つまり

「これが、いわゆる日本最古のダンジョン産魔装…って事ですか?」

「いや、正しくは世界最古だね。」

「………………」

「蓮司君?」

「会長、あまりのショックで気を失っております。」

「…無理もないか」

柊蓮司、とうとう機械以外の無機物にも敗北である。無理からんことだが。



二分後。何とか再起動した蓮司に一安心した二人は話を進める。

「さて、この魔装は君を主として認めている。君の異能がこの刀と上手く噛み合ったんだろう。現状君の許可無しではこの魔装は加工も異合も出来ない。」

つまり、と善一はそこで言葉を区切る。

「これは正真正銘君の物だ。気をつけて持って行きなさい。」

「え、いいんですか…?」

「もちろん。その方がこの刀も喜ぶだろう。また何か困った事があれば直ぐに言いなさい。」

そう言って善一は蓮司の手を掴み、握手をする。

「ありがとうございます!」

それから『紅月』についてわかった資料を持たされ、蓮司は会長室を後にした。

「よろしかったのですか、会長?」

「何がかね?」

蓮司が居なくなった部屋で、秘書が問いかける。

「あの刀は世界規模でも貴重な魔装です。それを一探索者、それも学生に持たせて良かったのですか?」

「残りのダンジョン産魔装も今はほとんど個人が所有してるようなものだろう。『輝煌剣』は別だが。」

「それはそうですが…あれは現行の人工魔装はおろか、残りの三つのダンジョン産魔装の全てを僅かに上回る出力ですよ?」

「だろうな」

「だろうなって、会長はご存知だったのですか?」

「ああ、あの刀を私は一度見ているからね」

まさかの発言に驚愕する秘書。

そんな秘書の様子にに善一はイタズラが成功した子供のような笑みを浮かべる。

「あの刀はかつての私の仲間が振るっていた物だ。見間違える筈もない。」

「かつての仲間…『最初の三人』と呼ばれる、あのパーティーですか?」

「いや、違うよ。その人とはダンジョンの中で出会ったんだ。」

懐かしむように遠くを見る善一。

その目には、どこか憧憬のようなものが浮かんでいた。

「あの刀は、彼が持ってる事に意味がある。時が来れば分かるさ。」

「はぁ…」

「全ては最初のダンジョンに収束する。その最奥の予言者と、いずれ彼は出会う筈だ。」

そう言うと、善一は溜め息をついた。

「……全く、若い者に背負わせる事しか出来んこの身が恨めしいよ。」




(ふぅ…緊張した…)

ミネルヴァ施設のフロントから出口へ向かう蓮司。

手には二振りの刀がケースにしまわれていた。

(まさか代刀そのまま貰えるなんて…二刀流は苦手だからいいっていったんだけどな…)

まさかのお土産に心苦しさを感じていたその時だった。

「!?」

ぞくり、と首筋に悪寒が走る。

今まで感じた事の無い圧迫感が蓮司を襲う。

しかも

(嘘だろ…これだけの重圧なのに、多分これ威圧じゃない、だ!)

ただ視線を寄越す、それだけでここまでの脅威。

だというのにその場所が分からない。

(数は、四。方角も何となく分かる。なのに、姿が見当たらない!?どうなって……)

「ごうか〜く!」

瞬間、それは目の前に降り立った。

おそらくは2階のフロアから跳んで来たのだろう。

恐ろしいのは着地の際に一切音がしなかった事。

だが、異能を使った様子は無い。

おそらくは魔力による身体強化と体捌きだけでこれだけの芸当をやってのけたのだ。

(あれ、この人見た事あるぞ……!?)

目の前にはライトブラウンの髪を肩で切りそろえた少し小柄な少女。

それは、

「勇者…上名延珠かみなえんじゅさん……!?」

「お、私の事知ってるんだ!さんきゅー!」

明るくピースする少女、上名延珠。

それは探索者なら誰しもが知っている名前。

(モンスター個人討伐数一位、文字通り現日本最強クラスの異能者……!)

齢17歳。蓮司より一つ年上なだけだというのに、その圧倒的な実力で日本ランク一位へと上り詰めた少女。

それが今、蓮司の目の前に居た。

「え、何で……」

「詳しい話は上でしよっ!皆も待ってるし!」

「皆……?」

蓮司はそう言われ、二回のロビーに視線を向ける。そこには。

「……え」

白い制服を纏った金髪の爽やかな青年。

巫女服に身を包む黒髪の綺麗な女性。

ゴーグルを頭に掛けた冒険家風の男性。

趣の異なる三人がそこに立っていた。

「……確か、トップクランの…」

「そ!リーダー達!君に話があるんだ!」

何の気なしに、延珠は言う。

「それじゃ、行こっか!」

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