第27話 鷹宮梓という女

三連休中に間に合わず…無念!

──────────────────────(特別異能犯罪対策課…聞いた事がある…確か、十年前に新しく出来たっていう…)

特別異能犯罪対策課、通称『特対』。

ダンジョンと時を同じくして現れた異能者達、及びダンジョン絡みの事件全般を取り扱う為に新設された特務機関である。

その実態は極めて特殊。

訓練、装備、権限、命令系統。

あらゆるものが一般の部署とは異なるという。

(なるほど、配信をみてここに…いや、あの口ぶりからして、前々からあの男に目をつけていたのか?)

現れた女性の言葉から推察する蓮司。

そのまま女性に向かい声をかける。

「こちらは異能を使えず、身体能力も落ちてる!そちらの邪魔にならないように自衛に専念しても構いませんか!?」

蓮司の言葉に女性は頷く。

「冷静な判断と配慮に感謝します!私は鷹宮梓たかみやあずさ!あなたは我々が必ず護ります!」

女性、梓の返答を合図に、二人は動き出す。

包囲網に突っ込む梓と、梓の方向へ走り出す蓮司。

「クソ!せめてガキだけでも仕留めろ!」

「チッ!」

ケンジの声で、男達は再び異能を放つ。

(クソ、なんて往生際の悪い!どうする、一か八か斬り払うか!?)

炎が、岩が、水が、風が、蓮司に殺到する。

回避は不可能と判断した蓮司が刀に手を伸ばそうとした時、梓の声が響き渡る。

「大丈夫です!そのまま体勢を低くして走って!」

「!!」

梓の言葉に従い、蓮司は頭を下げて走り続ける。


『ひいらぎ君走って!』

『よけてひいらぎ君!』

『大丈夫ってどうするつもりなんだ婦警さん!』


迫り来る攻撃にコメント欄にも焦りが広がる。

しかし梓は一切動揺せずに手に持った機械的な拳銃を構えた。

(撃つのか!?でもこの状況じゃ、異能者達の気絶よりも、着弾の方が早​──)

『周辺環境、及び銃撃対象の規定値以上の魔力を確認。トリガーロック解除。音声認証で多用途弾頭マルチパーパスバレットの種類と威力を選択してください。』

蓮司の思考を遮るように、自動音声が流れる。

音の方向を見ると、梓の手にある拳銃からそれは流れている事に気づいた。

炸裂弾バースト!!中位ミドル!!」

梓の声に反応するように、拳銃内のギアが稼働する。

そのままトリガーを引く梓。

四度の発砲。

弾丸は異能者では無く、異能そのものへと向かって行く。

そして次の瞬間、弾丸が炸裂し異能が弾け飛んだ。

「は!?」

驚愕は誰の声か。

放たれた異能の全ては撃ち抜かれ、相殺された。

(なんだあの銃…いや弾丸も特殊なのか!?)

蓮司もまた初めて見る現象に目を見張る。


『なんだ今の!?』

『異能を相殺するくらいの威力の銃!?』

『いや、あの音声からするに弾丸やろ!』


コメント欄も混乱する中、ひとつのコメントが蓮司の目に止まる。


『あれ多分ダンジョン素材を使った対異能装備や!』


「対異能装備……?」

その言葉に、蓮司は以前ニュースで見たことを思い出す。

(特対設立から三年くらいしてから出来た、警察組織の新たな標準装備!でも、あの形のは見た事が無い…って事は、特対専用の仕様か!?)

蓮司の読みは当たっている。

特対設立当時、どれだけの人員や予算を投じても治安の悪化や警察官の被害は免れなかった。

警察内部の異能者を先頭にしたとしても、当時は圧倒的に異能者よりも非異能者の方が割合が多かったからだ。

現在、後天的に覚醒した者を含んだとしても、非異能者の方が割合的にはまだ多い。

故に彼等はそれを装備で補った。

あらゆる国が合同で開発を行い、異能者の発生からおよそ三年もの月日を経て開発された人類技術の結晶。

Anti

Paranormal

Suppression

Weapon

日本語にして対超常鎮圧兵装。

通称APS兵器と呼ばれる物である。

(ん…?待てよ?だとしたらあの人は……!)

「アンカー!!」

蓮司が更に記憶を呼び起こそうとした時、今度は若い男の声が響き渡る。

瞬間、蓮司の体にケーブルのような物が巻き付き、そのまま声の方向へと強引に引き寄せた。

「うおっ!?」

「っとと、すんませんッス、速度が鈍っていたようなので勝手に引き寄せちゃいました」

男の胸板で申し訳ないっスね〜

とどこか気の抜けた声で喋るこの男を、蓮司は知っている。

「貴方は、確かこのダンジョンを勧めてくれた…」

「はい!特別異能犯罪対策課所属、牙塚理人きばづかりひとッス!また会えて嬉しいッスよ!不謹慎ッスけど」

と、子犬のように青年、理人は笑いかけた。

(そうか…あの時の違和感、あの時もこの人はこのの装備を身につけていたのか…)

蓮司の感じた重武装という印象。

それは理人が梓と同じく、機械的なプロテクターや拳銃を身につけていたからだと蓮司は推察した。

「さ、ここは鷹宮課長に任せて、ジブンの後ろにいるッスよ!」

「課長!?待ってくれ、だってあの人はっ!」

「お、流石に分かるッスか?」

まさかの事実に驚愕しながらも、蓮司は心配の声を上げる。

彼女の正体に気付いたからだ。

対異能装備を所持する三つの条件。

一つ、身体、及び精神が極めて健全である事。

二つ、銃器の扱いの練度が一定値を超えている事。

そして最後の三つ、それは────

「そうッス、彼女、鷹宮梓は若くしてトップクラスの異能犯罪者検挙率を誇る警察庁のエースにして───」

つまり彼女は



「日本国内最強の非異能者ッス!!」


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