第12話 機材購入と注文拒否

まもなく分岐点です。活動ノートのアンケート、お待ちしてます。

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翌日。

蓮司はミネルヴァ施設の前にやって来ていた。

(とりあえず1時間前に来とけば問題ないだろ……)

そう思い、入り口付近に目を向ける。

「あれ!?夜凪さん!?」

「ふふふ……おはよう、柊君……」

そこには、目を真っ赤に充血させ、そのせいで笑顔がとても恐ろしい事になっている都香沙の姿があった。

(楽しみ過ぎて寝れなかったから始発と共にやって来ちゃったわ…)

だが、都香沙は全く苦に感じてはいなかった。

何故なら、

(ふふふ……これでお決まりの、『ごめん待った〜?』『ううん、今来たとこ〜』が出来る!)

「夜凪さんごめん、待たせちゃった?」

「ふふふそうよ、天にも昇りそう……」

「そ、そんなに待ったの!?」

失敗。セリフより先に感想が出てしまった。

気を取り直し、蓮司は続ける。

「それで、今日は何を買うの?」

「ふふふ……そうね……海に行きたいわ……」

「買い物で……?」

「おっと、ごめんなさい柊君、ええと、今日は配信機材と各種の設定、それと装備ね。特注の魔装デバイスくらいは、買った方がいいわ。」

トリップから覚め、テキパキと予定を説明する都香沙。

「配信機材か……」

「心配しなくても、私が選んであげるから安心して?」

「ほっ……よろしくね、夜凪さん」

そう言って、2人はミネルヴァの中に入って行く。



「行ったわね」

「行ったね」

「行っちゃったね」

「行きましたな」

「行きましたねぇ」

それを見つめる五つの人影。

そのうち三つは夜凪家の両親と妹の琴音だ。

では残りの二つは誰なのか。

「改めて、そちらの息子さんのおかげで、うちの娘の命が助かりました。父として、お礼を言わせて下さい。」

「いやいや、こちらこそ。そちらの御息女のおかげで、うちの息子の踏ん切りが付いたのです、お礼を言うのはこちらの方ですよ。」

そう。蓮司の両親である。

父の柊虎雄と、母の柊天音。

まさかの両親顔合わせが、施設近くの草むらで発生していたのだ。

「うちの子が強引に息子さんを連れ出してごめんなさい、ご迷惑おかけしますわ。」

「いいえ、助かりましたわ。あの子、父親と同じで初見の機械には固まってしまいますから、アドバイスをくれる人って取ってもありがたいんです」

「そう言っていただけると、助かりますわ。」

「柊さんのお母さん、お肌綺麗……」

「確かに……どのようなスキンケアをしてるか、教えて欲しいですね」

「……?特別な事は、何も……」

「「……!?」」

天音の言葉に衝撃を受ける夜凪家女性陣。

「打ち解けて来たところで、場所を変えますか。後は若い者に任せましょう。」

「そうですな。しかし、娘さんは朝早いんですかな、始発と共にやって来たとか。」

「いや、行動力を斜め上に発揮してるんです。」

「元気ですな……」

そうして五人は、場所を移動して親睦を深めるのであった。





「これがオウルか……」

ミネルヴァ施設、機材部門。

ダンジョン内で使える電子機器や装具等を取り扱う部署で、蓮司は自分の上を飛ぶ配信用ドローン、オウルを眺めていた。

「ええ、それで腕に付けるモニターでオウルの視界と、コメントなんかを見れたりするの。先行偵察なんかにも使えるわ。どっちかって言うとそっちの方が本来の使い方ね。」

「なるほど……便利だなぁ」

ダンジョン発生当初、需要が跳ね上がったのがこういったドローンや無人偵察ロボットだという。

人的被害を抑え、かつダンジョン内の地形やモンスターの生態観察にこれほど適した物はなく、大手の電子機器メーカーはこぞってドローン開発に着手したらしい。

「ほんと、生きてる鳥みたいな飛び方だ……」

「自律行動もするから、戦闘時には自動で安全かつ最適な画角まで退避するの。稼働時間もすごい長いから、おすすめよ。」

「なるほど……うん、これにするよ」

それを聞くと都香沙は近くの職員に購入の意思を伝える。

「それじゃ、梱包の準備の間に、アカウントを作っちゃいましょ。」

「うん、そうだね。」

「それじゃ、とりあえずこのサイトを開いて、メールアドレスを入力して?宣伝用SNSと配信アカウントを連動させましょ。」

「なるほどメールアドレス……メールアドレス!?くっ、こいつまだそんな機能を残して……!?」

「柊君、スマホはラスボスじゃないのよ?」

そんなやり取りをしながらオウルを購入するのだった。



何とかアカウントを作り終えた後、二人は装備コーナーへとやって来ていた。

「ここで魔装を作れるの。オーダーメイドって聞くと時間がかかるイメージだけど魔装は本人を学習して作られるから、アクセサリーを1日付けて過ごしてたらいつの間にか出来てるって感覚よ。」

「確か、魔力の物質化だっけ。すごい技術だよね。」

エネルギーの物質化、あるいは物質のエネルギー化。

ありえない相互変換を唯一可能とするのが魔力である。

メカニズムとしては異能の使用に近い。

光や炎、氷や雷。果ては治癒能力。

多種多様な異能が成立しているのはそれほどまでに魔力というエネルギーがあらゆるものに替えが利くという事に他ならない。

まだ未知の部分が多いのも事実だが、昨今の科学力は魔力の制御をここまで可能にしたのである。

「そうだ、柊君、刀は持ってきた?」

「うん、持ってきたよ。けどこれ、一体どうするの?」

蓮司は背負っていた筒状のケースに意識を向ける。

昨晩の都香沙からの連絡(凄まじい圧力で蓮司と交換した。)で愛用の武器を持って来るように言われていたのだ。

「魔装はある程度武器を収納しておけるの。それだけじゃなく、いつもの刀を魔装と融合させれば魔装の成長に応じて、武器の性能も上がるからとても便利なのよ」

武器だけのオーダーメイドが少ないのはこの仕様のせいである。

一般的な量産品が時間と労力さえかければ一級品の特注武器となる。

故に、基本的に武器はある程度の基準さえ満たせば良い、というのが探索者の常識だ。

「柊君の刀は今でもすごい性能だから、魔装と合わせればもっと凄まじい切れ味になるに違いないわ!」

「……腕が鈍らないようにしないとな。」

剣の道に足を踏み入れたものとして、武器に頼り切りになる訳にもいかない。

とはいえ都香沙の善意を無碍にする訳にも行かないので蓮司は鍛錬により力を入れようと決意するのだった。

…………のだが。




「お客様……!この刀、どちらで手に入れたのですか!?」

「……え?」

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