第3話 憂鬱な朝とクラスメイト
同じ漢字が並ぶとややこしいので、ヒロインの名前の漢字を変更しました。ご迷惑おかけします。
呼び方は変わりません。
──────────────────────
翌日。
父との会話を思い出しながら、蓮司は朝の通学路をとぼとぼと歩いていた。
『いいか、蓮司。お前には素質がある。我が道場始まって以来の、バズる素質が!』
そんなもんいらん、と内心思いながら歩いていると、いつの間にか校門までたどり着いていた。
「おはようございまーす」
「おう、おはようさん柊!珍しく顔色悪いな、大丈夫か?」
朝の挨拶と同時に心配そうな声を掛けてきたのは体育教師の岡部 康平(おかべ こうへい)である。
昨今流行らなそうな熱血ジャージ教師に見えるが、生徒にひたむきに向き合う姿勢から、校内の評判はとても良い。
「いや、ちょっと考え事をしてまして……」
「珍しいな……また、新しい家電を買ったのか?」
「俺そんなに機械に弱そうですか……?」
「そりゃなぁ、職員室のパソコン見て、『うぉっ!でっかくなってる!おのれ……』っていうのお前だけだぞ。なんだおのれって。お前は慣れれば使いこなすのにな……慣れるまで野生の獣みたいに機械を警戒するからな……」
「返す言葉もございません……」
とうとう家族以外にも機械に弱いというイメージを持たれ、朝から心に傷を負う蓮司。
「とりあえず、なんかあったらいつでも相談しろよ?」
「ありがとうございます……」
ひとまず予想外のダメージを乗り越え、一年二組の教室に入る蓮司。
入って早々目に映るのは、自分のクラスメイトでありダンジョンダイバーである夜凪 都香沙 (よなぎ つかさ)がクラスメイトに囲まれている所だった。
「夜凪さん!昨日の配信も凄かったね!1人でオークを10匹近く倒しちゃうなんて!」
「ありがとう。でも、あれは本当にたまたまなの。上手く異能で撹乱出来なかったら、危なかったわ。」
「それでもすげぇよ!あのさ、今度2人でご飯と……」
「抜け駆けすんなよ!夜凪さん!俺とデートに……」
「ごめんなさい、配信でも言ってるけど男の人とそういうのは、好意を持った人としかしないようにしてるの。」
「ですよね……」
「なぁ、それってやっぱり……」
「こら!夜凪さん困っちゃうから、それ以上言わないの!」
「「はぁ〜い……」」
人気者だなぁ、と蓮司は素直に思う。
どこか青みがかった黒い髪に、大人顔負けのスタイル、美貌、そして高い戦闘能力。
チャンネル登録者数3万人超えの現役女子高生ダイバー、それが彼女、夜凪 都香沙である。
(う〜む、夜凪さんに教えを乞う事が出来ればなぁ……)
実際アドバイザーとしてこれ以上無い人間だとは思う。しかし、まだダイバーになると決めた訳でも無いのに彼女の手を煩わせていいものか。迷惑じゃないか、と蓮司が頭の中でぐるぐると思考していると
「おはよう、柊君。難しい顔してどうしたの?」
そう、彼女の方から蓮司に話しかけてきたのだ。
「夜凪さん、おはよう……」
忘れていた。彼女はクラスメイトの機微に聡い。
ましてやクラス全員にちゃんと挨拶をするほどの今どき中々いないタイプの人間だ。
当然蓮司にも挨拶をするのは当たり前な訳で。
「うん、おはよう。それで、どうしたの?何か悩み事?私でいいなら、話聞くけど?」
「え、と、それは……」
僥倖。そう捉えるには蓮司の神経はいささか細すぎた。
(どうする、どうする!?ここで相談して良いのか!?やるかどうかも分からない事で彼女の手を煩わせていいのか!?)
この時、蓮司と都香沙は気付いていなかった。
クラスメイトのほぼ全員が、都香沙に応援するような眼差しを向けている事に。ちなみに向けていない人間は先程デートに誘い玉砕した二人である。その二人も『やっぱりな……』とどんよりしているだけで、悪意はない。
しかし二人は気付かない。その余裕が無い。
彼も、そして彼女もだ。
(まずい……黙り続けていても変だ…!このチャンスを、逃すべきでは無い!)
意を決して、蓮司は都香沙と目を合わせる。
「夜凪さん。」
「なっ、何!?」
何故か上ずった声で返事をする都香沙。悩み過ぎて険しい顔になってしまったか、と蓮司は内心頭を下げる。
「夜凪さん……その、大事な話なんだけど……」
『!?』
都香沙どころかクラスメイト全員が『おっ!?』という表情を取ったことに蓮司は気付かない。
「夜凪さん……俺……っ!」
「みなさーん、朝のHR始めますよ…どうしたんです?」
タイムアップ。
気付けば予鈴はなっており、担任の先生が入って来てしまっていた。
なお、その時自分以外のクラスメイトが、なんだか惜しそうな表情をした事に、蓮司は気付いていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます