第2話 ダンジョンダイバーとは

「バズ……え?」

父親の言葉に首を傾げる蓮司。それを見た虎雄はやれやれと言わんばかりにため息をついた。

「はぁ……蓮司。お前、ダンジョンダイバーを知らないのか?」

ダンジョンダイバー。ダンジョン探索や攻略の様子を動画配信サイトで生配信する者達の総称である。

ダンジョンダイブとライバーを合わせて、ダンジョンダイバー。安直ではあるが変にひねらない分覚えやすい、と蓮司はそう感じたのを覚えている。

「それくらいは流石に知ってるよ……え、まさか父さん、俺にダイバーになれって言ってんの!?」

「おう、そうだぞ。」

「そうだぞって……そんな軽くなれるもんじゃ無いと思うんだけど……ましてやバズるなんて……」

明らかな無茶ぶりに蓮司は狼狽える。

「やる前から諦めてどうする?お前の実力なら視聴者だってすぐに増えるさ!顔も俺に似て悪くないし!」

「もうマイナスポイントじゃん。」

「なんて事言うんだ!」

雷に打たれたような顔で衝撃を受ける虎雄。

しかし蓮司はどこ吹く風だ。

「大体、配信には色々機材が必要だろ?金はまぁ、何とかなるとして、俺はその辺の機械がイマイチ解ってないぞ」

「確かになぁ。お前が新しいエアコンのリモコン見て、5分くらい固まってたの見た時はどうしようかと思ったぞ。思い出してもちょっと笑える。」

「笑ってんじゃねぇぞクソ親父!スマホのアイコン一覧見て、10分以上固まった挙句に、『これがサイバー攻撃か……』って呟いたの覚えてるからな!」

「バカお前何でそんなの覚えてんだ忘れろ!」

この親にしてこの子あり。慣れない機械の前では圧倒的に知能が下がる二人なのであった。

「はぁ……それで?俺がバズって道場の宣伝をしろってのは解った。けど、配信者なんてそれこそ山ほどいる。ダンジョン探索をメインにしてる人なんてその最たるものだろ」

「ダンジョンダイブって言えよ、横文字に弱いなぁ……ほんとに高校生か?」

「うるせぇよ機械音痴。サイバー攻撃克服してから言え。」

煽り合う馬鹿二人。蓮司は気を取り直して続ける。

「俺が言いたいのは、今更ダイバーになったところで、そうそう簡単にバズらないって事!下手に手を出して、埋もれるだけならまだしも変な炎上とかしたらどうすんの?」

「その時はお前のやり方で宣伝してくれたらいい。どうあれやってみて損は無いと思うぞ。視聴者がそれほどつかないなら、そもそも炎上すらしまい。」

「まぁ、確かに……でも、それなら道場主の父さんがチャンネル開けばいいんじゃないの?」

「あぁ……それも考えたんだが……」

そう言って気まずそうに顔を逸らす虎雄。

「……何したの?」

「いや、試しに動画を撮ってみたんだが、信じられないペースで言葉を噛みまくってな、最終的に言語を発する事が難しくなったのだ。」

「致命的に向いてないな……」

「あぁ、母さんに信じられないくらい悲しい目を向けられた……初めて見た……」

その時を思い出し、どんよりしたオーラを漂わせる虎雄。この男、致命的に情報化社会に適していない。

「お前はそういうのは肝据わってるもんな……母さんに似たのかな……」

「う〜ん、そうかもね……」

そう言うと虎雄は蓮司に向き直る。

「蓮司。これはお前の為でもある。」

「俺の?」

「あぁ。お前、ちょっと剣術とダンジョンにかまけすぎじゃないのか。」

「学校の成績は落としてないけど。ていうか道場の息子が稽古にかまけなくてどうすんの。」

「違うそうじゃない!お前の青春はそんなんで良いのかと言ってるんだ!俺がお前くらいの時はなぁ、もっとこう、色々女の子と遊んだりして、稽古とかたまにサボってたりしてたんだぞ!お前ちょっと真面目すぎ!」

「母さんがこの場にいなくて良かったよ。居たら多分物理的に飯が食えなくされてたと思うよ。」

「バカお前やめろよ……有り得ない可能性じゃないんだから……」

今も台所で晩御飯の準備をしている妻、天音の激怒した様子を想像し、身体を震わせる。

「とにかく、俺はお前がダイバーに向いてると思っている。顔も母さんに似ていい感じだし、俺に似て強いし!」

「さっきと違う事言ってない?」

「い、言ってない!それじゃ、ダイバーの件考えといてくれよ!挨拶とか一緒に考えてやるから!」

「なったとしてもそれは別にいいわ。」

そう言って二人は道場を後にするのだった。


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