第4話 異能の歴史と彼女と彼の内心
「はい、それじゃあ今日は改めて、異能の歴史ついて説明しますよ」
朝のHRが終わり、最初の授業。
教壇に立つ教師はどこかのんびりとした口調で授業を進める。
「10年前、世間一般でダンジョンと呼ばれるものが世界中に現れ、それと同時期に現れたのが、特異体質者、今では異能者と呼ばれています。」
当時、ダンジョンに呼応するかのように現れたせいで、異能者達を過剰に警戒、あるいは信奉する者たちが多く現れた。
「当時は異能者への理解がまだ追いついておらず、世界の治安は過去最悪レベルにまで陥った事もあります。」
ですが、と教師はそこで言葉を区切る。
「今では異能者への理解は進み、ダンジョン発生以前とまではいかずとも、ある程度までは治安は回復して来たと言えるでしょう。異能を商売や世の中の為に役立てようとする団体も多く存在します。反面、やはり反社会的な行いをする者たちが増えたのも事実。警察や治安維持団体の中に異能者が少ないのも治安悪化の原因の1つと言えますね。いかんせん、力を持つと欲望に流されやすく
なってしまうのも、人の業と言えるでしょう。」
全くその通りだ、と蓮司は思う。
力は力でしかない。重要なのはそれを如何に使うか。結局の所、人をしっかりと見なければ何も始まらないのだ。
肩書きも人種も関係ない。その人間の心と、向き合わなければならない。
(心……心かぁ……向き合ってないのは俺だよなぁ……)
思い出すのは今朝の出来事。あの時、自分の中の迷いが、言葉を詰まらせた。
(ダイバーなぁ……踏ん切りがつかないなぁ……)
自分の臆病さにうんざりしながら、蓮司は再び手元の教科書に目線を落とすのだった。
夜凪都香沙は悶々としていた。
理由は今朝の出来事である。
『大事な話なんだけど……』
(あの時、彼の瞳は真剣だった。勇気振り絞ろうとして、だけどどこか不安を孕んだ眼差し……)
夜凪都香沙は知っている。
彼女はそのルックスと、性格、何より有名なダイバーということもあり、多くの男性に告白されてもいる。最も、その度に断っているのだが。
(かつて私に告白してきてくれた男子達と同じような表情……)
脳内に再び蓮司の表情が浮かびあがる。
瞬間、彼女の心拍数が跳ね上がる。
(これは、つまり……)
顔が熱を持ち、赤く染る。
(脈アリなのではァァァァァァ!?)
夜凪都香沙。
若くして高い戦闘能力と知名度を持つ彼女は、自分の『片思い』関連の事になると途端にIQが下がるのだ。
(あんな、あんな真剣な表情で大事な話って告白以外無くない!?もうこれは勝ちでしょ、負けはまず有り得ないでしょ!)
何と戦っているのかはさておき、彼女の思考は更に暴走していく。
(あんな朝から悩んだ顔して、しかも私を見るなり更に戸惑っていた……つまりこれは私を朝からずっと意識してくれていたという事では!?)
と、そこで暴走した思考に待ったがかかる。思い出すのは今朝の状況だ。
(いや、待って、待ちなさい夜凪都香沙、柊君は確かに熱い部分もあるけど、それは熱血というより、静かに燃えるタイプ……そんな彼があんなに人が多い場所で朝からいきなり告白なんてするのかしら……?)
柊蓮司という人間は、前に出て目立ちたがるような人間では無い。どちらかというと黙々と、人知れず努力をするタイプだ。
そんな彼が朝からいきなり公開告白なんてするのだろうか……?
(普段の柊君からは有り得ない……つまりこれは……)
カッ!!っと目を開き都香沙は確信する。
(つまりこれは、もう抑えきれないくらい私の事想ってくれてるって事よね!)
ゴール直前のコースアウト。
この女、酷い時はどこまでもポンコツである。
(ふふふふふ……きっと今日の放課後にはもう彼氏彼女になってるわね……いえ、もう御両親に挨拶に行ってるかも……ふふふふふふふふ……)
都香沙の脳内に溢れるのは少し未来の映像。あるいは妄想とも言う。
『夜凪さん……俺と付き合ってください!』
瞬間、都香沙のテンションがピークに達する。
「それじゃぁ夜凪さん、この時起きた異能絡みの事件がどういう物か、答えてもらえるかい?」
「はい!私が勝ちました!!」
「そんな事ある?」
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次回はいよいよダンジョンです。
ご指摘、また不明な点があれば、是非お教えください。
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