第31話 エピローグ1 夜の終わりと来訪者

「この度は、改めてご協力ありがとうございました。」

ダンジョンを出てケンジ達を護送車へと引き渡した後、梓と理人はそう言って三人に頭を下げた。

「こちらこそ、助けられっぱなしで何とお礼を言ったらいいか…夜凪さんもありがとう。来てくれて助かったよ。」

「気にしないでちょうだい。私はただ、恩人に借りを返しただけだもの」

そう言って都香沙は、穏やかに微笑み返す。

魔力を限界まで使った影響か、疲れを隠し切れていなかった。

「それに…君もね。」

そう言って、蓮司はジャージ姿の少年に向き直る。

少年は照れくさそうに頭を下げる。

「いえ!僕の方こそ、憧れの人達の助けになれて嬉しかったです!」

それに、と少年は真剣な顔つきになる。

「あなた達のおかげで、僕は過去を完全に振り切る事が出来ました。今度こそ本当に、前に進めそうです。」

そう言った少年の顔は、憑き物が落ちたかのように晴れやかなものだった。

「そっか」

「はい!それに、僕も配信に復帰して、今度はちゃんと二人とコラボ出来るくらい、有名になります!」

「楽しみだなぁ、配信に関しては君が先輩だし、その時は胸を借りる事にするよ!」


『俺たちも応援するぞ!』

『ショタとなのコラボとか最高か?』

『涙出てきた。』

『俺も。』

『うぉぉぉ、頑張ってくれぇぇぇ!!』


視聴者達も応援コメントを次々と投稿する。

「皆さん…ありがとうございます!」

そう言って少年は勢い良く頭を下げる。

「それじゃぁ、僕はこれで。勢いで飛び出して来ちゃったので、早く帰らないと。」

「あ、待って!名前聞いてもいい?配信音声切るからさ」

「大丈夫ですよ。音声もそのままで。名前公開してますし。改めて、僕は更科斗真さらしなとうまって言います!また会いましょう!柊さん!夜凪さん!」

そう言って、少年、斗真は帰路へと着く。

「んじゃ!自分達もこれで失礼するッス!今度は事件抜きで会いたいッスね!」

斗真くん送るッスよ〜!

と、理人もまた斗真の方へと走って行く。

「柊蓮司さん、夜凪都香沙さん。あなた方のおかげで、事件を解決する事が出来ました。重ねて感謝を申し上げます。」

ですが、と梓の表情が曇る。

「今後もあなた方はこういった事件に巻き込まれるかもしれません。優れた異能者をやっかむ存在は極めて多いのです。まだ異能者と非異能者の確執も消え去った訳では無い…燻っている火種を燃え上がらせようとする動きは未だ多いのです。」

「今回のも、その1つだと?」

「えぇ…最近は異能者を襲撃する闇バイトも多い…資産家が金で異能者を雇って襲わせる、何てケースもあります、どうか充分に気をつけて。何かあれば迷わず我々にご相談ください。」

そう言って、彼女もまた帰路に付く。

帰路に…帰路に…

「鷹宮課長!そっち反対方向ッス!!」

「な、なんですって!?まさか、異能による攻撃…!」

「いや、今週入ってもう五回目ッスよ!道間違えるの!」

「「………」」

鷹宮梓。

警視庁きってのエリート捜査官である彼女は、同時とんでもない方向音痴なのである。

「……何にしても、長い夜だったなぁ…」

疲れたように、気の抜けたように呟かれた蓮司の言葉は、夜風の中に消えていくのだった。







「おはよう!柊君!!」

「うん、おはよう夜凪さ…え?」

翌朝。

いつものように起きた蓮司は、目を疑った。

そこには、髪を後ろで結び道着を来た都香沙の姿があったからだ。

「え、夜凪さん?何で…?」

「決まってるじゃない、今日からこの道場に入門する事にしたのよ。」

「え!?」

都香沙の言葉と行動力に驚く蓮司。

昨晩あれほどの事件があったにも関わらず、これほどアクティブに動けるものなのか。

「どうして急に…?」

「それはね…」

と、都香沙が説明しようとした時、インターホンが鳴り響く。

「…郵便かな?」

と呟くと、玄関の方から声が聞こえてくる。

「たのもー!!」

(古風な人だな…)

今日び、道場でたのもーなどと掛け声をする人が果たしてどれほど居るのか。

ともあれ、来客には違いない。

蓮司は急いで玄関へと向かう。

「はい、どちら様で……?」

扉を開けると、そこには見た事の無い少女が立っていた。

鮮やかな金髪と、青い瞳。

どこか気風のある出で立ちは高貴な雰囲気を醸し出す。

「あなたは……?」

「はじめまして、レンジ・ヒイラギ。私はアリシア・フィルオード。あなたに会いに、イギリスからこちらへ越してきましたの。」

「……へ?」

「どうぞよろしく、お願いしますわね?」

新たな来訪者の登場に、新たなる波乱の気配を感じとる蓮司であった。

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