第30話 灼華繚乱

遅れて申し訳ありません!

──────────────────────紅蓮の炎が蓮司を中心に逆巻く。

尋常ではない熱量。

周囲の水晶は炎に当てられ、赤熱化している。

だというのに、

「熱く……ない?」

都香沙達は一切の熱を感じなかった。

これだけの火炎ならば周囲にいる生物は、呼吸すら困難になるはずだ。

だというのに、この炎は魔物とダンジョンに類する物以外を一切害していない。

(恐ろしく緻密なコントロール…というより、イメージの伝導率が凄まじいんだわ、極めて明確な意思で、彼は攻撃すべき相手を選んでる!)

普通ならまずありえない光景。

これだけの出力をこれほど精密に操作する事など基本的には不可能だ。

魔力の出力にイメージが追いつかない。

だが、今目の前の光景がその常識を否定している。

それを可能としているのはおそらく

「ダンジョン産の魔装……『紅月』」

呟いた直後、紅蓮の華が砕け散った。

「っ、柊く……ん!?」

火の粉が雪のように舞うなか、現れたのは1人の剣客。

黒い馬上袴に脚甲のような脛当て。

上半身は白い着物。

両腕には黒い篭手。

そして見た目以上に変化したのは、蓮司自身から放たれる圧倒的な存在感。

(違う…さっきまでの柊君とは、何もかもが!)

文字通り、数秒前とは次元が違う。

都香沙達は蓮司の背中からそれを感じ取っていた。


『お、おぉぉぉぉ!?』

『侍キタァァァァァァァ!!』

『魔装あるやぁん!』

『これもう勝ったろ!』


コメント欄も興奮に沸く中、蓮司だけは静かに冷や汗をかいていた。

「……これ、まずいな」

刀を持つ手が震える。

わずかでも制御を誤れば、この力はあらゆるものに牙を剥く。

そうなる前に

「最速でカタをつける!!」

全力の踏み込み。

最速で間合いを詰め、一撃で両断する。

その、筈だった。

「ごっ……!?」

『────!?』

結果として、攻撃自体は成功した。

ただしそれは刀剣によるものでは無い。


『どうした!?』

『え、失敗!?』

『凄い勢いで体当たりしたぞ今!』


蓮司は自身の速度を制御出来ず、クリスタルゴーレムの腹に突っ込んだのだ。

砲弾のような突撃を受け、クリスタルゴーレムは尻もちをつく。

蓮司もまた跳ね返るように都香沙達の元へ吹き飛ばされる。

「柊君!大丈夫!?」

「大丈夫!ちょっと目測を誤っただけ!身体へのダメージはほとんど無いよ!」

すぐに体勢を立て直す蓮司だったが、内心焦っていた。

(どうする…今の俺じゃ、まださっきの速度に感覚が追いつかない。かと言ってこの状態で長々と戦闘するのは避けたい…)

自身の状態を上手く制御出来ない以上、自身が自滅するより前に敵を倒す必要がある。

(俺の技の射程距離はそこまで長くない。ましてあの巨体相手ならに接近しないと決定打にはならない。)

蓮司の斬撃の最大射程はせいぜいが10m程。

威力を最大に発揮するなら、その半分といったところだ。

(速度を抑えて、尚且つしっかり構える隙があれば、一撃で奴を仕留められる。)

問題はその隙をどう作るか。

そこまで思案した時、梓と理人が銃を構えた。

「私達が奴の体勢を崩します。一発限りの切り札ですが…この銃で出せる威力は奴を仕留め切れるかは分かりません」

「でも、関節を狙えば、確実に奴には致命的な隙が出来る筈ッス!」

「二人とも…」

その言葉で、蓮司は覚悟を決めた。

「ありがとうございます…!」

「こちらこそ。どうかご武運を。」

その短い会話を最後に、蓮司は刀を納刀、即座にクリスタルゴーレムへと走り出す。

「牙塚巡査は左腕を!私は右足を狙います!」

「了解!!」

ガキン!

と、撃鉄が稼働する。

それは、鎮圧不可能な脅威を『完全に排除』する為の一撃。

「「炸裂バースト極大マキシマム!!」」

引き金と共に放たれた弾丸は、正確にクリスタルゴーレムの右足と左腕を轟音と共に破壊した。


『うぉぉぉ!!』

『すげぇ威力!』

『拳銃から出て良い威力じゃねぇって!!』


思わぬ衝撃に、クリスタルゴーレムは為す術も無く片膝を付く。

『──────!!』

再び鳴り響く咆哮。

周辺の水晶が欠けた部位を修復しようと蠢き出す。

「させるかよ!」

だが、それよりも速く蓮司の刃は狙うべき急所へと迫る。

「核は頭部なんだろ…!なら、そこを叩き斬るまでだ!!」

裂帛の気合い共に、鯉口が爆ぜる。

それは鞘の中で炎熱を蓄え、爆発の衝撃で抜刀する居合の一振。

文字通り、閃光しか認識させないその剣技の名は

「灼陽──煌!!」

決着は一瞬だった。

尋常ではない温度、剣速は、水晶を溶断する。

『──────!?』

水晶の巨人は何が起きたかも分からぬままに

「───御免」

若き剣客の前に、敗れ去るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る