第21話 反響と迫る不穏

「……え?」

四人の意外にもあっさりとした反応に、間の抜けた声を出してしまう蓮司

「いや正直さ、これがよそのクランに行きますとかだったら必死に止めたんだけど、今のとこ、君は個人でやっていくんならいいかな〜って事前に打ち合わせしてたんだよね!」


延珠曰く、大手のクランは同盟を結ぶ事が珍しく無い。

これはダンジョン事故などの有事の際の連携や、稀にではあるが極めて広大なダンジョンを探索する場合の人材の貸し出しなどをスムーズに行う為である。

しかし、どことでも同盟を結ぶかと言われればそうでは無い。

だからこそ彼らは蓮司が同盟を結んでいないクランに加入しようとしている場合は、これを結託して阻止しようとしていたのだ。

「ですが、要らぬ心配でしたね。」

「だから言ったろ!?こいつは根っからの冒険好きだから大丈夫だってよ!」

「ははは、君の直感もバカにならないね。」

三人のクランリーダーも安心したのか、柔らかい表情で談笑していた。

「あ!そうだ!連絡先交換しとこうよ!一緒に探索する時に誘いやすいし、それに何かあった時に連携取りやすいし!」

「はい、そういう事でしたら是非お願いします!」

こうして、蓮司は四人と連絡先を交換した後、帰路へと着くのだった。




翌日。

「先生、おはようございま──」

「い、いかん柊、今はいかん!?」

学校の入口へと到着した蓮司は、いつものように校門に居る教師に挨拶をしようとした時、何故か教師に制止される。

「へ?何でです……!?」

「見て!柊君よ!」

瞬間、生徒の一人が蓮司を見て声を上げた。

そしてそれを皮切りに次々と生徒が殺到する。

「え、何……!?」

困惑する蓮司は咄嗟に動けず、あっという間に生徒たちに取り囲まれてしまった。

「あ、あの何を……」

「配信見たよ柊君!!」

「次も週末にダンジョン行くの!?」

「ねぇ、連絡先教えてよ!」

「あ、私も私も!」

「なぁ、今度コラボしてくれよ!」

矢継ぎ早に言葉をかけられ、あわあわとした声しか出せない蓮司。

教師も解散を促しているが騒ぎに掻き消されてしまい、ほとんど聞こえていない。

(うわぁぁ、こ、これがバズる、かぁ…どうしよう……!?)

一応皆悪意がある訳では無い。

だからこそ邪険にする訳にも、力づくで追い払う訳にも行かない。

しかし一つ一つ答えていたらいよいよ収まりがつかないだろう。

まさに八方塞がり。

と、そんな時だった。

『!?』

蓮司を取り囲む集団の上、2mほど上空が突如強く発光する。

「この光は……」

「あなた達!何をやっているの!」

光に驚き、全員が困惑した瞬間、鋭い声が響き渡る。

声のした方に目を向けると、そこには険しい目つきをした都香沙が立っていた。

「こんな所でいきなり集まったら迷惑でしょう!気持ちは分かるけど、もう少し慎むべきよ!」

普段は温厚な夜凪の怒声に、我に返る生徒たち。「た、たしかに……すまん、柊……」

「ご、ごめんね柊君……」

「あ、いや、大丈夫だよ、応援ありがとうね。」

謝罪をしながら離れていく生徒達に、蓮司もまた丁寧に言葉を返していく。

「夜凪さん、ありがとう。いつも助けられてばっかりだね。」

「いいのよ、私も最初は大変だったし、困った時はお互い様。」

都香沙の言葉を受け、そういえば確かに彼女も最初はこんな風に囲まれていたなと思い出す。

(あの時は確か…ものすごい閃光を放って強引に突破してたっけ。)

当時はとんでもない力技だと感じたが、なるほど確かにあれくらいしなければ、今のような囲みは突破出来はしないだろう。

「柊君、大丈夫?」

「ん?あぁ、大丈夫だよ!」

ぼんやり考え込んでたのを心配したのか、不安そうに顔を覗き込む都香沙に、蓮司は心配無いと笑う。

「ちょっと、夜凪さんの事考えてた。」

「​───────??!?」

瞬間。都香沙の思考が停止と加速を繰り返した。

(……!?!?わ、私の事?私の事を考えてたの!?今目の前にいるのに!?)

日を追う事に沸点が(面白い意味で)下がっているこの女。

年頃の、それも恋する乙女と言えど、この沸騰速度は異常である。

(目の前に私がいて、なのに私の事を考えてる……って事はもうつまり、四六時中私の事を考えてくれてるって事よね!?脳内の私に『おやすみ』とか『おはよう』とか『愛してる』とか『抱かせろ』とか言っちゃってるワケよね!?)

高速で展開される思考は、一気に都香沙を昂らせる。

この女、朝から元気である。

「夜凪さん、そろそろ教室行こうよ」

「それはこっちの私に言っているのね?」

「他にどこに夜凪さんがいるの……?」

「柊君、次から言いたい事は全部こっちの私に言っていいからね?」

「だから他にどこにいるの!?」

困惑する蓮司と共に、都香沙は弾んだ足取りで教室へと向かうのだった。






「疲れた……」

放課後。

げっそりとした様子で帰路に着く蓮司はそう呟いた。

理由は明白、昨日の配信だ。

更に三大クランと勇者パーティが勧誘に動いた事をSNSで発信されたのも大きいだろう。

結果として、休み時間中は殆ど質問攻めにされてしまったのだ。

幸い都香沙が取り仕切ったおかげで、今朝のような騒ぎにはならなかった訳だが。

(またお世話になっちゃった…お礼しないとな……)

そんな事を考えていた時、ぴたり、と蓮司の足が止まる。

(……見られてる。)

感じ取ったのは視線。

それも悪意ある視線だ。

(嫌な感じだ……まとわりついてくる…それにおかしい。昨日会ったあの人たち程力は感じないのに、)

三大クランのリーダーや、勇者とは違う。

彼らですら、視線を感じた時にはある程度方角が探知出来た。

だが今は違う。

彼ら程の力や圧を感じないのに、蓮司は視線の主の居場所を掴めないでいた。

(小さいとか薄いとかじゃなくて、ぼやける…霧の中に居るみたいだ……)

辺り見回し、周囲を探る蓮司。

しかし

(……消えた、か。なんだったんだろ……)

悪意を孕んだ視線に困惑しながら、蓮司はひとまず、遠回りをして自宅へと向かうのだった。





「おお〜危ねぇ、異能使って気配をぼかした俺に気付くかよ……いいねぇ、そうでなくちゃ潰しがいがねぇよなぁ…?」

それを遠方の物陰から覗く男に、蓮司は気付く事は無かった。



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