第6話彼女の実力
『そういえば、なんか今日機嫌良くない?』
『確かに、いつもより笑顔柔らかい』
『鼻歌とか歌ってるしな』
ダンジョンの階段を降りている最中、そんなコメントが都香沙の目に入る。
そのコメントに対して、都香沙はよく聞いてくれたと言わんばかりに答える。
「ふふ、やっぱりわかっちゃう?今日、とてもいい事があったのよ!おかげで6回も職員室に呼び出されたけどね!」
『草』
『6回w』
『何したらそんなに呼び出されるんやw』
と、そんな風に視聴者と会話をしていた時だった。
「Vooooo……!」
「……出たわね。」
二足歩行の豚のような怪物。右手にはどこで拾ったのか、鉈のようなものを持っている。
オーク。危険度Bのダンジョンに出現するモンスターである。
『オークだ!』
『またオークやん』
『よなぎちゃんよくオークと会うよね』
『大丈夫なんですかこれ』
モンスターの登場にコメント欄のリアクションが再び別れる。
常連は信頼を、初見は心配を。
都香沙はそんなコメント欄を僅かに一瞥すると、オークに向き直る。
「オーク、通常個体ね。数は3。現状特に問題はなさそうね。」
今朝のポンコツ具合はどこへやら。
都香沙は冷静に彼我の戦力差を分析、把握する。
(昨日みたいに10体とかだったら困ったけど、撹乱すれば勝てることは分かったわけだし、それに3体ならそもそもその必要もないわね)
問題無し。
都香沙はそう結論付け、剣を持つ手に力を込める。
「オウル、撮影しっかりお願いね?」
その言葉に応えるように、都香沙の後ろをダンジョンの入口からずっと飛んでいた鳥が僅かに上昇する。
自律式鳥型撮影ドローン、『オウル』。
これもまた、ダンジョンの素材によって作られた機材である。
「それじゃ、行きましょうか。」
瞬間。
オーク達の警戒が最大級に跳ね上がる。
不味い。
刃を交えなくとも分かる。
この女は、自分達を確実に殺しうる存在だ──
「遅い。」
見えなかった。反応はおろか、知覚すら不可能な一撃。
文字通り、一閃。
爆発的な加速力を以て、都香沙はオークとの間合いを詰め、先頭のオークの首を跳ね飛ばす。
「Voo!?」
「粗い。」
慌てて鉈を振り下ろすオークの腕をカウンターで斬り飛ばし、怯んだ隙に独楽のように回転、オークの上半身を斬り裂く。
「Voooo!!」
残った最後の1匹が、力任せに腕を振るう。
都香沙はそれを剣の腹で受け止めるが、オークの怪力により、最初に居た位置まで吹き飛ばされる。
「ふーん、さすがに怪力ね。でも……」
直後に、爆発的な光が剣から迸る。そして、獰猛な笑みを浮かべ、
「弱い。」
ゴッ!!!!
と暴風と共に放たれた光が、最後のオークを一瞬にして消し飛ばした。
「戦闘終了、ウォーミングアップにはちょうどいいわね。」
『キター!』
『哀れオーク……』
『今日は最初から飛ばすねぇ!』
『なんすか今の!?』
『眩しかった……』
「あ、ごめんなさい、私の異能は『光』。ビームサーベルとか波動砲みたいな、大体そういうので戦ってるわ。勿論、剣技もちゃんと鍛えてるわよ?」
なんの気無しに言う都香沙に、初見の視聴者は度肝を抜かれていた。
『なんすかその異能!すげぇ!』
『波動砲w』
『こんな高火力女子がおるんか……』
『こりゃ片思いされてる彼も大変ですわ』
「む。彼は大丈夫よ、変な色眼鏡で私を見たりしないもの。さてと、それじゃ先に進みましょ。」
そんなやり取りをしなが、都香沙は歩を進めるのであった。
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