第42話 補助艦艇の戦い

 第四戦隊の「愛宕」と「高雄」、それに第八戦隊の「利根」と「筑摩」が対峙していたのは四隻の「クリーブランド」級軽巡だった。

 最新鋭軽巡である「クリーブランド」級は一二門の一五・二センチ砲を搭載している。

 これに対し、一方の「愛宕」と「高雄」はそれぞれ六門、「利根」と「筑摩」のほうはそれぞれ八門の二〇センチ砲を装備していた。

 もともと、「愛宕」と「高雄」は二〇センチ砲を一〇門搭載していた。

 しかし、航空巡洋艦へと改装するにあたって四番砲塔と五番砲塔を撤去したことで六門に減少したのだ。


 そして、これら八隻の巡洋艦がまともにぶつかれば、不利なのは日本側だった。

 両者の間には門数で二倍近く、発射速度に至っては三倍近い開きがあったからだ。

 互いが装備する射撃管制装置の性能を加味すれば、さらにその差は隔絶する。

 もちろん、二〇センチ砲弾は一五・二センチ砲弾に比べて二倍以上の重量を持つから、この点では日本側が有利だ。

 しかし、単位時間当りの投射量の差を覆すほどのものではない。


 それでも、戦いは日本側の優勢で終始した。

 四隻の「クリーブランド」級軽巡、米軍で言うところの「クリーブランド」と「コロンビア」それに「モントピーリア」と「デンバー」は日本の機動部隊が放った第二次攻撃隊によって甚大なダメージを被っていたからだ。


 四六機の瑞雲の航空攻撃を受けたこれら四隻は、合わせて一三発の二五番を被弾していた。

 いかに最新の防御システムを持つ「クリーブランド」級軽巡と言えども、しかし重巡の主砲弾の二倍以上の重量を持つ二五番を弾き返す能力はない。

 最も少ない被害で済んだ「クリーブランド」で二発、「デンバー」に至っては五発を被弾していた。

 なにより問題だったのは、各艦ともに最低でも一発は機関室に直撃を食らっていたことだった。

 このことで、十全な航行能力を有している艦は一隻も無かった。


 脚を奪われた軽快艦艇は脆い。

 米巡洋艦の置かれた窮状に対し、当然のこととして第四戦隊それに第八戦隊の司令官は容赦なくそこを突く。

 まずは砲撃戦に先立ち、四隻合わせて二八本の酸素魚雷を発射した。


 このうちで、命中したのはわずかに一本だけだった。

 二番艦の位置を航行する「コロンビア」の舷側に巨大な水柱が立ち上る。

 九一式航空魚雷の三倍近い重量を持つ九三式酸素魚雷の威力は絶大だ。

 「コロンビア」は行き脚を奪われ、大量の浸水によって大きく傾く。

 このことによって、一番艦の「クリーブランド」と、それに三番艦の「モントピーリア」ならびに四番艦の「デンバー」が分断される。


 好機到来とばかりに、「愛宕」と「高雄」が二隻がかりで「クリーブランド」に殴り込みをかけ、「利根」と「筑摩」はそれぞれ「モントピーリア」と「デンバー」にタイマンを挑む。


 この中で、最初に決着がついたのは殿で撃ち合っていた「筑摩」とそれに「デンバー」だった。

 砲戦能力は互角かあるいは「デンバー」に分があった。

 しかし、それは互いがイコールコンディションであった場合の話だ。

 戦闘が開始した時、「筑摩」が無傷を保っていたのに対し、「デンバー」のほうは二五番を五発も被弾しており、実際のところは半身不随といってもいい状態だった。


 瑞雲によって艦の心臓を傷つけられ、また四基ある主砲塔のうちの一基を使用不能にされていた「デンバー」に対し、「筑摩」は少なくない一五・二センチ砲弾を浴びながらも二〇センチ砲弾を叩き込んでいく。

 相手に撃ち込んだ弾数は「デンバー」のほうが勝っていたが、しかしその破壊は「筑摩」の艦上構造物にとどまる。

 逆に、「筑摩」が放つ二〇センチ砲弾の多くは「デンバー」の装甲を貫き、艦内部に甚大な損害を与えていった。

 二五番で受けたダメージに加え、さらに二〇センチ砲弾によってさらなる打撃を被った「デンバー」はほどなく沈黙する。

 それを見てとった「筑摩」はすぐにその砲門を敵三番艦へと向けた。


 「デンバー」の次に崩れたのは先頭を行く「クリーブランド」だった。

 第二次攻撃による被害が最も少なかった「クリーブランド」ではあったが、しかしそれは決して軽微なものではなかった。

 中でも機関室に飛び込んだ一発は同艦の航行能力を著しく削り取っていた。


 その弱った「クリーブランド」に対し、「愛宕」と「高雄」は二隻がかりで袋叩きにする。

 「クリーブランド」も果敢に反撃し、「愛宕」に中破と判定される損害を与えるが、しかしそれが限界だった。

 いかに「クリーブランド」級軽巡が優秀ではあったとしても、しかし手負いの状態で二隻の「高雄」型重巡に挑むのはやはり無謀だった。


 「利根」を相手に善戦していた「モントピーリア」は、しかしこちらもまた健闘むなしく勝利を掴むことはできなかった。

 「デンバー」を沈黙させた「筑摩」がこの戦いに乱入してきたからだ。


 このことで勝算無しと見た「モントピーリア」は避退を図る。

 しかし、瑞雲によって機関室に二五番を叩き込まれていた「モントピーリア」は「利根」と「筑摩」の追撃を振り切ることが出来ない。

 逆に距離を詰められ、そして二〇センチ砲弾を散々に叩き込まれる。

 さらには「利根」と「筑摩」が放った第二波魚雷うちの一本が命中、そのことで「モントピーリア」は完全にその戦闘力を失った。


 戦艦とそれに巡洋艦同士の戦いが終わった頃には、駆逐艦同士の戦いも収束している。

 軽巡「阿賀野」とそれに一〇隻の駆逐艦は、一一隻の米駆逐艦を相手に一方的な戦いを演じた。

 一見したところ、双方に大きな戦力差は無いように思える。

 しかし米駆逐艦のほうは一一隻のうちの六隻までが第二次攻撃の際に二五番を被弾し、そのことで航行能力や戦闘能力を著しく減衰させていた。


 一方、このことを承知していた「阿賀野」と一〇隻の駆逐艦は一〇〇〇〇メートルの距離から酸素魚雷で米駆逐艦群を狙い撃った。

 さらに六〇〇〇メートルまで接近したところで第二波魚雷を発射する。


 二波合わせて一七六本が放たれた酸素魚雷のうちで、命中したのはわずかに三本のみだった。

 それなりに距離を詰めて発射したのにもかかわらず、しかし二パーセントに満たない命中率には不満が残る。

 だが、そのことで米駆逐艦は一一隻から八隻へとその数を減じる。

 しかも、失われた三隻のうちの二隻までが無傷の駆逐艦だったから戦力の低下は顕著だ。

 そして、十全な戦闘力を残す米駆逐艦が三隻にまで減ってしまえば、さすがに米駆逐艦戦隊に勝機は無い。

 絶望的な状況において、なお損傷艦を守るために三隻の米駆逐艦は戦闘を継続する。

 それに対し、「阿賀野」と一〇隻の駆逐艦は情け無用とばかりに猛射を開始する。

 そして、短時間のうちにこれら米駆逐艦を刈り取ってしまった。

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