ミッドウェー海戦

第21話 連合艦隊、東へ

 インド洋海戦から一月となる五月五日、永野軍令部総長から山本連合艦隊司令長官に対して大海令第一八号が発令された。


 「連合艦隊はミッドウェーを攻略せよ」


 内容をかいつまんで言えば、そういったところだ。

 もっぱら東への攻勢を志向する連合艦隊司令部とは違い、軍令部のほうは南、つまりは米国と豪州を結ぶ交通線の遮断こそをその基本方針として掲げていた。

 軍令部としては、連合国軍航空戦力による南からの突き上げをなによりも恐れていたからだ。

 しかし、現在はその主義主張を一時棚上げしている。


 その要因の一つとなったのが、先月一八日の米機動部隊による本土空襲だった。

 空母「ホーネット」から発進した一六機のB25は東京や名古屋、それに神戸といった大都市を空襲した。

 このB25による爆撃や銃撃によって五〇〇人を超える死傷者が出てしまった。

 まさに大惨事だ。


 中でも問題とされたのが、東京への攻撃だった。

 もし、米軍にその気があれば、宮城に爆弾が落とされていたかもしれない。

 そうなっていれば、陸軍や海軍のトップが腹を切るどころでは済まなかっただろう。

 いずれにせよ、このまま米機動部隊を野放しにしていれば、それこそ第二、第三の本土空襲という悪夢が現実化してしまう恐れがある。

 ならば、その最大のリスク要因である米空母を早急に排除しなければならない。

 その文脈で立案されたのがMI作戦という名のミッドウェー攻略作戦だった。


 そのMI作戦だが、当初はアリューシャン方面への同時進攻も取り沙汰されていた。

 しかし、こちらは戦力の分散は愚の骨頂という正論の声によって、いつの間にか立ち消えとなっていた。



 第一航空艦隊

 「赤城」(零戦二七、九九艦爆一八、九七艦攻一八)

 「加賀」(零戦二七、九九艦爆一八、九七艦攻三〇)

 「瑞鳳」(零戦二一、九七艦攻六)

 「祥鳳」(零戦二一、九七艦攻六)

 「龍鳳」(零戦二一、九七艦攻六)

 重巡「利根」「筑摩」

 軽巡「那珂」

 駆逐艦「雪風」「初風」「天津風」「時津風」「浦風」「磯風」「浜風」「谷風」


 第二航空艦隊

 「飛龍」(零戦二七、九九艦爆一八、九七艦攻一二)

 「蒼龍」(零戦二七、九九艦爆一八、九七艦攻一二)

 「千歳」(零戦二一、九七艦攻六)

 「千代田」(零戦二一、九七艦攻六)

 「瑞穂」(零戦二一、九七艦攻六)

 重巡「鈴谷」「熊野」

 軽巡「神通」

 駆逐艦「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」「陽炎」「不知火」「霞」「霰」


 第三航空艦隊

 「金剛」(零戦二七、九九艦爆一八、九七艦攻九)

 「比叡」(零戦二七、九九艦爆一八、九七艦攻九)

 「隼鷹」(零戦二七、九九艦爆一二、九七艦攻九)

 「龍驤」(零戦二七、九七艦攻六)

 重巡「最上」「三隈」

 軽巡「川内」

 駆逐艦「萩風」「舞風」「野分」「嵐」「秋雲」「夕雲」「巻雲」「風雲」


 第一艦隊

 戦艦「大和」「長門」「陸奥」

 軽巡「阿武隈」

 駆逐艦「朝雲」「山雲」「夏雲」「峯雲」「朝潮」「大潮」「満潮」「荒潮」


 第二艦隊

 「鳳翔」(九六艦戦八、九六艦攻六)

 「春日丸」(九七艦攻一 ※他に第六航空隊の零戦二一)

 重巡「高雄」「愛宕」「妙高」「羽黒」

 軽巡「名取」「鬼怒」

 駆逐艦「海風」「山風」「江風」「涼風」「村雨」「夕立」「春雨」「五月雨」「白露」「時雨」「初春」「子日」「若葉」「初霜」「有明」「夕暮」

 他に輸送船、油槽船、哨戒艇等



 主力となる三個機動部隊それに二個水上打撃部隊には空母が一六隻に戦艦が三隻、それに一六隻の巡洋艦に四八隻の駆逐艦が配備されていた。

 空母の艦上機は、補用機を含めれば六〇〇機を大きく超える。


 これらのうちで、新たに戦力に加わったのは「隼鷹」と「比叡」だった。

 このうち「隼鷹」のほうは有事の際には空母へと改造することを前提に、大型優秀船建造助成施設による適用を受けて建造が開始された船だった。

 本来であれば貨客船「橿原丸」として産声を上げるはずだったそれは、しかし建造途中で海軍に買収され、そして空母として竣工した。

 商船改造空母ゆえに脚は遅く、さらに防御力も満足できるものではなかったが、しかし常用機だけで四八機を搭載できる能力は十分に魅力的だった。


 一方、「比叡」のほうは、こちらは戦艦を改造したものだった。

 そのことで防御力はそれなりに高く、さらに三〇ノットという高速を発揮できたから、空母としては十分な能力を兼ね備えていた。

 さらに五四機もの艦上機を運用できるので、速力以外は「蒼龍」や「飛龍」とほぼ同等の戦力を持つものと言って差し支えなかった。


 これら新戦力を加えた五個艦隊だが、それらは艦隊ごとに目的が明確化されていた。

 機動部隊のうち、一航艦と二航艦は出現が予想される太平洋艦隊の迎撃にあたる。

 両艦隊に配備された一〇隻の空母は、そのいずれもがマーシャル沖海戦で当時の米機動部隊と干戈を交えた経験を持つベテランばかりだった。


 三航艦のほうはミッドウェー基地にある航空戦力の撃滅を担当する。

 相手が動かない陸上基地ということもあって、こちらは戦闘経験の無い「隼鷹」や「比叡」がその編成に組み込まれていた。


 水上打撃部隊のうち、第一艦隊のほうは機動部隊の前衛として、敵水上打撃部隊が襲来した際には、それを撃退することが求められていた。

 第二艦隊のほうは輸送船団の護衛にあたり、上陸作戦が始まって以降はその支援にあたるものとされている。


 新しい装備も追加されている。

 「赤城」と「飛龍」それに「金剛」と「大和」には新たに二式二号電波探信儀一型が装備されていた。

 この二式二号電波探信儀一型はいわゆる対空電探で、探知距離は単機で七〇キロ、編隊で一〇〇キロとされていた。

 ただし、新兵器にありがちな初期トラブルからは逃れることが出来ず、信頼性においてはまだまだ十分なものではなかった。

 それでも、迎撃戦闘において電探が有るのと無いのとでは雲泥の差が生じることもまた、これまでの訓練で実証されていたから、関係者の期待は大きかった。


 いずれにせよ、これら戦力で連合艦隊は二度目となる太平洋艦隊との決戦に臨む。

 一航艦は南雲中将、二航艦は小沢中将、三航艦は桑原中将、第二艦隊は近藤中将がそれぞれ指揮を執る。

 全体の指揮は第一艦隊に座乗する山本大将がこれを執る。


 連合艦隊司令長官御自らの出陣となったのは、太平洋艦隊をミッドウェー海域に誘引するためだ。

 連合艦隊司令長官の首は、米軍にとっては最高の獲物に映っているはずだ。

 また、そのための宣伝も打っている。

 そのことで、連合艦隊としてはミッドウェー島に対する奇襲はこれを最初から諦めていた。

 そして、予定通りに事が進めば、戦いの火蓋が切られるのは六月五日なるはずだった。

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