第38話 追撃方針決定

 「攻撃隊の戦果ですが、第三艦隊と第四艦隊の連合攻撃隊は『レンジャー』ならびに小型空母二隻を基幹とした機動部隊を攻撃。このうち『レンジャー』を撃沈し、小型空母二隻を大破に追い込んでいます。また、これとは別に巡洋艦一隻と五隻の駆逐艦を撃破しています。二隻の小型空母については、そのいずれにも一本の魚雷を命中させています。そのことで、これら二隻はその場から動いていません。

 第五艦隊ならびに第七艦隊のほうは大型空母それに小型空母をそれぞれ一隻撃沈、大型空母一隻を大破に追い込んでいます。それと、大破した空母ですが、こちらは四発の魚雷を被雷しています。そのことで、第三艦隊ならびに第四艦隊が攻撃した二隻の小型空母と同様に、こちらもまたその場から動けずにいます。これ以外には、巡洋艦一隻と四隻の駆逐艦を撃破しています。

 第六艦隊それに第八艦隊のほうは大型空母二隻それに小型空母一隻を撃沈、さらに六隻の駆逐艦を撃破しています」


 第三艦隊から第八艦隊までの六個艦隊から出撃した五〇〇機余の攻撃隊は、米機動部隊に対して総攻撃をかけた。

 そこで挙げた戦果は凄まじく、六隻の空母を撃沈し、三隻を大破に追い込んだ。

 また、護衛艦艇にも大打撃を与え、二隻の巡洋艦とそれに一五隻の駆逐艦を撃破している。


 これらの中で、第三艦隊と第四艦隊の連合攻撃隊の戦果が小さいように見えるが、しかしこれは他の連合攻撃隊が六六機の天山を擁していたのに対し、第三艦隊と第四艦隊の連合攻撃隊のほうはこれが三六機しか無かったことによるものだ。

 だから、第三艦隊と第四艦隊の搭乗員の技量が、他の艦隊に比べて劣っていたというわけではない

 そして、それら大戦果を読み上げる第三艦隊航空乙参謀の奥宮少佐が一呼吸置き、さらに報告を続ける。


 「航空機のほうですが、こちらは攻撃隊に随伴した零戦は迎撃に現れた二〇〇機近いF6Fと交戦、このうちの半数を撃墜したとのことです。また、直掩隊のほうですが、こちらは襲来した五〇〇機の米機のうちの、実に八割以上を撃墜破しています」


 第三艦隊から第八艦隊までの六個艦隊に用意された七〇〇機近くの零戦は、護衛に防空にと大活躍した。

 攻撃隊に随伴した零戦はF6Fの魔手から彗星や天山を守り抜き、直掩任務の零戦は友軍艦艇に一隻の損傷艦も出さずに米攻撃隊を撃退した。


 「一方、こちらの損害ですが、攻撃隊のほうは零戦が五三機に彗星が二二機、それに五一機の天山が未帰還。また、直掩にあたった零戦のほうですが、こちらは四四機が失われました

 それと、ミッドウェー島を攻撃した第四戦隊ならびに第七戦隊からも損害報告が入っております。こちらは一五機が未帰還とのことです」


 攻撃隊のほうは零戦が二割、彗星と天山がそれぞれ三割を超える未帰還機を出している。

 また、ミッドウェー基地航空隊を蹂躙した瑞雲隊も、しかしその損害は二割を超えてしまった。

 さらに、米攻撃隊を圧倒した直掩隊もまた、一割を超える機体が還ってこなかった。


 全体で失われた搭乗員は三〇〇人を大きく超える。

 機上戦死や再起不能の重傷を負った者も含めれば、さらにその数は膨れ上がるだろう。

 搭乗員の層が薄い母艦航空隊にとっては大打撃だ。


 「すぐに使える機体はどれくらい残っている」


 小沢長官の端的な問いに、奥宮少佐がメモをめくる。


 「米機動部隊への攻撃から戻ってきたうちで彗星は二一機、天山のほうは五〇機について即時使用が可能です。それと、索敵ならびに接触維持任務に従事した三六機の彗星のうち、こちらは二八機が同じく使用可能です。

 それと、零戦については全体で四一三機が同じく稼働状態にあります。

 なお、瑞雲についても報告が上がっており、こちらは二八機が使えるとのことでした」


 米機動部隊を一度攻撃しただけで、彗星と天山はその稼働率が三割以下にまで落ち込んでしまった。

 ただ、彗星のほうは索敵任務から解放された二八機をこれに加えることができる。

 零戦のほうは彗星や天山に比べればマシだとは言えるが、それでも使える機体は戦闘前の七割以下にまで減少している。


 「敵機動部隊に対して第二次攻撃を実施する。彗星と天山、それに瑞雲はすべてこちらに振り向ける。零戦に関しては各空母ともに二個小隊を残し、残りはすべて攻撃に出す。攻撃に出す零戦のうちの半数は敵機動部隊、残る半数はミッドウェー島の攻撃にあたるものとする。同島の攻撃には、使用可能な九七艦攻も投入する。

 彗星は五〇番、天山は魚雷を搭載し、瑞雲と零戦はともに二五番を装備するものとする。九七艦攻は五〇番乃至八〇番だ。なお、敵戦闘機が出現した場合、零戦は爆弾を切り捨ててもらって構わない」


 小沢長官の命令に対し、反対意見を唱える者はいなかった。

 自分たちの目標はあくまでも米機動部隊、中でも空母だ。

 戦艦のような時代遅れの兵器の価値など、それこそ空母の足元にも及ばない。


 一方で、敵航空戦力への備えは必要だった。

 米母艦航空隊のうちで、防空任務にあったF6Fやあるいは攻撃隊のなかで生き残ったものはミッドウェー島にある飛行場に着陸したはずだ。

 ミッドウェー島の基地航空戦力に関しては瑞雲隊がこれを始末したはずだが、しかしそれはあくまでも飛行機だけの話だ。

 滑走路や付帯施設について言えば、こちらはほとんど手つかずのままとなっている。

 自分たちの安全を考えれば、いつまでもこの状態を放置しておくわけにはいかない。

 ミッドウェー基地で燃料や爆弾を補給した敵機が再びこちらに襲撃をかけてくる可能性は極めて低いが、それでもゼロでは無い。

 しかるべき対応が必要だった。


 このことで、米機動部隊に向かうのは一二〇機の零戦と四九機の彗星、それに五〇機の天山とそれに四六機の瑞雲。

 瑞雲の数が増えているのは、第一艦隊の「愛宕」と「高雄」の艦載機も第二次攻撃隊に加わるからだ。

 ミッドウェー島攻撃に参加しなかったことで「愛宕」と「高雄」の艦載機隊はその定数をいまだ維持していた。


 一方、ミッドウェー島攻撃に向かうのは一一七機の零戦で、さらに小型空母に搭載されている九七艦攻のうちの二一機もこの任務に参加する。

 また、各空母ともに二個小隊、合わせて一七六機の零戦が第二次攻撃隊の不在の間、艦隊防空の任を務める。


 第二次攻撃の方針が決定され、それに従って各艦が動き出す。

 深手を負った米機動部隊。

 その彼らにとどめの一撃を加える最大の機会を無駄にするわけにはいかなかった。

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