第27話 今後の方針

 「一航艦ならびに二航艦から出撃した攻撃隊の戦果ですが、こちらは米機動部隊にあった四隻の空母をすべて撃破しています。このうち艦攻隊のほうは『サラトガ』に三本、『エンタープライズ』か『ホーネット』もしくは『ワスプ』の三隻については少ないもので二本、多いもので四本を命中させています。さらに、これら四隻はそのすべてが洋上停止するか、あるいは極低速しか出せない状況になっています。

 また、艦爆隊のほうですが、こちらは八隻の巡洋艦に複数の爆弾を叩き込み、これらすべてを撃破しています。また、このうちの一隻は弾火薬庫に火が入ったらしく、大爆発を起こしたうえで沈没に至ったとのことです」


 第一航空艦隊それに第二航空艦隊から出撃した二三四機からなる攻撃隊は、それぞれ二隻の空母を基幹とした米機動部隊に対して猛攻を加えた。

 同攻撃隊に参加した搭乗員の術力は凄まじく、艦爆隊は巡洋艦を、艦攻隊は空母のそのすべてを撃破した。

 報告にあたる一航艦航空乙参謀の吉岡少佐が一呼吸置き、さらに続ける。


 「ミッドウェー島の航空基地を攻撃した三航艦のほうですが、こちらは滑走路ならびに付帯施設に大打撃を与え、同島の飛行場を使用不能に陥れたとのことです。ただ、被害復旧に長けた米軍であれば、それほど時間をかけずに修復できる可能性も否定できません」


 ミッドウェー島の軍事施設を攻撃した第三航空艦隊の攻撃隊だが、こちらは飛行場とその関連施設に的を絞ったことで、同島の航空機運用能力を喪失させることに成功していた。


 「次に航空機についてですが、一航艦ならびに二航艦からなる攻撃隊の護衛にあたった零戦は一〇〇機近いF4Fと交戦、そのうちの七三機を撃墜したとのことです。また、ミッドウェー島上空で三〇機ほどのF4FならびにF2Aと戦った三航艦の零戦ですが、こちらは二二機の撃墜が報告されています」


 米機動部隊を攻撃した一航艦それに二航艦の攻撃隊には合わせて九〇機の零戦が配備されていた。

 関係者の間で「過剰戦力ではないか」と指摘されたそれらだが、しかし実際のところ九九艦爆や九七艦攻を守り切るにはぎりぎりの数だったらしい。


 「それと、三〇〇機近い米機を迎撃した直掩隊のほうですが、こちらは二〇〇機以上を撃墜、敵の航空攻撃を完全に封じました。その結果、友軍艦艇で損害を被ったものは一隻もありません」


 連合艦隊、中でも三航艦は米機による断続的な空襲にさらされた。

 だが、直掩に用意されていた二一六機の零戦は奮闘し、友軍艦隊を見事に守りきった。

 ただ、こちらもまた攻撃隊に随伴していた零戦隊と同様、十分な数だとは言えなかった。

 迎撃が成功した理由だが、これについては初めて実戦投入された電探と、それに同機材を十分に有効活用できたことが挙げられる。

 しかし、一方で運の要素が大きかったことも事実だった。


 「次に損害ですが、敵機動部隊を攻撃した一航艦ならびに二航艦の攻撃隊のほうは零戦が一九機に九九艦爆が二三機、それに二二機の九七艦攻が未帰還となっています。

 また、ミッドウェー基地に向かった三航艦攻撃隊のほうは零戦三機に九九艦爆が五機、それに四機の九七艦攻が戻ってきておりません」


 米機動部隊を攻撃したうちで零戦は二割、九九艦爆や九七艦攻に至っては三割を超える機体が未帰還となった。

 特に九九艦爆や九七艦攻は敵戦闘機に墜とされたものは皆無だったから、逆に言えばいかに米艦の対空砲火が凄まじかったかということだ。

 また、ミッドウェー島攻撃にあたった三航艦攻撃隊も全体の一割を超える機体が失われている。


 「それから、直掩任務にあたった零戦のほうですが、こちらは三三機が未帰還となっています。ただ、一方で友軍艦隊至近での戦闘だったため、撃墜されたうち一〇人の搭乗員の救助に成功しています」


 迎撃戦闘に関しては、零戦側が圧倒的優位に戦いを進めたはずだった。

 しかし、実際には全体の一五パーセントを超える機体が失われ、搭乗員の戦死も一割を超えている。

 失われた搭乗員のことを考えれば、諸手を上げて喜べるような状況ではなかった。


 それでも、戦闘はいまだ継続中だ。

 まだ、一航艦や二航艦、それに三航艦には成すべき仕事が残っている。


 「すぐに使える九九艦爆それに九七艦攻はどれくらい残っている」


 「攻撃から戻ってきた機体のうち、九九艦爆は三五機、九七艦攻は三一機がすぐに使えます。それと、索敵任務にあたっていた九七艦攻のほうですが、こちらは三〇機が即時使用可能です」


 南雲長官の問いかけに、吉岡航空乙参謀がよどみなく答える。

 あらかじめ、この質問を予想していたのだろう。

 吉岡航空乙参謀の即答に満足の意を込めた首肯を返しつつ、南雲長官は草鹿参謀長と源田航空甲参謀、それに吉岡航空乙参謀を等分に見回す。


 「艦攻は敵空母へのとどめに使い、艦爆のほうはいまだ無傷の敵駆逐艦の攻撃に使用するのが良いと考えます。深手を負った四隻の空母に対して、六一機の艦攻を用いるのは過剰に見えるかもしれませんが、しかしここは念を入れるべきです」


 「私も甲参謀の意見に賛成します。二度目の本土空襲は、これを決して許してはなりません。敵空母は確実に仕留めておく必要があります」


 源田航空甲参謀、それに吉岡航空乙参謀の意見を耳に入れつつ、南雲長官は草鹿参謀長にその視線を移す。


 「私も甲参謀それに乙参謀の意見に異存はありません。ただ、我々は少しばかりその視野が狭くなっているのかもしれません。あまりにも敵機動部隊にその注意が行き過ぎている」


 そう言って、草鹿参謀長は自身の意見を開陳する。

 それを聞いた南雲長官は、すぐにそのアイデアを採用した。

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