第8話 索敵と攻撃
兵棋演習において、機動部隊同士の戦いは一大消耗戦となることが分かっていた。
ただし、これは双方がともに相手の所在を掴んでいた場合の話だ。
逆に一方が敵を知り、残る一方が敵の存在を探知し得ない場合はその限りではなかった。
当然のこととして、敵を知らない側はそれこそ一方的に殴られ続けることになる。
そのような悪夢を避けるためには索敵を充実させる必要があった。
そして、帝国海軍はそのことに忠実だった。
「千歳」と「千代田」それに「瑞穂」と「龍鳳」からそれぞれ三機、「龍驤」から八機の九七艦攻を二波に分けて送り出したのだ。
合わせて二〇機にも及ぶ索敵。
その成果はすぐにもたらされた。
中央やや北寄りの索敵線を担当していた「龍驤」三号機が水上打撃部隊それに空母機動部隊から成る太平洋艦隊主力を発見したのだ。
「八隻の戦艦を基幹とする水上打撃部隊、それに二隻の空母を中心とした機動部隊が、しかもこちらは二群存在するということか」
報告を受けた南雲長官は、太平洋艦隊の戦力が想定の範囲内だったことに安堵する。
もし仮に、米海軍が保有するすべての正規空母をこの戦いに投入していれば、第一航空艦隊はかなりの確率で敗北を喫していたはずだ。
なにせ、米海軍は正規空母を七隻も擁しているのだ。
その艦上機の総数は五〇〇機にも達するだろう。
米海軍の戦力分散に感謝しないわけにはいかなかった。
「空母の最大の敵は空母です。まずは二群ある機動部隊を叩くべきです」
敵艦隊発見の報に興奮を隠せないのか、航空甲参謀の源田中佐が勢い込んで自身の考えを開陳する。
さらに、航空乙参謀の吉岡少佐、それに参謀長の草鹿少将もまた源田中佐の意見に賛意を示す。
そうであれば、南雲長官としてはその決断をためらう理由は無かった。
「発見された敵機動部隊のうち、北にあるものを甲一、南のそれを甲二と呼称する。水上打撃部隊についてはこれを乙一とする」
少し間を置き、南雲長官は正式命令を下す。
「一航戦は甲一、二航戦は甲二をそれぞれの目標とせよ。乙一については当面の間は攻撃を控えることとする」
南雲長官の命令一下、一航戦の「赤城」と「加賀」それに二航戦の「蒼龍」と「飛龍」がその舳先を風上へと向ける。
第一次攻撃隊は「赤城」から零戦一八機に九九艦爆が一八機。
「加賀」から零戦九機に九九艦爆が二七機。
「蒼龍」と「飛龍」からそれぞれ零戦一八機に九九艦爆が一八機。
合わせて一四四機からなる第一次攻撃隊が発艦を開始するのと同時、前衛を務める第一艦隊から緊急電がもたらされる。
「我、敵艦上機ノ接触ヲ受ク」
米軍もまたこちらの存在を探知した。
現時点で発見されたのは第一艦隊だけのようだが、しかし一航艦がいつまでもその姿を隠し続けられると考えるのは、あまりにも楽観的に過ぎるだろう。
(殴り合いとなったか)
南雲長官は胸中で小さくつぶやく。
空母の数は明らかにこちらが優勢だ。
しかし、肝心の艦上機の数においては、こちらは安心できるほどの差は無い。
南雲長官は二の矢となる第二次攻撃隊の準備を急がせる。
第二次攻撃隊は「赤城」から零戦三機に九七艦攻が二七機。
「加賀」から零戦一二機に九七艦攻が二七機。
「蒼龍」と「飛龍」からそれぞれ零戦三機に九七艦攻が一八機となっている。
一方、三航戦の「瑞鳳」と「祥鳳」は上空警戒に携わる零戦の数を増やし、迎撃態勢を整えていく。
常識的に考えれば、太平洋艦隊の空母から発進した艦上機群はまずは第一艦隊にある五隻の空母、その撃破を目指すはずだった。
それでも、戦場では何が起こるか分からない。
しかるべき備えは必要だった。
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