第40話 第一艦隊vs第七任務群

 第二次攻撃隊は敵の水上打撃部隊に猛攻を仕掛けた。

 そして、六隻の戦艦を撃破するなど、大戦果を挙げた。

 この機を逃す手はない。


 全体指揮を執る小沢長官は第七艦隊の戦艦「長門」と重巡「利根」、それに「海風」と「山風」の二隻の駆逐艦、さらに第八艦隊の戦艦「陸奥」と重巡「筑摩」、それに「時雨」と「白露」の同じく二隻の駆逐艦に対して第一艦隊と合流、敵水上打撃部隊に対してこれを捕捉・殲滅するよう命じた。


 また、八隻の重巡とそれに同じく八隻の駆逐艦からなる挺身部隊に対しても同じように太平洋艦隊の追撃を命令。

 こちらは敵機動部隊の残存艦艇の掃討をその任としていた。


 作戦前に十分な艦隊運動の訓練を重ねていた挺身部隊と違い、第一艦隊とそれに第七艦隊と第八艦隊から抽出された戦力はそういった訓練を実施していない。

 だから、陣形も艦隊運動が比較的容易な単縦陣でこれにあたるしかなかった。


 第七艦隊それに第八艦隊からの戦力を加えた第一艦隊は複数の単縦陣で形成されていた。

 中央に重巡「愛宕」と「高雄」、さらにその後方に戦艦「大和」と「武蔵」それに「長門」と「陸奥」。

 左翼には軽巡「阿賀野」と駆逐艦「長波」「巻波」「高波」「大波」「清波」「玉波」。

 右翼には「利根」と「筑摩」、さらにその後方に「海風」と「山風」それに「時雨」と「白露」が位置している。


 第一艦隊が米水上打撃部隊、米軍で言うところの第七任務群をその視界に捉えたのは夜が明けてからだった。

 六隻の米戦艦のうち、一番艦と二番艦は艦上構造物に相当程度の損壊が見られた。

 一方、三番艦と四番艦、それに五番艦と六番には目立った損傷は見られなかったが、しかしその歩みは極めてのろい。

 明らかに水線下にダメージを被っている艦の動きだった。

 また、四隻の巡洋艦もそのすべてについて被弾の後が見受けられ、一六隻あったはずの駆逐艦は、今ではその数を一一隻にまで減じている。


 (それでもやはり米艦は侮れんな。二六五機からなる第二次攻撃隊の術力をもってしてなお撃沈に至ったのがわずかに数隻の駆逐艦のみだというのだからな。逆に言えば、米艦のほうは防御力か対空能力、あるいはその両方が極めて優秀だということなのだろう)


 そのようなことを思いつつ、第一艦隊司令長官の角田中将は各艦の目標、それに砲戦開始距離の指示を出す。


 「目標、『大和』敵戦艦一番艦、『武蔵』三番艦、『長門』五番艦、『陸奥』六番艦。第四戦隊ならびに第八戦隊、目標敵巡洋艦。『阿賀野』ならびに駆逐艦は敵駆逐艦を撃滅せよ。戦艦は距離二五〇〇〇メートルで砲撃を開始せよ。巡洋艦ならびに駆逐艦については、各隊指揮官にこれを任せる」


 角田長官の命令一下、第一艦隊それに第七艦隊と第八艦隊の応援組が行動を開始する。

 「愛宕」と「高雄」の後方の位置に「利根」と「筑摩」が遷移するとともに、その舳先を米巡洋艦のほうへと向けて加速を開始する。

 また、一〇隻の駆逐艦も「阿賀野」の後方に集合し、即席の単縦陣を形成しつつ米駆逐艦群に向けて突進していく。


 観測機からの報告で、米戦艦が置かれた状況については分かっていた。

 一番艦と二番艦は艦上に多数の被爆痕を残している。

 三番艦と四番艦はわずかに喫水を深め、五番艦と六番艦に至ってはそれが顕著だ。

 つまり、一番艦と二番艦は盛大に爆弾を浴び、三番艦と四番艦は魚雷を食らっている。

 そして、五番艦と六番艦のほうは、三番艦や四番艦以上に水線下に破孔を多く穿たれている。

 これらは、第二次攻撃隊指揮官からの報告とも一致する。


 彼我の距離が二五〇〇〇メートルを切った時点で「大和」が砲撃を開始。

 「武蔵」と「長門」それに「陸奥」もこれに続く。


 「敵艦発砲!」


 主砲発射の余韻が収まらないうち、見張りから絶叫のような報告が上げられてくる。

 あるいは米水上打撃部隊の指揮官は、一方的に撃たれることを嫌ったのかもしれない。

 角田長官がそのようなことを考えている間に、「大和」の第一射が着弾する。

 上空の観測機によれば、全弾遠とのことだった。


 (初弾から命中や夾叉を望むのは、さすがに欲張りすぎか)


 胸中で苦笑する角田長官の頭上から、こんどは米戦艦から放たれた射弾が落下してくる。

 立ち上った水柱は見当外れな位置ではないものの、しかし脅威を覚えるほどには近くもない。

 だが、観測機無しで、しかもこれが初弾であることを考慮すれば、相手の腕はそれほど悪くはない。

 むしろ、上等な部類だ。


 「敵一番艦、目標本艦。二番艦、同じく目標本艦。三番艦、目標『武蔵』、四番艦、同じく目標『武蔵』。五番艦、目標『長門』、六番艦、『目標』陸奥!」


 新たに耳に入ってきた見張りの声に、角田長官は自身の予想が的中したことに安堵する。

 敵戦艦が六隻であるのに対し、こちらは四隻。

 そうであれば、こちらの四隻のうちの二隻が二倍の敵戦艦を相手取ることになる。

 そして、それは「大和」と「武蔵」で間違いない。

 最大脅威から討ち取っていくのは集団戦におけるセオリーだ。

 相手の指揮官がよほどの変わり者でもない限り、その常識的なやり方から逸脱することはない。

 そう考えたからこそ、角田長官は「長門」と「陸奥」にそれぞれ対応艦となるであろう五番艦と六番艦を相手取らせたのだ。


 それでも、米新型戦艦と真正面から戦えば、負けるのは十中八九「長門」と「陸奥」の側だ。

 長年にわたって帝国海軍最強戦艦と謳われてきた「長門」それに「陸奥」といえども、しかし所詮は旧式戦艦だ。

 攻防いずれをとっても新型戦艦には遠く及ばない。


 (ただ、それは互いがイーブンの状態で対峙したときの場合だ)


 角田長官は、敵五番艦と敵六番艦が第七艦隊それに第八艦隊の天山によってそれぞれ四本の魚雷を被雷しているとの報告を受けている。

 四本もの魚雷を食らえば、それが空母や旧式戦艦であればまず浮いていられない。

 新型戦艦であったとしても、当りどころによっては十分に致命傷になりうる打撃だ。

 実際、敵五番艦と敵六番艦は相当に喫水を深めているというから、そのような状態の中で四一センチ砲弾を撃ち込まれれば、それこそたまったものではないだろう。

 水中弾を食らえば、それこそひっくり返ってしまうかもしれない。

 ただ、そのような都合の良い偶然は、まず起こることが無いということも、角田長官は理解している。


 その角田長官の元に新たな報告が上げられてくる。

 電探が、西から近づく編隊を発見したというものだった。

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