第6話 太平洋艦隊来襲

 「太平洋艦隊、真珠湾ヨリ出撃セリ」


 オアフ島沖で哨戒任務にあたっている伊号潜水艦からの一報に、第一艦隊と第一航空艦隊はただちに抜錨、舳先を南東に向けて進撃を開始した。

 陣形は第一艦隊を先頭とし、その後方五〇浬に一航艦が位置している。

 機動部隊の前に水上打撃部隊を置く、一般的な配置だ。


 第一艦隊は六隻の戦艦を主力とし、それらに八隻の巡洋艦と一六隻の駆逐艦が付き従う。

 第一艦隊には「龍驤」ならびに「龍鳳」からなる第四航空戦隊があった。

 しかし、この二隻だけでは太平洋艦隊の空母に対抗することは困難だ。

 そこで、南方作戦に従事している第二艦隊から「千歳」と「千代田」それに「瑞穂」からなる第五航空戦隊を臨時編入することで航空戦力の厚みを増している。


 一航艦のほうは三個航空戦隊、合わせて六隻の空母を基幹としている。

 第一航空戦隊は「赤城」と「加賀」、第二航空戦隊は「蒼龍」と「飛龍」、そして第三航空戦隊は「瑞鳳」と「祥鳳」から成る。

 また、これら空母を守るための戦力として、三隻の巡洋艦とそれに一二隻の駆逐艦が配備されている。


 そして、それら空母に搭載される艦上機は零戦か九九艦爆、あるいは九七艦攻のいずれかであり、九六艦戦や九六艦爆それに九六艦攻といった旧式機は完全にその姿を消していた。

 艦上機のそのすべてを新鋭機で固めることが出来たのは飛行機屋の要望が通ったからだ。


 「空母は中古の改造艦で我慢するから、せめて艦上機だけでも新しいものにしてくれ」


 いかに飛行機屋に冷淡な鉄砲屋や水雷屋も、さすがにこの要求については無下にすることが出来なかった。

 中古艦に旧式機というのは、あまりにも哀れ過ぎたからだ。






 「太平洋艦隊はどこに現れるだろうか」


 「まずマーシャルとみて間違いないでしょう」


 一航艦司令長官を務める南雲中将の小さなつぶやきに、参謀長の草鹿少将が律儀に返答する。

 マーシャルは大艦隊の泊地として好適であり、さらに飛行場適地がいくつもある。

 フィリピン救援の足がかりとするには絶好のロケーションだ。


 「敵の戦力構成について、何か続報は入っているか」


 自身のつぶやきを聞かれてしまった羞恥の念を振り切るために、南雲長官は話題を少しばかり旋回させる。


 「今のところ、新しい情報は入ってきておりません」


 南雲長官の問いかけに、首席参謀の大石中佐が打てば響くかのごとく即答する。

 大石中佐に向けて小さく頷きつつ、南雲長官は出撃時点においてレクチャーを受けた敵の戦力予想の記憶を脳裏から引っ張り出す。

 太平洋艦隊の戦力は戦艦が八乃至九隻それに空母が四乃至五隻で、他に十数隻の巡洋艦と三〇乃至四〇隻程度の駆逐艦がこれらに付き従っているものとみられていた。

 戦艦と巡洋艦それに駆逐艦といった水上打撃艦艇は太平洋艦隊が明らかに優勢と言えた。


 しかし、一方で空母のほうは日本側が勝っている。

 敵が最大で五隻なのに対して、こちらは一一隻もある。

 ただ、敵がすべて正規空母で固めているのに対し、こちらは一一隻のうちの七隻までが小型空母だ。

 それゆえに、艦上機の数については二倍ということはなく、せいぜい三割増し程度に考えておくべきだった。


 (それでも、空母が一一隻もあるというのは心強い。仮に洋上航空戦で半数余を無力化されたとしても、それでもなお五隻が残っている計算だ)


 これまでの図上演習において、空母は真っ先狙われる存在であり続け、そのことで撃破されるものが相次いだ。

 実戦でもそこは変わらないはずだ。

 そう考えている南雲長官の元に、通信参謀の小野少佐が息せき切って駆け寄ってくる。

 読み上げろとの意を込めた南雲長官の首肯に、小野少佐が居住まいを正し口を開く。


 「マーシャルの第六根拠地隊より緊急電です。我レ艦上機ノ空襲ヲ受ク。被害甚大、至急来援ヲ乞フ」

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