第30話 新戦力、続々
帝国海軍はハワイ攻略の見込みが立たなくなった時点で、東へ向けての積極的な進攻については、これを一時棚上げとしていた。
もちろん、これは油をはじめとした各種資源と、それになにより搭乗員という人材の不足に伴う措置だ。
このことで、補給の負担が大きいミッドウェー島からも撤退している。
一方で、西への圧力は強めていた。
常に複数の空母をインド洋に配置、これらを通商破壊戦に従事させた。
日本の空母は大いに暴れまわり、英国とインドを結ぶ交通線を完全に遮断した。
この結果、英国は決定的とも言える物資不足に陥った。
同盟関係にあった米国は、困窮にあえぐ英国を救うために兵器よりもまずは生活物資を優先して送らざるを得なくなった。
また、ソ連もペルシャ回廊という一大補給ルートを失い、これが原因で車両の不足が著しかった。
そのうえ英国からの援ソ船団も途絶してしまい、まさに踏んだり蹴ったりといった状況だ。
この影響で、ソ連軍もまた英国と同じように物資の不足に苦しみ、このことでドイツの夏季攻勢に対処することが困難となった。
この結果、同軍は各戦線で敗走を続けている。
そのような中、いささかばかり疎外感のあったイタリアが動き出す。
ドイツと日本に対して、スエズ運河の打通とさらにはそれに伴う欧日交通線の設定を提案してきたのだ。
この提案に、ドイツと日本は熟慮したうえでこれに賛同する。
ドイツは南方で算出されるゴムや油、それに希少金属といった戦争資源が喉から手が出るほどに欲していた。
日本もまた、ドイツの工作機械や電装品、それになにより優れた軍事技術の知見を得たい。
なにより大きかったのは、スエズ打通後はイタリアが地中海ならびにインド洋の防衛に責任を持つと言ってきたことだった。
インド洋にはドイツは潜水艦を、日本は空母を送り込んでいるが、その負担は決して小さくない。
それを、あの出不精のイタリアが面倒を見るといっているのだから、ドイツや日本にこれを歓迎しない理由は無い。
そして昭和一七年一〇月、スエズ打通作戦は実行に移される。
日本側も機動部隊を紅海にまで進出させ、その支援にあたった。
一方、艦隊戦力、特に洋上航空戦力がガタ落ち状態の米国や英国にこれを阻止する力は無い。
そして、昭和一八年に入ってほどなく、スエズ運河は枢軸側がこれを掌握することになった。
それから数カ月後、帝国海軍は改造空母の完成ラッシュを迎えていた。
マーシャル沖海戦が終わってすぐに工事にとりかかった六隻の戦艦改造空母が相次いで就役を開始したのだ。
このうち、最も早く戦列に加わったのは「榛名」と「霧島」だった。
これら二隻は「伊勢」や「日向」それに「山城」や「扶桑」とほぼ同じ時期に改造工事に着手した。
ただ、「榛名」と「霧島」に関しては、同型艦の「金剛」と「比叡」がすでに空母への改造を実施していたこともあり、ノウハウが積み上がっていた。
その分だけ工事も早く済んだのだった。
「伊勢」と「日向」それに「山城」と「扶桑」もまた、夏を迎えるまでにすべての艦が工事を終えている。
当初、これら四隻の工事期間は一年半程度と見積もられていた。
しかし、戦争という非常時だったこともあって工事が加速され、当初予定よりもそれぞれ一カ月から二カ月程度早くその完成をみていた。
ただし、工期を優先したことで、これら四隻の機関は従来のままだった。
それでも、砲塔や装甲といった重量物を撤去したことで相応の軽量化が成され、最も鈍足の「扶桑」でも二五ノット以上の速力を確保している。
空母が増強される中にあって、それらに載せる艦上機のほうも新型の配備が進められつつあった。
零戦は昨年のうちに二一型から三二型に更新されていたが、間もなくそれが四三型に置き換わる。
その四三型の心臓は、これまでの栄発動機から五〇系統の金星発動機に置き換わっている。
栄一二型の九四〇馬力やあるいは栄二一型の一一三〇馬力に比べて、こちらのほうは一三〇〇馬力を発揮するうえに、さらに大排気量に伴う高トルクによって加速も鋭い。
ただ、その分だけ大飯食らいだから、航続距離のほうは相応に低下していた。
四三型は武装も強化され、二〇ミリ機銃は長銃身の二号機銃が採用されている。
二号機銃は二一型が装備していた短銃身の一号機銃に比べて威力が増し、弾道特性が改善されたことで命中率も向上している。
ただ、一丁あたりの装弾数が一〇〇発と少なく、こちらはベルト給弾式の開発が待たれていた。
また、機首にあった七・七ミリ機銃は廃止され、その代わりに両翼に一三ミリ機銃が装備された。
この一三ミリ機銃は米軍機が多用するブローニング機銃の劣化コピー版とも言えるパチもんではあったものの、しかし七・七ミリ機銃とは段違いの威力を有している。
それと、四三型は爆弾搭載能力も強化されている。
従来の二一型や三二型が六番であれば二発が限界だったのに対し、四三型ではそれが四発まで可能となった。
また、新型の投下器が装備されたことで、三三〇リットル増槽に代えて二五番を装備できるようになっている。
九九艦爆それに九七艦攻の後継機もまたその産声を上げつつあった。
彗星と命名されたそれは、九九艦爆を大きくしのぐ速度性能を持ち、さらに五〇番の運用が可能となっている。
ただ、高性能な一方で必要とされる滑走距離が長いことから、小型空母への搭載は見送られている。
天山と呼ばれるそれもまた、九七艦攻に比べて大幅に速度が向上していた。
それと、天山は当初は三三三四キロという長大な航続性能を求められていた。
しかし、マーシャル沖海戦やインド洋海戦、それにミッドウェー海戦で九七艦攻がその防御力の貧弱さによって甚大な損害を被ったことから、天山のほうは航続距離の要件を緩和して、その分だけ防弾装備を充実させている。
これら新戦力をもって、連合艦隊はふたたび太平洋艦隊に決戦を挑むことにしている。
その舞台となるのは因縁の地、ミッドウェーだった。
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