Day27 鉱物

 人魚に教えてもらった道を行くと、岩場の陰にその洞窟はあった。教えてもらった言葉通りなら、引き潮のうちに急いで調べる必要がありそうだ。

 ヴェルデが中に入ると、潮の香りが心地よく立ち込めている。壁や床は海水でひんやりと濡れていた。滑らないように、慎重に足を進める。

 奥に近づくにつれ、岩肌に見える夜光石の数も増えてきた。そしてたどり着いた最奥部には、たくさんの夜光石の結晶が山積していた。潮の流れの影響で、ここに流れつくのだろう。人魚たちの教えに感謝しつつ、夜光石のひとつを拾い上げる。それは彼の手のひらに収まって、淡く明滅していた。

 これで主様へのお土産が手に入った。そう安心したのも束の間。


 ざざぁと波音がして、一気に海水が流れ込んでくる。潮が満ちたのだ。水位はみるみる上昇し、たちまち足首から膝、腰が水に浸かっていく。

 迫る潮の勢いに身動きがとれず、ヴェルデは顔色を青くした。焦れば焦るほど歩みは鈍り、ついに全身が海に飲み込まれてしまう。

 とっさに空気を吸い込んだが、それも長くは持たない。やがて苦し気に泡を吐くと、彼の視界は暗くなっていく。

 意識を手放す直前、彼は誰かの呼び声を聞いた。目の前で大きなヒレがひるがえり、いくつもの手が彼の身体を掴んだ、そんな気がした。


 はっと目を覚ますと、そこは岬のコテージにあるソファの上だった。ヴェルデは慌てて身を起こす。背中に冷や汗をびっしりとかいていた。時計は午前5時を指している。

 あれは夢だったのだろうか? 彼は訝しむ。しかしその右手には、あの時の夜光石が、しっかりと握り込まれていたのだった。

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