Day10 散った

「そうそう、さっきの実験で面白いモノが出来たんだ」

 ある日の夕食後、リヒトが声を弾ませて言った。ポケットから何かを取り出すと、ヴェルデへと掲げて見せた。それは薄紙でできた細長いこよりのようなもので、先端だけ少し色が違っていた。

「ねえ、今から試しに行こうよ」

「ええ、構いませんが」

 一体これは何だろう。疑問に思いつつも、ヴェルデはリヒトと共に玄関から庭に出た。

 

 リヒトは水入りバケツを地面に置くと、「さあ、火を点けるよ」と魔法の杖を取り出した。

「まず、僕からね」

 短杖の先に灯した火を、こよりの先端に近づける。すると火が点いて、見る間に小さな火の玉を形成していく。

 すると、火の玉からぱちぱちと火花が散り始めた。勢いよく咲き乱れる光の花に、ヴェルデは興味津々に見入っていた。

 その時、リヒトの手元が狂って、火の玉はぽとんと地面に落ちてしまった。「あー、残念」と悔し気なリヒト。火の消えた紙紐をバケツに放り込むと、

「ヴェルさんもやってみる?」

と、もう一本を差し出してくる。

 ヴェルデはおそるおそるそれを受け取り、慎重に持った。

 リヒトが点火すると、じりじりと火の玉が生まれ、やがて火花を散らし始める。ヴェルデはじっと動かず、しかしその目は真剣そのものだ。目の前の光景を、一瞬たりとも見逃さないというような、そんな真剣さ。

 やがて火花は尽きて、火の玉はすうっと光を消した。


「ヴェルさん、すごい! 僕、こんなに長くはできないよ」

「ありがとうございます。これは、とても綺麗なものですね」

「うん。そうなんだ。偶然できたにしては、素敵でしょう?」

「ええ、とても」

 二人はそっと目を合わせて、ふっと笑った。

「次は競争にしようか。どっちが長く出来るか勝負だ!」

「承知しました」

「ようし、やろう!」

 静かで真摯な戦いの場を、虫の声が彩っていた。

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