Day21 自由研究

 荷物をトランク一杯に詰めて、入らない分は背中に背負って。帽子をかぶって、お弁当も忘れずに。準備は万端、いざ出発。

「戸締りもヨシ、っと。それじゃあ、行こうか」

 旅支度を整えた二人は、玄関に鍵をかけると庭に出た。

 庭にはアサガオの花が咲いている。支柱伝いにつるを伸ばして、今年も元気に育っていた。朝日が柔らかく降り注ぐ庭。この場所ともしばらくお別れだ。

「行ってきます」

 誰にともなくつぶやいて、リヒトは門扉を押し開いた。ヴェルデは大きなトランクを軽々と抱えて、リヒトに続いて外に出た。

 目指す先は海辺のコテージ。初夏の小旅行は、穏やかな朝の日差しと共に始まる。


 乗り合い馬車に揺られながら、リヒトは手帳を開いて読んでいる。そこに書かれているのは、今回の研究旅行の目標であるさまざまな魔法素材、その詳細な情報だった。手描きの地図やイラストを駆使して、分かりやすくまとめられていた。

 この情報を元に素材を収集していく。それとともに、現地で何か発見があれば合わせて調査するつもりだ。今回向かう海岸地帯はかなりの僻地で、未知の気配にリヒトは期待をふくらませていた。

 そしてヴェルデにとっては、「海」そのものが未知のものであった。実際にそれを目の当たりにした時、彼は何を思うのだろうか。荷物の番をしながら、ヴェルデは移り行く空の色を見つめている。

 目指す場所は遥か彼方。二人はそれぞれの思いを胸に、長い旅路を行くのだった。

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