Day20 摩天楼

「ヘンな夢を見たんだ」

 朝食の席で、大きく伸びをしながらリヒトは言った。肩が凝っているらしく、しきりに首元をさすっている。

「きっと連日のお疲れが出たのでしょう」

 ベーコンエッグの皿をテーブルに置いて、ヴェルデは優しく語りかける。

「ここのところ徹夜続きでしたから」

「なんとか納品期限には間に合ったけどね。ヴェルさんも、手伝ってくれてありがとう」

「滅相もございません。……それで、変な夢、というのは」

「そうそう。聞いてくれる?」

 そうしてリヒトは説明し始めた。

「えーっとね。塔みたいな建物がたくさん建っていてね、僕はそれを空から見てるんだ。建物は四角くて、灰色でね、それでとーっても高さがあるんだ。何百階もありそうな高い高い建物。それで、よく見ると建物の中にはたくさんの人がいて、何か仕事をしているようなんだ。見たこともない不思議な都市だった」

「それは、確かに奇妙なことですね」

 リヒトはベーコンエッグを口に運びながら、うんうんと考え事をしている。

「どうして、あんな高い建物を造る必要があったんだろう。高い所が好きなのかな?」

「巨大な城郭だったり、権力者の墳墓である可能性もあるかと」

「たしかに。でも、あんなに高く造っちゃ、崩れてしまうよ」

「そうですね。神話にあるバベルの塔を彷彿とさせます」

「うん。僕も同じこと思った」

 二人はあれこれ頭をひねり、知恵を出し合った。しかし結局答えは出ず、「ヘンな夢だった」ということで片づけられた。


 徹夜続きの魔術師が見た夢は、未知のチャネルを通じ、遠い未来のとある都市、その中心部の景色へと繋がっていた。その建物が「高層ビル」と呼ばれていることは、二人には知る由もなかった。

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