Day19 トマト

 庭で育てた夏野菜が、収穫期を迎えていた。

 ヴェルデは真っ赤に熟れたトマトを丁寧に一つずつもいでいく。つやつやとして瑞々しい、採りたてのトマト。かご一杯に積まれたトマトを抱えて、ヴェルデは同じく庭仕事をしているリヒトの元に向かう。

「主様、今年も立派に実りましたよ」

 庭木を剪定していたリヒトは、振り返ってヴェルデの方を見て、それからかごの中身に目をやった。とたんに「うへぇ」と顔をしかめる。

「僕、トマトきらい」

「好き嫌いは身体に毒ですよ」

「だって! おいしくないんだもん!」

 リヒトはぷいと横を向いて、すねてしまった。

「食感はぶにっとしてて気持ち悪いし、それにヘンな味がするんだ」

 ヴェルデは黙って肩をすくめた。

「あー、今、呆れたでしょう。子供みたいって!」

「いいえ、ですが、少しでも召し上がっていただかないと」

「いーやーだー!」

 トマトが収穫されるたび、毎年のようにこのような押し問答が繰り返されていた。

 最終的に折れるのはヴェルデの方だ。折衷案として、火を入れて甘くしたトマト料理を作ることにする。夏野菜をトマトで煮込んだラタトゥイユに、トマトソースをたっぷりかけたパスタ。そうすれば、リヒトも食べてくれる。「おいしいおいしい」ともぐもぐ食べるリヒトを見るたび、ヴェルデは安心する。それと同時に、どうしてもリヒトを甘やかしてしまう自分を自覚するのだった。

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