Day18 蚊取り線香
「よし、ついに出来たぞ!」
リヒトは目の前の発明品を見下ろして、満足げに頷いた。それは渦巻状の形をした、虫除けのお香だった。成分を独自に調整して、どんな種類の虫も寄り付かないようにしてある。
二人の家は自然豊かな森の中にあるため、夏場の悩みといえば虫のことだった。
特に、あの蚊という生き物。夏になるとどこからともなく現れては、そこら中をぶんぶと飛び回る。あの耳障りな羽音は煩わしいし、刺されると痒くて仕方ない。うんざりしたリヒトは、研究に研究を重ね、とりわけ蚊が嫌う成分を突き止めた。そうして完成したのがこのお香だ。
「さっそく試してみようっと」
実験室の中でお香を焚き始める。薬効のある煙が立ち上り、少し薬っぽい独特の匂いが漂い始める。
数刻後、机の上にぽとりと落ちた蚊の死骸を見つけて、彼は嬉しさに小躍りした。作戦成功、効果は抜群だ。これで夏の悩みが一つ解消された。
リヒトはこの成果をヴェルデに報告しようと思い立った。喜び勇んで廊下に出ると、ちょうど扉の前にいたヴェルデと鉢合わせる。
立ちこめた煙が廊下に流れる。とたんにヴェルデは激しくせき込んだ。
「主様……この煙は、げほ、ごほっ」
リヒトの判断は早かった。すぐさま実験室に引き返すと、お香に蓋をし、全ての窓を開け放つ。
その日彼の作った蚊取り線香は二度と使われることなく、倉庫の奥で埃を被っている。
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