Day4 アクアリウム

「海、行きたいな~」

「うみ、ですか」

「やっぱり、夏と言えば海、でしょ!」

 ヴェルさんも行きたいよね? リヒトにそう問われて、彼は首を傾げた。

「うみ、とは、どのような所でしょうか」

「え、行ったことないの?」

「ございません」

「あー……そっか、わかった」

 リヒトはうんうんと頷くと、「ちょっと待っててね」と何やら準備に向かった。しばらくしてリヒトが部屋に戻ってくる。一抱えの暗幕と、いくつかの試薬、手のひら大の香炉などをてきぱきと台の上に並べ始めた。

「主様、いったい何を……」

 瓶詰の魔法薬を開け、香炉へと流し込む。虹色の霧が発生して、部屋に充満していく。すると、壁に張られた暗幕に、不思議な景色が浮かび上がった。

 一面の青。しかし、空の色とは少し違う。光の帯がゆらゆらと漂い、水泡がきらきらと立ち上っている。そしてその景色の中をすいすいと移動する、見たこともない色かたちの魚の群れ。

「これが、うみ、なのですか」

「そう、海の中の景色を投影してみたんだ。きれいでしょ?」

「はい、とても」

 ヴェルデは暗幕へと近づいて、興味津々に見入っている。それを見てリヒトはにこにこと満足げに笑っていた。


「今度、ふたりで海に行こうね」

 約束だよ! とはにかむリヒトへと、ヴェルデは手を差し出した。指切りをする二人の背後には、アクアリウムの幻燈がひらひらと踊っていた。

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